6月13~15日、幕張メッセにて年次カンファレンス「Interop Tokyo」が開催された。その基調講演には、アリババクラウドのジャパンゼネラルマネージャーを務めるユニーク・ソング氏が登壇。「小売業界に変革を~アリババクラウドの最新テクノロジーが描く『ニューリテール』戦略~」と題し、アリババの考える”新しい小売り業の姿”について語った。

アリババクラウド ジャパンゼネラルマネージャー ユニーク・ソング氏

消費者体験を中心に考える「ニューリテール戦略」とは?

中国最大のパブリッククラウドサービス「Alibaba Cloud(阿里雲:Aliyun)」を展開するアリババクラウド。2009年にアリババグループのEC事業を支えるインフラ会社として設立され、中国のEC事業拡大と共に、瞬く間に世界230万ユーザーに利用されるクラウドとなった。

中国国内だけでなく、ソフトバンクグループと協力して日本展開を開始。2016年11月には「Alibaba Cloud 日本リージョン」を開設し、中国進出する日本企業などにもインフラを提供することで、市場での存在感を高めている。

提供サービスのラインアップもIaaSを中心に、ビッグデータ分析やセキュリティ、API管理など豊富だ。Eコマースやゲーム、マルチメディア、IoTなど、スピードと柔軟性が求められる領域でソリューションも提供している。

そんな同社がグループとして力を入れて取り組んでいるのがニューリテール戦略だ。ニューリテール戦略とは、アリババグループが推進する、消費者体験を中心とした”データドリブンなリテールモデル”のことだという。

「ニューリテールは、アリババグループ創業者のジャック・マーが2016年10月に開催された『Cloud Computing Conference』で提唱したコンセプトです。彼は、伝統的なeコマースが終焉し、10~20年先には、オンライン/オフライン、物流の融合がニューリテール時代の基礎となり、それこそがわれわれが取り組むべきことだと訴えました」(ソング氏)

ニューリテールの概念図

オンラインとオフラインを融合させようという考え方は、O2O(Online to Offline)やオムニチャネルとして2011年頃から取り組みが進められてきた。アリババのニューリテールがそれらと大きく異なる点は、リアル店舗、Web店舗、物流網などの区別がなくなり、より一層シームレスな顧客体験が提供されることだ。

例えば、O2Oやオムニチャネルの取り組みでは、リアル店舗で商品を確認してネット注文したり、Webで在庫確認して店舗に行ったりといった、「ネットとリアルの違い」を意識させる顧客体験が多かった。これに対し、ニューリテールでは、陳列棚や商品のバーコードをスマホアプリで読み取ってその場で注文を行ったり、購入した商品の現物を専用デリバリーバッグに入れておくとその場で店員がピックアップして30分以内に自宅に配送してくれたりする。

商品を売る方法や場所、時間などについてネットかリアルかの区別がなくなり、顧客が欲しいと思った商品を顧客の希望に応じて柔軟に届ける仕組みだ。それを具体的に展開しているのが、アリババグループの生鮮食品スーパー「盒马鮮生(Hema Supermarket)」だ。


店舗では、野菜や海産物について実際の鮮度、形状などを確認して購入でき、同じ商品を大量に購入して自宅に届けてもらうこともできる。店内には買った商品をその場で調理して食べることができるレストランもある。決済は全てスマホアプリを使ったキャッシュレスで行われており、購入履歴の管理やトレーサビリティ管理も可能だ。

「オンラインとオフライン、物流を統合することで、それぞれの店舗を軸に商品が提供されることによる課題を解消します。例えば、人件費の高さ、商品在庫の数、配送コスト、顧客ニーズの的確な把握、試用や試食、試着などといった課題です。これらは、顧客体験の向上と事業運営の最適化を図る上で大きな障害になっていました」(同氏)

同様のコンセプトの店舗は、淘宝(タオバオ)のブランド体験ストア、無人店舗のカフェ、コンビニなどで展開されている。こうしたビジネスを展開する上で欠かせないのがテクノロジーだ。

タオバオの店舗では、入店するときにQRコード認証や顔認証を行い、決済するときはゲートを通過するとAliPayを使って自動で決済する。店内のカメラで人と商品の動きを画像解析して店頭在庫を管理するため、コストに影響しがちなRFIDタグなどの貼付も不要だ。どこでどんな商品がいくつ売れるかは、大量のオンラインデータを分析して需要を予測し、最適な量の在庫を持つように管理されている。

「店舗のオーナーは、われわれが提供するオンラインデータの分析結果を活用して、どの店舗にどのくらいの商品在庫を持てばよいかを判断しています。ムダな物流コストや商品管理コスト、店舗スタッフの人件費などを削減できます。一方、顧客は自分が欲しいと思った商品を自宅やオフィスの近くの店舗でスムーズに手に入れられます。われわれのミッションは、テクノロジードリブンのニューリテールビジネス革命を起こすことです。企業と消費者の間でWin-Winの関係を実現していきます」(ソング氏)

画像認識やAR/VRなどの新しいテクノロジーも積極的に採用する。ソング氏はスマホアプリで写した自分の顔に、アプリを使ってリアルタイムで化粧を施すデモを披露した。商品サンプルの口紅を実際につけるのではなく、画面上で色味を確認することで、短時間でさまざまなサンプルを試すことができる。