いよいよ佳境に入ったプロ野球のペナントレース。セ・リーグは広島東洋カープが四半世紀ぶりの優勝を果たしたが、パ・リーグは6月まで独走を続けていた福岡ソフトバンクホークスが、北海道日本ハムファイターズの追い上げにあい、熱い首位攻防を繰り広げている。
一方で、ホークスの親会社であるソフトバンクは言わずと知れた携帯キャリアだが、その技術力を利用して、野球観戦をより楽しく、面白くしようという実証実験を福岡県のヤフオクドームで行った。野球に限らず、さまざまなスポーツ、動画配信サービスに応用できるこの技術が、「2020年」を面白くするかもしれない?
10社が参加するLTE-Broadcastの実証実験
実証実験では、特別に用意されたスマートフォンに対してマルチアングルの野球中継映像をブロードキャストする。「LTEネットワーク」を用いて映像を一斉同報配信できる「LTE-Broadcast」の技術を利用している。一斉同報配信は「緊急地震速報(ETWS:Earthquake and Tsunami Warning System)」などでも行われており、携帯電話の1対1の個別通信(ユニキャスト)とは異なる1対多となる多数通信(ブロードキャスト)を目的としている。
前出のETWSのブロードキャストは、「誰もが地震情報を必要としている」ことを前提に、ユニキャストで生じる無駄なリクエスト、トラフィックを極力省き、基地局と接続している端末に対して片務的に地震情報を配信している。一方で今回のLTE-Broadcastは、さまざまなコンテンツを一斉配信できる技術。ETWSが「テキスト情報を遅延なく広範に送信する」ことを目的としているのに対して、動画などの大容量コンテンツの効率的な配信を可能にしている。2006年にKDDIがBCMCS(Broadcast Multicast Services)というCDMA2000向けの同報配信技術を活用して「EZチャンネルプラス」というサービスを提供していたが、このLTE版といったイメージだ。
ある程度の規模のユーザーが動画コンテンツを見る場合、トラフィックを消費することはもちろん、端末側からのリクエストなど基地局のリソースも大きく占めてしまい、それ以外のユーザーの通信に支障をきたしてしまう恐れがある。そこで、今回の実証実験では、「対象基地局下に動画サービスを必要としているユーザーが多数存在する」という想定のもと、LTE-Broadcastで一方的に動画配信を行う。
実証実験には10社が参加。ソフトバンク関係4社は設備や映像配信データの提供を、SHARPがスマートフォンの貸与、米QualcommがLTE-Broadcast技術ソリューション、中国ZTEが基地局やコアネットワークを行った。また、映像のストリーミング&エンコードサーバーの提供にQuickPlay Media、スマートフォンアプリ開発には仏Intellicore、野球の各種データ提供社としてデータスタジアムも参画している。
LTE-Broadcastのメリットは?
LTE-Broadcastのメリットについて、ソフトバンク プロダクト本部 戦略・企画統括部 スマートデバイス企画部 スマートデバイス企画2課 課長の瀧川 裕之氏は、「ネットワークリソースの有効活用がメイン」と話す。前述の通り、基地局にぶら下がる携帯端末の多くが特定コンテンツを望むのであれば、端末が個々にリクエストを送るよりも、基地局側からブロードキャストする方がトラフィック負荷が少なく済む。
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ソフトバンク プロダクト本部 戦略・企画統括部 スマートデバイス企画部 スマートデバイス企画2課 課長 瀧川 裕之氏 |
野球中継のような大量の視聴ユーザーがいる「映像コンテンツ」であれば、エリア内に見るユーザーが増えれば増えるほど、トラフィックの利用効率は上がる |
野球中継のみならず、2020年の東京オリンピックなど、スポーツ中継との相性は抜群なうえ、ソフトバンクで言えば、ヤフーと共同で運営するスポーツライブ配信サービス「スポナビライブ」もある。スポナビライブは現在、ソフトバンクユーザーに対して低画質であれば通信料無料で視聴できる環境を提供しているが、LTE-Broadcastを用いることで、同社のネットワークインフラに極度の負担をかけることなくこうしたサービスも提供できることになる(※通信の中立性については議論の余地があるが)。
この実証実験では、LTE-Broadcast以外にも注目すべき点はある。その一例がマルチアングル中継だ。