7月31日に開催された「マイナビニュースフォーラム 2019 Summer for データ活用」の基調講演では、データ活用先進企業として知られる6社が招聘され、参加者と取り組み内容を共有した。

その1社として登壇したのがトヨタ自動車 コネクティッドカンパニー e-TOYOTA部 担当部長 佐々木英彦氏である。本稿では、「顧客接点の整理から考える 実務に役立つ”トヨタ流”データ分析」と題して講演の内容を基に、同社が進めてきたデジタルマーケティングの仕組みづくりについて重点的に紹介する。

データ活用の推進と共に強化された組織内の協力体制

佐々木氏は新卒でトヨタ自動車(以下、トヨタ)に入社後、広報部に配属。その後、コンシューマー向け情報提供サービス「GAZOO(ガズー)」の事業部(現:e-TOYOTA部)に異動し、現在は車とITを融合した新しいサービスを顧客に提供するe-TOYOTA事業のリーダーを務める。所属は変わっても、一貫して社内外の情報に関わる業務に携わってきた同氏は、トヨタのデータ活用の歴史を最もよく知る人物の1人だ。

トヨタ自動車 コネクティッドカンパニー e-TOYOTA部 担当部長 佐々木英彦氏

その佐々木氏によれば、トヨタがデジタルマーケティングへの取り組みとしてID統合を始めたのは2003年のことだが、本格的な施策の展開は2015年からだという。この年、同社が「TOYOTA Digital Marketing Platform(TDMP)」と呼ぶプライベートDMP(Data Management Platform)を構築し、顧客に関するさまざまなデータを集約できるようになった。国内販売関連の社内関係者を集めた”大部屋”を設置し、目的や目標を共有するようにしたのも同時期のことだ。

すると今度は、課題に対する施策を決定するための”共通の物差し”の必要性が感じられ始めた。そこで、翌2016年に作成されたのが「ダイナミック・カスタマージャーニー」と呼ばれるカスタマージャーニーマップである。

見込み顧客のなかには、突然購入しに来る人もいるが、逆に長い検討を重ねたのに結局買わない人たちもいる。このとき、買うのを止めた理由がわかれば、対策を講じられるはずだ。また、もともとトヨタには、何か問題が起きたとき、その問題への対策の効果を検証する「なぜなぜ分析」と呼ばれる文化が根付いていた。

こうしたことから、カスタマージャーニーマップを組織横断的な解決策を決定する際の「手段」に据え、PDCAサイクルを回す仕組みを構築しようと考えたのだ。

しかし、そのために必要なデータを集めるところで”壁”にぶつかった。車の販売自体はグループ会社が行うため、トヨタ自身は直接的な顧客接点を持たない。そのため、販売会社を説得し、数十万件のデータを提供してもらう必要があったのだ。

幸い、交渉は成功。トヨタは取得した大量のデータを基に機械学習を利用して、車の購入確度を70%超の精度で予測するモデルを作成した。このモデルを使い、トヨタのWebサイトを訪れた一人一人のビジター行動を分析してセグメントに分けた。そして、セグメントごとにどんな施策を展開するかを考え、結果を見てまた次の打ち手を考えるサイクルを整備したという。

それまでのトヨタは、販売会社とは別々に行動するのが常だった。だが、トヨタが分析結果を基に「この顧客はこんな性質を持った顧客なので、こう対応してください」と依頼し、実際の購入につながれば、販売会社はさらにデータを提供しても良いと考える。その結果、より多くのデータを得られれば、顧客にもっと良い対応ができるようになるというわけだ。