データ活用の重要性が叫ばれるようになって久しいが、そうした風潮が生まれる遥か前、ビッグデータという言葉すら生まれていなかった2004年に創業し、一貫してデータ分析および関連サービスを提供してきたのがブレインパッドだ。

「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」というミッションを掲げた同社は、当初、顧客の手が回らないデータ活用の領域を見つけてデータサイエンティストを送り込み、業績向上につながる改善ポイントを探し続けてきた。データの重要性に早くから気付いたパイオニアである。

ブレインパッド 代表取締役社長 草野隆史氏

今回は、ブレインパッド 代表取締役社長 草野隆史氏にデータビジネスに着目した経緯やミッション・ビジョンに込めた思いについてお話を伺った。

2000年代前半に「データを活用すれば価値のあるサービスが生まれる」と直感

草野氏が2004年に仲間とともに5名で立ち上げたブレインパッドは、2011年に東証マザーズ上場、2013年に東証一部に市場変更。これまで支援した企業は1,000社を超え、ビッグデータ活用時代の追い風に乗って、順調に成長を続けてきている。

なぜ、草野氏はビッグデータという言葉すら生まれていなかった2000年代前半にデータ活用に目をつけたのだろうか。そのきっかけは、草野氏が2000年に友人と起業したフリービット・ドットコム(現・フリービット)での経験がもとになっている。

当時は、ナローバンドからブロードバンドへの移行期でもあり、インターネットが家庭にも普及しはじめた時期でもあった。

インターネット上で完結するビジネスが次々に登場し、インターネットでサービスを提供する企業に膨大な量のデータが集まってきている様子を目の当たりにした草野氏は「データから今何が起こっているかを明らかにできなければ、正しい意思決定ができない時代が来る。逆に、データを活用できれば、価値のあるサービスを生み出すことができる」と直感した。

特に、人口減少が進む日本では、生産性の向上は必須だ。生産性を上げるためにデータ活用のニーズが増えていくと草野氏は予想した。フリービットの新規事業としてデータ活用ビジネスを行うことを考えたが、当時は会社としてそこに割けるリソースがなかったため、「周りが注目する前にやらなければ」という思いの強かった草野氏は、課題意識に共鳴した4名の同士を集め、会社をイチからつくることを決意した。

創業後は、マーケティング関連のデータ分析からスタートした。

クレジットカード会社や証券会社など、分析用としては整っていなくとも、何かしらのデータが残っていると想定される会社にまずは当たっていったという。

「金融商品の購買傾向やクレジットカードの不正予測、通販用ダイレクトメールの発送最適化といった仕事から始めました。データを直接管理しているかは関係なく、データ分析結果を活かせる方を見つけて説得することが大切だと気づきました。当初は情報システム部門などに売り込みに行っていましたが、あまりうまくいかず、ビジネス部門の人たちに声を掛けるという流れに早々に切り替えました」と草野氏は振り返る。

現在では、100名を超えるデータサイエンティストたちを武器に、企業のビジネス創造と経営改善を支援する「ビッグデータ活用サービス」や、レコメンドエンジン搭載プライベートDMP「Rtoaster」などのマーケティングソリューションを提供する「デジタルマーケティングサービス」など、データ活用に関するさまざまなビジネスを手掛けている。

創業時から一貫しているミッション、時代の流れに合わせて決定したビジョン

<MISSION>
データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる

<VISION>
Analytics Innovation Company
ビジネス・顧客体験・オペレーションにおいて
先進的で実践的なデータ活用の実績を生み出し続け、
世の中にインパクトを与えるデータ資本社会のリーディングカンパニー

ブレインパッドのミッションは「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」。

これは、創業期から一貫している。

「創業当時の問題意識にも通じますが、日本の人口が減っているなか、このまま放っておくと労働人口が足りなくなるのは自明です。無駄を減らして生産性を高めていかなければなりません。また、廃棄ロスがないよう発注したり、配車のルートを最適化したりできれば、環境問題にも貢献することができます。やり方次第で減らせる無駄だらけだった当時の状況を見て、データを活用して現実社会を効率化することで、持続可能な未来をつくっていきたいと考えました」(草野氏)

一方で、実際のビジネスとミッションとのバランス感には長年課題を抱えていたのだという。草野氏は「創業から10年くらいは正直『ミッション負け』していると感じていました。確かに無駄は減っているものの、それが日本の未来につながっているかといえば、まだ弱い部分が多かったと思います」と説明する。

しかし、「ここからは待ったなしです」と草野氏。

「社会に影響を与えられるような仕事を依頼していただける信用と実力が確立していく一方で、どういう仕事を選んでいくかということが重要です。いくらビジネスになるからといって、短期的な視点で最適化してしまうと、未来へつながらないものになってしまいます。私たちがやろうとしている仕事は本当に未来を変えるような仕事なのか? ということを常に自問自答しながら進んでいくことが求められています」と語る。

「Analytics Innovation Company」というビジョンは、現・ブレインパッド代表取締役会長の佐藤清之輔氏が社長だった2015年頃につくられたものだ。ミッションを実現するために、会社が実現しなければいけないビジネスを反映させたものとなっている。

これについて草野氏は「IoT技術の普及によって、リアルタイムに取得できるデータが増えてきたという背景があります。リアルタイムのデータはリアルタイムに処理することが求められますので、機械学習などを活用してインテリジェントな処理をソフト化し、システムに組み込む必要が出てきたと言えます。このアナリティクスとエンジニアリングの組み合わせでイノベーションを起こせる会社になっていきたいという思いを込めています」と説明する。

また、ブレインパッドは、今後の「目指す姿」も語っている。

「技術開発だけを行う企業、分析だけを行う企業、コンセプトメイキングのみを行う企業は多くありますが、分析のコンセプトメイキングからシステム開発、運用までできる企業はブレインパッド以外にほとんどないと思っています。一気通貫したデータ活用・分析サービスを提供できるという当社の強みを生かしながら、今後もビジネスを展開していきたいです」(草野氏)

ブレインパッドはこれからも、「データ」から離れることはない

このデータ活用を通じてインパクトある仕事したいという思いは、草野氏が「外注先の方が驚くくらい、皆の考えは揃っている」と語るように、社内に浸透しているようだ。

カルチャーの浸透に向けて、草野氏が新入社員に向けたオリエンテーションでいつも語ることがある。それは、「世界は人の仕事の累積」であるということだ。

「大自然の中で暮らそうと思わない限りは、人は誰かの仕事の結果を享受して生きています。良い世界をつくるのであれば、良い仕事を積み重ねていかなければならないということです。仕事とは、世界を構成するパーツをつくりあげるということ。ブレインパッドに入社する人たちからすると、他に良い経済条件の会社もあったはず。ブレインパッドに入社しているということは、ここでしかできない仕事があるという期待を持っているはずです。そうした人たちに向けて、その仕事が未来をつくることにつながっているんだという話を必ずするようにしています」(草野氏)

できれば人がまだやっていない、価値あることに取り組んでいきたいという草野氏。しかし「データから離れることはない」と現状の方向性の軸はぶれさせない考えを示す。

「データ活用の形態は多様化しており、提供するサービスの裾野は今後も広がっていくと考えています。そう簡単に果たせるようなミッションではないと思っているので、引き続き変わらずにデータ分析を軸にしたビジネスを展開していきます」(草野氏)

その視線の先には、データ活用によって実現される明るい未来がある。