6月20日~22日にかけて、東京ビッグサイトで世界最大級のものづくり専門展「日本ものづくりワールド 2018」が開催された。

本記事では「第29回 設計・製造ソリューション展」のセミナーとして、日立製作所 研究開発グループ 生産イノベーションセンタ プロセス研究部 部長の寺前俊哉氏が登壇したセッション「生産革新事例 日立製作所が目指す、クラウドマニュファクチャリングによるモノづくり革新」の内容をご紹介しよう。

オープン環境で構成された「クラウドマニュファクチャリング」

寺前氏はセッションの冒頭で、「地域ごとにばらつく経済成長、突発的リスク事象の増大など、激変する社会・市場を背景として、ものづくり環境も大きく変化しています。消費の多様化により、商品の開発サイクル短期化と付加価値シフトが進展。また、新興国の経済成長に伴い労働環境が変化し、ものづくりの地産地消化も進んできました」と話す。

日立製作所 研究開発グループ テクノロジーイノベーション統括本部 生産イノベーションセンタの寺前俊哉氏

「さらに、世界では産業・社会インフラのデジタル化が加速しているのもポイントです。ものづくりのデジタル化・カスタム化の進展に伴い、サービス化・オープン化が急速に進んでいます。そこで産業界の解くべき課題として挙げられるのが、企業とリソースをオープン接続するプラットフォーム、そしてデジタルソリューションを組み合わせた『オープンオートメーション』なのです」と製造業で起きている流れを紹介した。

このオープンオートメーションでは、顧客やパートナー企業との協創により、産業ソリューションの先端技術を検証。サプライチェーンの変化やリスクに対して、フレキシブルに対応できる低アセット生産システムの構築を行う。

さらに未来のものづくりとして、複数の工場・企業の生産リソースをオープンな環境でつなぎ、事業環境の変化に応じてバリューチェーンを最適化していく重要性も語られた。

これまでの製造業では、必要な4Mリソース(設備・人・材料・工法)を自前で確保していたが、オープン環境ではバリューチェーン内で4Mリソースをお互いに融通しながら調達できる。これが、共生型のものづくり社会の基盤となる新しい生産システム「クラウドマニュファクチャリング」だ。

人や設備に依存しない製造技術と業務プロセスの標準化が必要

ここから寺前氏は、クラウドマニュファクチャリングのより具体的な内容について解説した。

まず加工設備(アセット)シェアリングに関しては、複数事業所の製造設備を見える化し、相互利用を可能にするプラットフォームが求められる。

設備の相互利用のためのユースケースとしては、たとえば設備の業務登録、設備の検索、業務委託の調整といった動きに対して、設備情報のデータベース化、作業委託先候補の絞り込み、加工手順や精度の指示、納期の調整などを行う業務ステップが必要になる。

プラットフォームの設計と開発に関しては、設備仕様や図面、加工諸元などの機密情報を取り扱うため、セキュリティが保証されたネットワーク環境が必要だ。

また、プラットフォーム構築の要件としては、ドキュメントの参照権限を含むセキュリティ管理の実現、設備融通の交渉履歴やドキュメントを時系列で管理し、常に最新版を参照可能にする、といったことが挙げられる。

これらを実現するため、日立ソリューションズが提供する企業間情報共有システム「活文」をクラウド上に構築し、環境提供を行うという。

一方で、アセットシェアリングを実現するにはいくつかの課題も存在する。バリューチェーンの視点で分類すると、設計・生産計画では設計図面の品質が異なる、企業ごとに製造コストが異なるといった点が挙げられる。

また生産技術においては、設計と製造をつなぐ生産技術が非常に重要となる。製造に関しては、熟練者不足による検討不足、自社で製造実績がない製品の対応に時間を要する、機差/環境/材料の影響で作業者による調整が必要、といった具合だ。

さらに品質保証では、検査装置/方式間の精度の保証および、設備仕様に加えて管理項目の明確化が必要となる。つまり、アセットシェアリングを実現するには、人や設備に依存しない製造技術が極めて重要であり、同時に業務プロセスの標準化が求められるわけだ。

グローバル複数拠点で同品質加工を実現する「デジタルものづくり」

こうした課題解決に役立つのが、熟練者に依存することなく、グローバル複数拠点で同品質加工を実現する「デジタルものづくり」だ。

たとえば同社では、加工設備機差を考慮したNCデータ自動補正システムを開発。同一NCデータを基に、多拠点の複数設備で目標加工誤差を検証し、複数設備での同一品質を実現している。

そのほか、シェアリングの有効性についても紹介した。

製品・部品在庫のシェアリングでは、部品不足による売上減少を低減すると同時に、部品余剰に起因するキャッシュフロー悪化を改善。輸送手段のシェアリングでは、部品の共同搬送による輸送コストの低減、トラック台数低減による渋滞緩和、といったメリットが享受できる。

さらに、アセットシェアリングではデジタル化による恩恵も大きい。「人のデジタル化」では、グローバル生産におけるさまざまなスキルレベル・文化を踏まえた作業モニタリング技術を活用。異常検知に大きな効果を発揮する。

「設備のデジタル化」に関しては、人・ロボット協調エンジニアリングを用いることで、多品種製品への対応、ラインの立ち上げや編成変更の迅速化が図れる。さらに、製造上で不具合要因のひとつになりやすい切削工具の刃先摩耗に対して、刃先摩耗予兆検知の技術も紹介された。

さらに「プロセスのデジタル化」では、実使用材料/プロセス/使用環境を考慮した品質制御プロセス設計の構築、金型を一切使用しないフレキシブル捩り曲げ成形システム、複雑・少量多品種・高付加価値品の製造に適した積層造形技術が紹介された。

このように、共生型のものづくり社会の基盤となる新しい生産システム「クラウドマニュファクチャリング」の実現に向けて邁進している日立製作所。最後に寺前氏は「弊社では今後もIoT時代のイノベーションパートナーとして、進化した社会イノベーションでお客様と協創を加速していきます」と語り、講演は幕を閉じた。