働き方改革の必要性が叫ばれるようになって久しい。各企業でもさまざまな取り組みが進められているが、「成果がでない」「上手くいかない」「具体的に何をしたらいいのかわからない」といった声も多い。正しい働き方改革のあり方について考えるべく、マイナビニュースは11月27日、「マイナビニュースフォーラム2019 Autumn for 働き方改革」を開催した。
本稿では、コンサルタントとして500社以上の働き方改革に携わってきたクロスリバー 代表取締役の越川慎司氏による基調講演「会社と社員が成長する改革~1.9万時間の企業支援で学んだ勝ちパターン」の様子をお届けしたい。
「働き方改革=ITツールの導入や人事制度の改正」ではない
近年、国をあげた働き方改革が進み、各企業もさまざまな取り組みを行っている。だが、クロスリバーの調査によると、働き方改革に成功している会社は12.4%とあまり芳しくない結果が出てしまっているという。この理由について越川氏は、「成功の定義が決まっていないため」「目的と手段を履き違えているため」という2点を指摘する。
「働き方改革は手段であるはずなのに、多くの企業が働き方改革をすること自体が目的になってしまっています。まずは正しい目的を設定することが重要です。そして、会社の成長と社員の幸せを両立させるといった成功の定義をきちんとすること。ITツールの導入や人事制度を変えること自体は、働き方改革の目的にはなりません」(越川氏)
働き方改革というとまず思い浮かぶのは、残業時間の削減や生産性の向上だが、越川氏は「”時間生産性”を目指すと失敗する」と、断言。「時間を減らすだけでは企業は成長しない。目指すべきは”事業生産性”。短い時間で利益を上げるという発想で考える必要がある。ただ業務時間を短くして終わりでは利益は上がらない」と、時間生産性ではなく、事業生産性を高めるべきだと主張する。そして、そのためには企業の体質改善を行う必要があるという。
人間の体質を改善するには、ぜい肉を落とし、筋力を増やすことが重要だ。越川氏によると、企業にとってぜい肉を落とすということは、無駄な業務時間を減らす”超時短”を達成すること。そして、筋力を増やすということは”学び方・もうけ方改革”を行い”働きがい改革”につなげること。そうした体質改善を行うことによって、事業生産性が向上していくのである。
こうした改革を行うには、順序が重要だと言う越川氏。「社員の働きがいを高めながら、まずは業務の棚卸しをして、無駄なことを減らさなければならない。しかし、それだけで終えてはダメ。浮いた時間を再配置して、社員の学び方改革、売上向上を目指す”もうけ方改革”につなげるべき」だと説明する。
働きがいを感じている社員を支援する
では、従業員にとっての”働きがい”とは何だろうか? クロスリバーで大手企業22社16.2万人に「あなたにとって働きがいとは何ですか?」というアンケートを行ったところ、「特になし」という回答が全体の25%を占めたという。越川氏は、「こうした”特になし社員”を動かそうとすることは難しいので、まずは一度でも働きがいを感じたことのある75%の社員を支援することが重要」だと説く。
「社員が働きがいを感じる要素は、『承認』『達成』。これらを得るには、定量的な目標を設定する必要があります。目標は売上でなくとも、資料をもっとシンプルにする、隣の部署と話をする、といったような行動目標でかまいません。目標を達成した際には、きちんと承認することが大切です。
また、好きな仕事を好きなようにやりたいという『自由』に働きがいを感じる人もいます。ここで忘れてはいけないのは、自由には責任が生じるということ。職責を明確にして、それを達成する社員には自由を与えるというかたちにすべきです」(越川氏)
これを実現するためには、マネジメント層と従業員が横並びで一緒になって行動目標を考えなければならないだろう。越川氏は「忖度や過度な気遣いが長時間労働を生む。心理的安全性を上司と部下のあいだで構築することが働きがい改革の鍵となる」と語った。