6月12~14日に開催された年次カンファレンス「Interop Tokyo」の基調講演に、NHK放送文化研究所 研究主幹 村上圭子氏とNHK放送技術研究所 上級研究員 藤沢寛氏が登壇。「これからの”放送”はどこに向かうのか?~2030年に向けて~」と題し、メディアに関するWeb技術の変遷やTV/放送を取り巻く構造変化、将来への展望を紹介した。

放送/動画サービスの課題

「放送の未来について、NHK放送研究所とNHK技術研究所がどんな認識を持っているのか、現状においてどのような課題を感じているのか。皆さんと共有し、これからの放送がどうなっていくか問題提起をさせていただきたい」

村上氏は冒頭でこう語り、大きく分けて「技術」という視点と、「文化」という視点からNHKの考えを紹介すると説明した。村上氏は、ディレクターとして「NHKスペシャル」「クローズアップ現代」の制作を経て、2010年にNHK放送文化研究所に所属。災害情報伝達の高度化、世論形成とメディア、通信/放送融合時代のメディア環境の変化、放送政策などを研究対象としている。

一方、藤沢氏は、NHK放送技術研究所において、1998年から地上デジタル放送方式を、2003年からはインターネット活用やソーシャルTVなどを、2011年からは放送通信連携やハイブリッドキャストなどを研究対象にしてきた。

セッションではまず、藤沢氏がメディアに関するWeb技術の変遷を振り返った。

NHK放送技術研究所 上級研究員 藤沢寛氏

まず、インターネット上の動画サービスとしては、PCで専用アプリを使って視聴するスタイルから、スマホでどこででも視聴するスタイルへ移り、さらにキャストの技術を使って大画面で映像を視聴するスタイルへ進んだ。その間、Web技術は、専用の動画再生アプリ(RealPlayer、QuickTimeなど)から、HTML+プラグイン(Flash、Silverlightなど)へ移行し、近年はHTML5のvideoタグを使ったプラグインなしでの利用が普及している。

「2011年に、W3Cでワーキンググループ『Web and TV IG』が立ち上がり、HTML5のターゲットにTVが加わりました。TVにHTMLを乗せるハイブリッド型放送(Hybridcast、HbbTV)や再生制御(MSE)、コンテンツ保護の仕組み(EME)が議論され、これにより、ブラウザさえあればTVで動画が簡単に見られる環境が整っていきます。PCやスマホ、TVとの境目もなくなっていきました」(藤沢氏)

これに伴い、動画を提供するOTT(Over The Top)事業者のサービスも広がり、既存の放送事業者もそれに合わせてサービス提供の方法を変え始めた。例えば、英国のメディアBBCは2015年にHTML5(HbbTV)をプラットフォームとしてマルチメディア放送をするという決定を行った。これにより、配信の基本構造を同じにして多様なデバイス展開を容易にするという狙いがあったという。

「重要なのは、アーキテクチャが変化したということです。Webプラットフォームという共通技術ができたため、その上にアプリを構築することでデバイス、方式(DRMなど)の違いを吸収できるようになりました。また、1つの事業者に閉じるのではなく、共通のオープンなプラットフォームに対応できるようになったことで、異業種間の協力/協調が進み、多様なユーザーの生活、環境に合わせたサービスが可能になったのです」(藤沢氏)

藤沢氏は、こうしたユーザー中心の設計が広がる今、「放送と動画配信サービスをどう融合させていくか」が大きな課題になってきていると説いた。