世界30カ国60都市以上で約500万人以上の観客を動員してきたアルゼンチン発の体験型エンターテイメント「フエルサブルータ」の東京公演が絶賛開催中だ。

パナソニック ブランドコミュニケーション本部 Wonder推進室 総括担当課長 井上 敏也氏

音楽ショーとも演劇ともいえない、これまでにない世界観を実現し、話題となっている。同公演を協賛するのは、総合電機メーカーのパナソニック。協賛だけでなく、テクノロジカルパートナーとして、同社のサイネージ技術を活用し、劇場エントランスやロビー、ラウンジなどの空間演出をサポートしている。

この取り組みについて同社Wonder推進室の総括担当課長 井上敏也氏は、「ブランディング活動という意味もありますが、エンターテインメント業界やさまざまな商業施設に向けた空間演出のショウケース向けのビジネストライアルの場として、パナソニックでもここまでできるんだということを示したいと考えています」と語る。

かつては総合家電メーカーとしてのイメージが強かったパナソニックだが、近年はBtoB事業へ力を入れている。Wonder推進室は、新規事業を応援しながら、パナソニックの新しいブランドイメージを積極的に打ち出していく部門で、これまでに事業化未定のプロトタイプをお披露目するBtoB顧客向け展示会「Wonder Japan Solutions」や、多言語音声翻訳サービス「メガホンヤク」など新たなBtoBの取り組みを手掛けてきた。

本誌は、井上氏にWonder推進室の取り組みや展望についてお話を伺った。

パナソニックブランドのイメージ向上を目指した、”ショック療法”

2013年10月、当時の業績不振によって社内外に漂っていた閉塞感を打破するため、パナソニックブランドに活力を与える新しいプロジェクトとしてWonder創出プロジェクト「Wonders! by Panasonic」が立ち上がった。

家電メーカーとして実績を積んできたパナソニックには「安心・安全・信頼」といったイメージはあるが、新規性や独創性といったブランドイメージはなく、実際に新しいことを積極的に進めていくようなタイプの社員がすごく多いというわけでもなかった。

そういった状況においてWonder!創出プロジェクトは、ある意味”ショック療法的な位置づけ”であったという。

「”Wonder!”は、パナソニックの変革を牽引するキーワードです。刺激的で新しいものを世に打ち出していくことによって、会社の行動もイメージも変えていこうという大きな志を持った試みであると言えます」 (井上氏)

技術至上主義で良いのか? Wonder創出のアプローチ

Wonder推進室は、具体的な取り組みとしてまず、社内表彰制度である「Wonder賞」を創設した。従来の表彰制度では、社内の関係者だけで審査していたというが、Wonder賞では、クリエイターやデザイナーなどの有識者や一般消費者の意見も取り入れた社外審査を実施。また「実績」ではなく、「可能性」を評価する、という新しい視点を加えた。

例えば、第1回Wonder賞を受賞したのは、重作業を支援する装着型のアシストスーツ。現在もパナソニックからスピンオフしたベンチャー企業ATOUNが開発を進めている。

第1回Wonder賞を受賞したパワードスーツ。現在はATOUNが販売する(ATOUNのWebサイトから)

少子化で労働力不足が深刻化していく現代において、アシストスーツの可能性は非常に大きく、社外有識者や一般社員からの評価は断トツだったという。対して、従来の社内表彰の審査に携わっていた関係者たちからの評価はというと、決して芳しいものではなかった。

この理由について井上氏は、「技術的な視点からみると、必ずしも高い評価ではなかったからです。しかし、視点を変えると評価はガラッと変わるんですね。技術的に優れていることだけが必ずしも価値を生むわけではないということを表した好例だと思います」と分析している。

従来の技術至上主義で本当に良いのだろうか――Wonder推進室は、対外的なブランドイメージの構築だけでなく、社内への提言をも行うことでパナソニックとしての行動を変革し、新しい顧客価値の創出を後押ししている。