かつて”世界の工場”と呼ばれていた中国だが、今や圧倒的な国力を蓄え、市場はグローバル化している。日常の光景となった訪日中国人が示すように、日本の10倍の人口を誇る中国は日本にとっても魅力的なマーケットであることは間違いない。

一方で中国で物を売るためには、まだまだ乗り越えないといけない”壁”があるのも事実。明文化された法律や規制といった表向きの話だけでなく、実際に現場では何が起き得るのかというリアルな問題を知る必要があるのだ。

5月14日に開催されたIT Search+スペシャルセミナーでは、「あまり知られてない、中国ビジネス裏常識」と題し、中国ビジネスに長年携わってきたSRB TECH コンサルティング 副社長 パートナーの山本岳志氏が登壇。中国ビジネスで手痛い失敗をしないために、押さえておくべきポイントについて解説を行った。

中国の現状を正しく把握せよ!

山本氏は、バンプレスト、インデックス、アイ・エム・ジェイを経て、現在はSRB TECH コンサルティング副社長執行役員 パートナーを務める。インデックス時代には中国制作子会社を統括しており、アイ・エム・ジェイでも中国事業を担当するなど、長年中国ビジネスに関わってきた。

そんな山本氏によると、中国ビジネスはここ10~15年で急速に変化を遂げているという。かつて中国に対して抱かれていた「安い人件費で生産を委託する国」というイメージは過去のものになっており、現在では「内需を踏まえて販売する国」になっているというのだ。

SRB TECH コンサルティング 副社長 パートナーの山本岳志氏

国力の成長に伴って、中国市場にも変化が見られる。例えば、以前は安い粗悪品や偽物のブランド品であっても売れたが、現在は正規品を身に付けることが良いとされる価値観が強まっている。また、日本における中国観光客の消費スタイルにも変化の兆しが見られるという。

「団体で大型バスで乗り付けるだけでなく、個人旅行ベースの観光客も増えてきました。さらに、”モノ消費”よりもサービスや体験などの”コト消費”にお金を落とす中国人も増えています」

中国人の価値観がアップデートされるなか、これまでのように単純に日本製であればいいという流れも終わったと山本氏は説明する。

「これからの中国ビジネスは、中国の特性を踏まえた商品開発がキーポイントになるでしょう」

こうした中国向けビジネスで特に山本氏が注目しているのが、「美容/健康(サプリや美顔器など)」「医療/介護」「環境/省エネ」という3分野である。

特に中国では、将来的に日本以上の高齢化社会が訪れると予測されており、今からすでに医療介護サービスが注目を集めている。また、中国は大気汚染などが深刻なこともあり、グローバル化に向けて省エネ意識が高まっているという。

これらの領域で中国ビジネスを成功させるためには、もちろん商品やサービスの品質も重要だが、それだけでは不十分だと山本氏は声を強める。

「ネットワークと商品/サービス品質のバランスが重要で、特にビジネス初期段階では中国側各界のキーマンを味方につけることが大切です。『何をするか』だけでなく、『誰とするか』によっても成果は大きく変わります」

山本氏によると、中国ビジネスにおけるトラブルには次のようなものがあるという。

例えば、紹介されたネットワーク(人脈)が決裁権のない現場の担当者や中間管理職レベルで中途半端であり機能しないケース。また、自力で進出したものの、商慣習の違いがトラブルとなり撤退せざるを得なくなるケースもある。なかには、「役所の要人を知っているから、ビジネスに必要な許認可を規定よりも早く取得させられる」などと嘘をつき、大金を巻き上げるといった詐欺的行為まであるのだという。

このような事態に陥らないためには、机上の戦略構築や資料作成で満足するのではなく、「本物のネットワーク」と「本物の実務実行力」が必要になると山本氏は強調した。