あらゆる業界にデジタル化の波が押し寄せる一方で、紙のスタンプカードやチラシは依然として街中からなくならない。地方中小企業、特にローカルビジネスを手掛ける企業の多くはデジタル化の波に乗り切れていないのだ。
消費者の利便性を考えると、ローカルビジネスにおけるデジタル化のメリットは大きいといえるが、現場にはそうした余裕や知見がないのが現状だ。
SO Technologies 代表取締役 山家秀一 |
こうした地方中小企業の課題に手を差し伸べようと立ち上がったのが、SO Technologiesだ。ソウルドアウトの連結子会社であったサーチライフおよびテクロコの合併により2019年7月に設立された同社は、「稼ぐ力をこの国のすみずみまで。」をミッションに掲げ、地方、中小・ベンチャー企業に最適なマーケティングテクノロジーの提供に取り組んでいる。
同社創業の経緯からミッション・ビジョンに込められた思い、今後の展開まで、代表取締役の山家秀一(やんべ しゅういち)氏に聞いた。
プロモーション予算の少ない企業をどうサポートするか?
もともとは、ソウルドアウトの取締役COOおよびテクロコの代表取締役社長を務めていた山家氏。SO Technologiesの事業は、ソウルドアウトで感じていた問題意識が根幹にある。
「ソウルドアウトは創業時から一貫して中小・ベンチャー企業のマーケティング支援を手掛けてきました。しかし創業から8年ほど経ち、一定の資金力がある企業のサポートはできているものの、資金力の乏しい中小・ベンチャー企業に対しては微々たるサポートしかできていないことを課題に感じるようになりました」(山家氏)
支援しきれていなかったのは、中小企業だけではない。実は、大手企業でも同様の課題を抱えていたという。共通点は、「プロモーション予算の少なさ」だった。大手企業でも、たとえば新規事業チームなどは、プロモーションに充てられる予算をさほど確保していない。大手Web広告代理店に依頼しようとしても、予算の少ない組織へのサポートは手薄いため、十分なマーケティング支援を受けづらい構造になっている。
「デジタルマーケティング支援においては、コンサルティングと業務代行が発生するなど人の力によるサポートが必要になるため、そこに掛かる費用はどうしても高額になってしまいます。ソウルドアウトの事業に取り組むなかで、人力でやっている限り、プロモーション予算が少額の企業に対しては提供できるサポートに限界があると改めて気づきました」(山家氏)
こうした状況を打破すべく、2018年よりテクロコの代表に就任した山家氏は、人力に頼らないマーケティング支援の手段を探り、テクノロジーの強化に取り組んできた。そしてこの流れを加速・拡大させるべく、営業力に強みのあるサーチライフを2019年7月に統合。こうして、SO Technologiesは誕生した。
地方中小・ベンチャー企業の「稼ぐ力」を近代化する
<Mission>
稼ぐ力をこの国のすみずみまで。
<Vision>
日本中、どこでも、だれでも、カンタンに、
その情熱を稼ぐ力に変えるデジタル集客プラットフォームを創る。
SO Technologiesのミッション・ビジョンには、地方創生において国も重視している「稼ぐ力」という言葉が入っている。山家氏によると「稼ぐ力」とは「売上を上げる」という言葉の表現を変えたもの。売上向上のための手段の1つであるマーケティングは、そこに貢献できると考えた。
「ミッションには、『稼ぐ力を近代化したい』という思いを込めています。情報発信や店舗の予約はWebで、スタンプカードはアプリに、決済はキャッシュレスで……。デジタル化は消費者に求められていることなのに、地方中小企業はなかなか変わることができていない。消費者は近代化しているが、企業の体制は古いまま。私たちはデジタル化によって地方や中小・ベンチャー企業の集客方法、ひいては稼ぐ力を近代化し、それを日本中に広めていきたいんです」(山家氏)
そして、SO Technologiesは、デジタルマーケティング分野における”ファミコン”の提供を目指すという。
山家氏が「ファミコンはサポートがなくとも誰でも直感的に使うことができますよね。私たちも触っているだけで使い方がわかるようなツールを提供したいと考えています」と説明するように、ビジョンにある「どこでも、だれでも、カンタンに」という言葉は、そうした同社のサービスコンセプトを表したものだ。
デジタルマーケティングに取り組みたいが、お金がなかったりやり方がわからなかったりする企業に対して、情熱さえあれば誰でも使えるようなプロダクトを提供したい。そうすれば、日本中誰でもどこでも「稼ぐ力」を手に入れられる状態を実現できる――そんな思いがビジョンには込められている。
近すぎず遠すぎず、”いい塩梅”の言葉選びが重要
外部へのメッセージ発信を目的にミッション・ビジョンを置いている企業も多いが、SO Technologiesはそうではなく、仲間に伝える意識を重要視している。さらに言葉選びにおいては、バランス感にも注意を払ったという。
「ある程度絞ったほうがやることは鮮明になりますが、逆に絞りすぎて鮮明になりすぎると目標が近くなってつまらないものになる。実現可能性も含めて”いい塩梅”の言葉を選ぶのは難しいですよね。戦略もそうですが、言葉を聞いた瞬間に景色が変わったり広がったりするようなものが一番良いと思います」(山家氏)
SO Technologiesが掲げたミッション・ビジョンを受けて、前身のテクロコ時代から関わっている社員からは「いよいよ本格的にやっていくんですね」という言葉をかけられたこともあるという山家氏。
「前から在籍している人間にとっては納得感のあるものになっていると思います」と評価しつつも、浸透はまだこれからだと話す。
浸透はもちろん、きちんと実行に移せているかどうかということはさらにその先にある問題だ。むしろ言葉をきちんと思い出せなかったとしても、社員誰もが行動をとれている状態が理想だろう。
その境地に至るまで、山家氏は時間を掛けて浸透させていくとしている。
ローカルでニッチな情報にも光を
山家氏に今後の展望を聞いたところ「究極は、企業が発信したい情報とそれを求めているユーザーしかいない世界」と語ってくれた。
現在は、企業が発信したい情報を持っていたとして、Facebookに投稿すべきなのか、同じFacebookでも広告にすべきなのか、そうではなくLINEの広告なのか、LINEの公式アカウントを使うべきか……情報を届けるための手段が乱立しており、その企業や情報に合った最適な方法がわかりづらい状態であると言える。
さらに、プラットフォームを決めたとしても、各プラットフォームに広告の種類が複数あり、それぞれにテキストやクリエイティブのフォーマットが異なる。コンテンツを作り分けなければならないが、人手や資金力が十分ではない地方中小企業が自らの力で実践するには、あまりに負担が大きい。
一方で、こうした状況は情報の受け手にとっても不便だ。
山家氏は「これは自分の個人的な体験なのですが、子どもと一緒に梨狩りに行きたいと思ってネットで調べてみても、欲しい情報にぜんぜんたどり着けなかった。しかし、いざ梨狩りに現地へ行ってみると、求めていたような梨園はたくさんあるんですよね。農園にデジタルマーケティングをできる方がいないので、欲しい人と発信したい人が結ばれていない不幸な状況が生まれてしまっているんです」と、自身の経験を踏まえながら地方中小企業と消費者が抱える問題点について説明する。
集客手段をデジタル化し、テクノロジーを活用することで、企業がその規模によらず適切なマーケティングを行えるようになれば、こうしたローカルでかつニッチな情報にも光が当たるようになる。そうした時代が到来したときにこそ、地方中小企業は「稼ぐ力」を持つようになるのだろう。