本連載では、各回のテーマに沿ってさまざまな業界の最前線で活躍するキーマンを訪ね、本誌で連載「教えてカナコさん! これならわかるAI入門」を執筆するAI研究家の”カナコさん”こと大西可奈子氏(NTTドコモ R&Dイノベーション本部 サービスイノベーション部)がお話を伺っていく。ときに広く、ときに深く、AIに関する正しい理解を広める一助になることが連載の狙いだ。

今回、ご登場いただいたのはユカイ工学のマーケティング統括CMO 冨永翼氏。しっぽのついたクッション型セラピーロボット「Qoobo(クーボ)」や、自宅と外にいる家族をつなぐコミュニケーションロボット「BOCCO(ボッコ)」など、他に類を見ないユニークなプロダクトを次々と発表する同社の哲学とAI技術に対する考えを伺った。

BOCCOとユカイ工学のマーケティング統括CMO 冨永翼氏(左)、Qooboを抱く”カナコさん”ことAI研究家の大西可奈子氏(右)

ロボティクスで世界をユカイに!

大西氏:ユカイ工学さんといえばしっぽクッションのQoobo(クーボ)やコミュニケーションロボットのBOCCO(ボッコ)などユニークなプロダクトですよね。目指すところはやはりロボットが一般的になる世界なのでしょうか。

冨永氏:そうですね。ユカイ工学は「ロボティクスで世界をユカイに」というビジョンを掲げていて、一家に1台、ロボットがある世界を目指しています。今はQooboとBOCCOの販売に加えて、ロボットに関する知見を生かしてさまざまなプロジェクトに取り組んでいます。

例えば、ガスや電気のインフラ系の会社やセコム様のような見守りをサービスとして取り組んでいる企業と提携して自宅でロボットを活用したり、高齢者の方にコールセンターからメッセージを送る取り組みなどですね。そのほかにも、企業から「こういうものを作りたい」「キャンペーンをしたい」といったご相談を受けて、ロボットを生かしたご提案をしています。

大西氏:QooboやBOCCOは海外展開もされていますよね。

冨永氏:はい、米国で販売しているほか、ヨーロッパの展示会などにも出展しています。

BOCCOとQoobo。気まぐれかつ緩やかに動くQooboのしっぽは、まるで生きているかのようだ

大西氏:そんなQooboとBOCCOについて、改めてどんなロボットなのか教えていただけますか。

冨永氏:ユカイ工学の考えるロボットというのは、「便利な道具」というよりも、「家にいるだけで家族がより幸せになるような存在」として考えています。

例えば、BOOCOのコンセプトは「現代に舞い降りた座敷わらし」です。見た目も民芸品店で売られているようなどこか懐かしい姿をしています。座敷わらしは家にいると幸せになるという言い伝えがありますが、まさにそういうコンセプトなんです。

大西氏:留守番中の家族に外からBOCCOを介してメッセージを届けられたり、振動センサで家族の帰宅をお知らせしてくれたりするんですよね。便利でもあるんだけど、それだけじゃなくて”癒やされる存在”というイメージがあります。

冨永氏:家族円満という意味では、QooboもBOOCOと同じ発想で生まれたものです。実家だと動物を飼っていたのに、都内の家だとペットを飼えないという寂しさを持っている人が多くて、それを何とかしたいというところから生まれました。ちょうど、動物のしっぽの動きを研究していたエンジニアがいたので、それを組み合わせて出来たプロダクトです。

大西氏:2019年秋にはBOCCOの次世代機である「BOCCO emo」が提供されるそうですね。

冨永氏:はい。BOCCOの機能はそのままに最新の音声認識技術を搭載し、”究極にエモい”ロボットを目指しています。頬のライトがポッと光ったり、呼びかけたほうを向いてくれたり。あだ名を付けることもできて、呼ぶと反応してこちらを向いてくれたりします。

大西氏:それ、かわいいですね! あだ名を付けられることで、さらに愛着も湧きそうです。

スマートスピーカーはライバル!?

大西氏:音声認識で話せるということになると、やはり比較せざるを得ないのがスマートスピーカーです。スマートスピーカーは音声認識も強力かつ価格も安価ですが、やはり気になる存在ですか?

冨永氏:もちろん、スマートスピーカーには注目してます。あれだけのことができるものが比較的低価格で出せるのはすごいなと思いつつも、付加価値という部分で考えるとどうでしょうか。

かわいらしいとか、家にいることで愛着が持てるとか、そういうところは僕たちのプロダクトの特徴なのかなと。何かを発信する際にも、かわいいロボットのほうが受け入れられやすいということもあります。

大西氏:確かに、音声認識という点は共通していても、そもそものコンセプトは別物ですよね。スマートスピーカーは便利ですけど、見た目は無機質なものがほとんどですし。

一方で、ユカイ工学さんのプロダクトは外観から醸し出される存在感や、それによって癒やされたり、愛着が湧いたりといった情緒的な部分が特徴で、スマートスピーカーとは一線を画しているなと思います。単に便利な道具が欲しいのであれば、Qooboのような発想はまず生まれませんよね。

冨永氏:おかげさまで売り場や展示会でもとても好評なんですよ。市場にもしっかり刺さっていると実感しています。

大西氏:情緒面で言うと、高齢者向けのニーズがかなりありそうですね。

冨永氏:そうですね。高齢者向けとしてのニーズが高まっていることは感じています。それ以外では、店頭でのニーズもあると考えています。

大西氏:店頭だと、どんな風に使われるんですか?

冨永氏:接客のサポートです。海外からのお客さんも増えているなかで、お店は人手不足が深刻です。ただ、店頭での質問は実は限られた内容であることが多いので、そこにロボットが活用できると考えています。また、民泊のようなサービスにも受け入れられるかなと思います。

実用面だけで考えるならタブレットを置いておくのでも良かったりするんですが、あえてロボットにすることで愛着を持ってくれるとか、そういった効果も期待できるはずです。

ロボットの接客って、どうなの?

大西氏:ロボット接客は一時期流行りましたよね。ただ、どうもうまくいっていないところが多いように感じています。期待に対して技術が追いつかず、返品が増えているなんてお話も聞いたりして。

冨永氏:そうした期待感と技術の間の溝を埋めるのが、見た目などの”ガワ”の力だと思います。コミュニケーションがうまくいかなくても、可愛くて憎めない奴だとユーザーに思ってもらえることもあるんですよね。

大西氏:ユカイ工学さんの視点はとても勉強になります。私たち研究者は、どうしてもAIプロダクトを開発するのに技術先行なところがありますから。普段、どのようにアイデアを出していらっしゃるのですか?

冨永氏:年に1度アイデア合宿をしていて、全社員1つずつアイデアを持っていきます。そのときのルールが”絶対に自分が欲しいものを持っていく”こと。BOOCOも代表の青木(青木俊介氏)の子どもが鍵っ子で、そこから(家族を見守るロボットが欲しいと)生まれたプロダクトなんです。

大西氏:素晴らしいですね。自分は買わないものをつくっている人も多いですからね(笑)。

冨永氏:自分が欲しいものでないと、途中で熱量が足りなくなると思うんです。

大西氏:確かに、その通りだと思います。そんなユカイ工学さんで、今後、AIの活用が進むと予想されている分野はありますか?

冨永氏:やはりAIが雑談できるようになると、家庭のなかにもっと入り込んでいけるんじゃないかと思いますね。その技術に沿ったプロダクトはどんどん発表していきたいと思っているし、問い合わせも多くなっています。世の中を驚かせられるものを出していきたいです。

大西氏:AIで、ユカイはつくれそうでしょうか?

冨永氏:つくれると思います。ただ、AIで会話ができるようになったとしても、それだけでユカイとはいかないかもしれません。やはり使用者が触れる部分の質感や、使用者が気に入るような外観も重要で、ソフトとハードの両方が揃ってこそ、”ユカイ”が生まれるんだと思います。

After Interview

今回は、いつも面白い商品で私たちを驚かせ続けてくれるユカイ工学の冨永さんにお話を伺いました。技術を開発する場合、どうしても「何の役に立つのか」という点に注目しがちです。しかし、実は役に立つことよりも、愛着が湧くとか、何となくそばに置いておきたいと思えることこそ、プロダクトにとって重要なのだと気づかされました。冨永さんたちがAI技術を使ってどんなユカイなプロダクトを生み出してくれるのか、今後もとても楽しみです!