サイバーエージェント AI Lab×阪大 石黒研、珍しく産学連携が上手く進んでいるわけ

サイバーエージェント AI Lab×阪大 石黒研、珍しく産学連携が上手く進んでいるわけ

[2019/02/22 08:00]周藤瞳美 ブックマーク ブックマーク

ソリューション

2016年1月の設立以来、産学連携の取り組みを積極的に進めているサイバーエージェントの研究組織「AI Lab」。別記事で紹介した「チャットボットによる話者感情制御技術」は、アンドロイド研究の第一人者である大阪大学 石黒浩教授の研究室との共同研究から生まれた成果である。

AI Labではその他にも、慶応大学、米イェール大学、東京工業大学、理化学研究所など10を超える複数の学術機関と連携している。AIやデータサイエンス領域での産学連携の取り組みは近年活発になりつつあるが、やはり大学と民間企業という目的を異にするもの同士が一緒になって研究を進めるはうえでは課題も多くある。

今回は、サイバーエージェント AI Lab研究員 馬場 惇氏にAI Lab立ち上げの経緯や、産学連携を上手く進めるコツなどについて詳しく聞いた。

サイバーエージェント AI Lab研究員 馬場 惇氏

研究とプロダクトのサイクルをうまく回していけるように

大学院生時代は機械学習を専門に研究を行っていたという馬場氏。2014年にサイバーエージェントへ新卒入社した後は、データサイエンティストとしてDSP(Demand Side Platform)における入札価格の決定や確率予測など広告事業に関する業務を担当していた。

しかし、プロダクトの中でデータ分析やロジック開発をしていると、プロダクトの方向性の変更などビジネスの移り変わりが早い。導入した予測モデルの改善をしたり、さまざまなモデルと比較し新規性を見出して論文にまとめたりといった時間が取りにくいことに課題を感じていたという。

「プロダクト内ではなく社内横断的なデータサイエンティストチームが必要であるという認識は社内全体としても持っていて、データサイエンティストのコミュニティのようなものもありましたが、それぞれの業務でやっていることがバラバラということもあり、その課題を解決できないままでいました。実質的にはチームとしてまとまっている意味がほとんどないような状態でした」(馬場氏)

試行錯誤の中、数回の組織改変を経て2016年1月に立ち上がったのが、AIをメインテーマとして研究を行う組織「AI Lab」だ。社内のデータ解析を行う組織とは別のチームとして、3-5年単位で腰を据えた研究を行うことを目的にしている。データ解析業務と研究業務、それぞれを専任で行う体制を作った形だ。

サイバーエージェント本社内にあるAI Lab オフィスの様子

大学との積極的な産学連携を進めているのがAI Labの特徴で、馬場氏も大阪大学の招聘研究員として大学に常駐し、石黒研究室との共同研究に取り組んでいる。サイバーエージェント本社内にあるAI Labのオフィスも、まるで大学の研究室のような雰囲気を醸している。

馬場氏は、「研究の成果をうまくプロダクトに実装し、効果を見ながらまた研究へフィードバックして……というサイクルがうまく回るような仕組みをつくっていきたいですね」と、AI Labのビジョンについて語る。

頻繁に議論が交わされており、雰囲気は研究室のよう

大学と企業が”上手くやる”ために必要なこと

サイバーエージェントは、これまでPCやスマホのネット広告によって企業のデジタルマーケティングを支援してきたが、その次となる新たなソリューションの軸を創出しなければならない。こうしたなか着目されているのが、接客の自動化だ。打った広告と連動した接客ができれば広告効果を高められる可能性があり、また、自動化された接客によって情報提供が効果的にできれば、それ自体が新たな広告媒体にもなる。

馬場氏によると、Webや店舗での情報提供にチャットボットやロボットが活用できるのではないかというアイデアが社内で上がり、「対話」の研究をしている組織を提携先として探していたところ、目に止まったのが大阪大学の石黒研究室だったという。

大阪大学 石黒 浩教授(右)と議論する馬場氏(左)

一方で、大阪大学は産学連携の仕組みのひとつとして「共同研究講座」制度を設けている。同制度は、企業が資金を提供することで大学内に研究室を立ち上げることができるというもので、企業は自社のニーズと人材を大学へ持ち込めるほか、大学からも研究者が充てられるというメリットがある。

サイバーエージェントと石黒研究室との共同研究は、この制度を活用したものだ。現在の共同研究チームは、大学側のメンバー2名に馬場氏が招聘研究員として加わった形となっている。石黒研究室からも石黒教授をはじめとするスタッフが定期的に訪れ、研究に関する議論が行われている。

共同研究チームのメンバー

こうした連携の形について馬場氏は次のように評価している。

「最初は手探りの状態でしたが、今あらためて振り返ってみると、大学のなかに入り込むことで、スムーズに進んだなと思うことは多くあります。たとえば、アカデミアのポストとして研究員を採用できることは大きなメリットです。

今回、大学側のメンバーは特任助教、特任准教授という形で参加していただいています。アカデミアの方を民間企業のスタッフとして雇うことは非常にハードルが高いですが、大学の肩書を用意することでアカデミアのキャリアの一環として研究を行ってもらうことができます。

石黒研究室にはスタートアップ的な文化もあり、サイバーエージェントとの相性がよかったということもありますが、アカデミアの方たちに社会実験の場を提供し、アカデミアのアイディアを社会実装へとつなげていけることは、お互いにとってとても意義のあることだと思っています」(馬場氏)

石黒研究室での活動の様子

学術的な新規性を求める大学と事業化を狙う企業では目指す方向が異なり、すれ違いが発生しやすいことが産学連携の大きな課題となっているが、これに対して馬場氏は「大学側でやるべきことと、企業側でやるべきことを適切に振り分けることが重要」であるとする。

「当初から狙ってやっていたわけではないですが、論文などの研究業績を増やすことは大学側のスタッフに任せて、企業側のスタッフは特許取得やビジネスへの実装を考えることに集中するなど、適切に役割分担して共同研究を回していく形が次第にできあがってきました。

また、ありがたいことに、さまざまな企業から『ウチでも接客の自動化をやりたい』とたくさん引き合いがありますが、大学で研究すべき『まだ誰も体験したことのない接客』と、企業で提供すべき『これまでの体験をより良質にする接客』を分けて捉えています。前者の案件のみを共同研究講座でプロジェクト化し、後者の案件は社内の事業部で担当する、といった分業体制を今作っているところです。研究アイディアを形にするためにお互いがどう動けばよいか考えていく流れのほうが自然だと考えています」(馬場氏)

今後は共同研究講座にさまざまな立場の人を増やすことで、産学のバランスをうまくとっていける体制づくりを加速させていきたい考えだ。

アカデミアの常識を、ビジネスに実装する

『怒りを静めるチャットボット!? サイバーエージェントの話者感情制御技術とは』で紹介した感情制御チャットボットに関する研究成果は、国際会議で発表されている。この研究のアイディアは、チャットボットについて石黒研究室に相談した際の「ハイダーの『バランス理論』が使えるじゃん!」という発言がきっかけになったそうだ。

大阪大学 先端知能システム(サイバーエージェント)共同研究講座 特任准教授 倉本到氏

バランス理論は、米国の心理学者 フリッツ・ハイダーが提唱した対人関係に関する社会心理学の理論。複数人が関わる対人関係において、全体の認知のバランスを保つために認識を変化させようとする人間の心理状態を説明したもので、一般的な心理学の教科書にも載っているほど有名な理論だという。この”アカデミアの常識”をビジネスの現場に実装しようとしたのが、感情抑制チャットボットというわけだ。

馬場氏の今の興味は、人の行動を変容させること。「それに必要なものであれば、心理学はもちろん、認知科学や深層学習、対話のシナリオ作成など、すべてのことに興味があります。さまざまな知見をオールインワンで集約させることで、ユーザー体験をよりよいものにしていきたいですね」と意気込む。

産学連携による共同研究の成果を新規ビジネスの創出へとつなげていくには、乗り越えなければならない壁も多い。AI Labの仕組みは、その壁を崩すためのひとつの実験的な取り組みとなるだろう。AI Labからどのようなイノベーションが生まれてくるか、今後の動向に注目したい。

※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合がございます。予めご了承ください。

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