独自のアルゴリズムでユーザーの好みにあったニュースを届ける情報キュレーションサービスを提供してきたGunosy。現在では、アドテクや動画、クーポンなどさまざまなサービスを運営しており、エンジニアの力に頼るところも大きい。

同社は、彼らのパフォーマンスを最大化し、テックカンパニーとして技術力を強化していくために、2019年よりエンジニア組織を支える役員陣の体制を整備。また各チームに、リードエンジニアという技術のスペシャリストとしてのポジションを新たに設けた。

今回は、CTOの小出幸典氏、Network Adsチームのリードエンジニア 鈴木雄登氏に、新体制の狙いや、その効果について聞いた。

CTO 小出幸典氏(左)とNetwork Adsチームのリードエンジニア 鈴木雄登氏(右)

技術力強化に向け、マネジメントとスペシャリストを分割

ITエンジニアのキャリアパスが多様化するなか、一部の企業ではエンジニア自身のキャリアプランに合わせてマネジメントとスペシャリストのポジションを用意するという動きも見られる。Gunosyにおいても、2019年からエンジニアの新たなキャリアパスと評価制度を整備している。

こうしたエンジニア組織の改編をリードするのが、現・DMM.comのCTO 松本勇気氏の後任として2019年7月にGunosyのCTOに就任した小出氏だ。「テックカンパニーとして技術力を強化していくため、エンジニア組織の能力の底上げをしようと考えました」と、組織改編の目的について語る。

そして、まずはトップ層の役割の整備から着手。CTO、CDO(Chief Data Officer)、VPoE(Vice President of Engineer)の3名のトップによってエンジニア組織を支える体制に変更した。

CTOは、技術面での意思決定や事業部横断的な技術課題の解決、CDOは、技術とデータを掛け合わせた事業計画やサービスの検討、VPoEは、採用や評価といったエンジニアのピープルマネジメントが主なミッションとなる。

特に、エンジニアの組織づくりについては、CTOとVPoEの2人1組体制で取り組んでいるという。

小出氏は「もちろんオーバーラップする部分もありますが、担当としてメインで行うべき業務は互いに認識しています。これまでになかった課題に直面した際には協働して進めるなど、うまく役割分担しています」と説明している。

リードエンジニアは、プロダクトの”ミニCTO”

Gunosyのエンジニア組織改編のもう1つの特徴は、前述のとおりリードエンジニアという新たな役職を設置したことだ。

従来のプロダクト/プロジェクトマネジメントを行うスタッフは「エンジニアリングマネージャー」とし、それとは別に、技術面での責任を負うスペシャリストとして「リードエンジニア」という新たなエンジニアのキャリアパスを用意したのだ。前者は事業部長とVPoE、後者は事業部長とCTOによる評価が行われる。

「かつては、エンジニアの上にマネージャーがいて、その上に部長がいて……と、管理職がすべてのメンバーを評価する形をとっていましたが、テックカンパニーとして技術力を強化していくには、管理職にならずとも技術力をベースとしたエンジニアとしての能力が評価されるキャリアも必要ではないかと考えていました。

リードエンジニアは、プロダクトの”ミニCTO”という位置づけです。当社では近年、「グノシー」をはじめとする情報キュレーションサービスや、自社広告プロダクトなどさまざまなプロダクトが増えてきています。これらのプロダクトごとに技術的支柱となる人物としてリードエンジニアを立てた形です」(小出氏)

求められるのは、プロダクトありきの発想と幅広いスキルセット

現在、Gunosyのリードエンジニアは全社で5名。今回取材した鈴木氏は、自社広告プロダクト「Network Ads」のリードエンジニアだ。

その仕事内容については「以前は、1エンジニアとして担当するプロダクトを見てきましたが、リードエンジニアになったことで、技術的負債の返済タイミングの判断やAWS全体のコスト管理など、横断的な業務へのコミット量が増えました。他のチームのリードエンジニアと連携しながら進めています」と説明する。より技術全体を俯瞰した考え方が求められるようになったということだろう。

小出氏は、鈴木氏のリードエンジニア任命の理由として、「サーバサイドとフロントエンドのスキルを兼ね備えていて、さらにマネジメントよりも、より技術力を生かしたキャリアを望んでいたということもあり、鈴木を抜擢しました」と、プロダクト開発の遂行力や技術力の高さを評価したためであるとしている。

小出氏が言うように、サーバサイド、インフラ、フロントエンドなど、Gunosyのエンジニアとして求められる専門性は多岐に渡る。一部の技術だけに特化したエンジニアも多いが、同社ではなるべくバランスよく多視点から技術力を評価するようにしているのだという。この裏には、プロダクトやサービスありきで技術の選択をするというGunosyの組織文化がある。

「Gunosyはユーザーに使っていただくものを作っている会社ですので、エンジニアがやるべきことは、ユーザーの課題を解決し、より利用してもらえるようにすること。私はこの部分しかやりたくありません、この技術を使ってみたいんです、という発想ではなく、ユーザーに価値があるのであればチャレンジしてみようとか、ユーザーの安全性を考えてこの技術にしよう、といったように、ユーザーの価値や課題に合わせて技術という手段を選び、自身のロールを拡張していけることが理想です。そのためには、やはり幅広いスキルセットが必要になると思います」(小出氏)

チーム内で自発的にアクションプランが遂行されるように

エンジニア組織の改編からおよそ半年間が経過し、その効果は表れているだろうか。鈴木氏は、「リードエンジニアという肩書がついたときから組織を成長させようという意識を持つようになりました。そのための小さな施策などにはすでに取り組んでおり、たとえば私のチームでは、私とメンバーとの間で技術1on1を始めています」と説明する。

マネージャーとメンバー間ではこれまでにも1on1を行ってきたというが、ピープルマネジメントの意味合いが大きいものだった。

技術1on1では、技術的な弱みを克服するためのタスクの割り振りや勉強方法といった、より深い技術の話をするようにしているという。小出氏も、「技術1on1などのアクションプランが各リードエンジニアから自発的にあがってきて遂行できているということが個人的には嬉しいですね」と評価している。

Gunosyのエンジニア組織や評価制度の変革に向けた取り組みは始まったばかり。CTOとリードエンジニア間の目標設定やエンジニアの技術力評価などに向けた仕組みづくりに関しては、今後も試験的に新しい施策を実施しつつチューニングを行い、より良いものを作りあげていく予定だという。