ユーザーが受動的に情報を受け取るマスメディアに対し、どちらかというと能動的に情報を受け取るデジタルメディア。マーケティングに生かしていくにはどうすればよいのだろうか。

キリン デジタルマーケティング部の野際 陽介氏

「デジタルならではのタッチポイントを生かし、お客さまが思わず見たくなったり参加したくなるコンテンツ作りをするよう心がけています」と語るのはキリン デジタルマーケティング部の野際 陽介氏だ。

野際氏は、発泡酒「淡麗グリーンラベル」やRTS(Ready to Serve)「キリン 皮ごこち」などのブランドのデジタルマーケティング施策を手がける。

ロングセラーとなる「淡麗グリーンラベル」は、ブランドに対するさらなる好意度の獲得が求められる。一方、新しく発売された「皮ごこち」は、認知拡大が最優先課題だ。

一辺倒な施策を打つのではなく、商品が抱える課題に応じてメディアを使い分けていくことが重要であるという。

「毎回おもしろいよね」と評判!「淡麗グリーンラベル」

2014年のデジタルマーケティング部発足以降、大小さまざまな施策を打ち出してきている「淡麗グリーンラベル」。2015年に行われた「ツイッターおにごっこ」キャンペーンは、大きな反響を呼んだ。

Twitterで「#イインダヨ」というハッシュタグをつけて投稿した際、鬼役である「淡麗グリーンラベル」の公式キャンペーンアカウントから30分以内に「#グリーンダヨ」と返信されなければ、抽選で「淡麗グリーンラベル」6本パックが当たるというものだ。当時はオートリプライのシステムがなかったため人力で対応。「ハッシュタグ探しに30人以上を割くなど、大変な施策だった」と野際氏は笑顔で振り返る。

ツイッターおにごっこは多くのメディアにも取り上げられ、7日間で延べ応募総数3万件超を記録した。また、本連載第1回でご紹介した、忘れたころに「淡麗グリーンラベル」が届く「スローボタン」もタイムコンシャスな時代にゆとりを持とうというメッセージを伝える話題性のある施策のひとつだろう。

「淡麗グリーンラベル」のデジタル施策として今年公開されたのは、1年366日にそれぞれ紐付けられている誕生花をアニメーションで表現する「365FLOWERS」というWebサイトだ。

同サイトは、自分の名前を入力すると森、木、山などのグリーンな部分がアニメーションになって表示される「淡麗グリーンラベル」が過去に実施した施策「GREEN NAME」の成功例を参考にしている。いずれも、SNS上でアニメーションがシェアされることによる情報拡散を狙っている。

「GREEN NAMEや他の施策の経験から、顧客体験の提供と情報拡散を狙うためには、”自分ゴト化”できることが大切であると気づきました。GREEN NAMEではお客さま固有の『名前』という情報を利用することで、”自分ゴト化”を実現できています。また、体験のハードルの低さやシェアのしやすさもポイントです。そこで365FLOWERSでは、お客さま固有の情報として『誕生日』に着目しました。誰もが持っている誕生日をコンテンツにすることで、より多くの方に体験してもらい拡散されることを狙ったのです」(野際氏)

最近では、継続してデジタル施策を行ったことで、累積効果が生まれており、「毎回、グリーンラベルの施策はおもしろいよね」と期待するユーザーからの声も多くある。

「SNSなどから伝わってくる期待の高さは、気付けばプレッシャーにもなることもありますが(笑)、私たちにとって何よりのモチベーションですね」(野際氏)

キャンペーンを広めるにあたっては、デジタルメディアでの広告出稿と併せて、プロモート活動も積極的に行うことで各種メディアでの掲載も狙った。ターゲット層に対して影響力の高いメディアをリストアップし、どういうかたちで情報発信するとこれらのメディアに取り上げてもらいやすいかも考慮しているという。

タレントを起用した動画施策で「皮ごこち」の認知拡大を狙う

今年3月に新発売されたアルコール飲料「キリン 皮ごこち」は、Webの情報に敏感な20代〜30代の若年層がターゲットとなる商品だ。発売されたばかりの商品であるため、いかに認知を拡大していくかが課題となる。

まだ発売から半年だが、この短期間に「皮ごこち レモン、りんご」発売時、「皮ごこち ぶどう」発売時、「皮ごこち ゆずと伊予柑」発売時の3回にわたってキャンペーンを展開している。

ブランド展開時は認知度を追及

3月の「皮ごこち レモン、りんご」発売時は、交通広告やWeb広告を展開するとともに、Webキャンペーンを実施した。

イメージキャラクターとして起用されたのは、元AKB48人気メンバーの小嶋 陽菜さん。今年2月のAKB48卒業のタイミングに合わせて告知を行うことで、Webでの話題化を図った。

「皮ごこち レモン、りんご」の中吊り広告。小嶋 陽菜さんを起用

具体的には、「カワいいだけじゃない」という皮ごこちのコンセプトを小嶋さんが表現した8パターンの6秒動画を作成し、若年層をターゲットにYouTubeやTwitter上で展開。また、Twitterにて、当たりはずれを小嶋さんが動画で知らせるオートリプライ型プレゼントキャンペーンも行った。

「皮ごこち レモン、りんご」発売時のキャンペーンバナー

2度目は更なる認知度アップがテーマ

また、5月の「皮ごこち ぶどう」発売の際には、上市時を振り返りながら施策をブラッシュアップした。

ターゲットである女性の「心を動かす」というテーマを掲げ、「祝い」「凹み」「悩み」「恋」の気持ちに寄り添った4パターンの動画を作成してTwitterでオートリプライ型プレゼントキャンペーンを実施。

Twitterキャンペーンで接触できないターゲットには、FacebookやYouTubeなどのメディアで広告を出稿した。各媒体にクリエイティブを合わせるかたちで出稿し、認知度を高めるよう工夫したという。

「皮ごこち ぶどう」発売時のFacebook広告

3度目は味覚を伝え、購入へつなげる

「皮ごこち ゆずと伊予柑」発売時は、さらなる認知を促すと同時に、実購入につなげることを目標に掲げた。

“押し付け”になることなく味覚の特長を伝えるために、人気アニメの主題歌「笑顔に会いたい」のメロディーに載せて小嶋さんが皮ごこちの魅力を歌ったミュージックビデオを作成し、主にWeb上で展開した。

各メディアの特性に合わせて、小嶋さん視点、楽曲視点、商品視点と切り口を変えながら、同ミュージックビデオのプレスリリースを配信したところ、200を超えるメディアが取り上げるなど施策は成功を収めた。

「神は細部に宿る」と語る野際氏。動画の中には、実はこだわりが盛り沢山。歌い方一つ取っても話題性に繋がるという。本家「笑顔に会いたい」の作詞家・作曲家からもコメントを取り付け、プレスリリースに盛り込んでいる

TV広告を使わなかった理由

「皮ごこち」の認知拡大施策において、TV広告は一切実施しなかったという。十分な予算が確保されており、認知拡大を目的とするならば、現状ではTV広告が圧倒的に効果を出すことは間違いない。しかし、限られた予算の中で目的を達成したい場合には、デジタルの有効活用が求められる。

野際氏は「皮ごこちはターゲットの年代が20~30代とデジタルネイティブであるため、Webでの施策で十分効果があると考えました。ターゲットによってメディアを使い分けていくことを考える必要があると思います」と説明する。

「私たちのミッションは、お客さまとのコミュニケーションを通して、ブランドの課題を解決することです。見せたいもの、伝えたいことだけを伝達する一方通行のコミュニケーションではなく、お客さまも一緒に楽しめるように双方向のコミュニケーションをしていくことで、関係をより良くしながら、ブランドの課題を解決していきたいですね」(野際氏)

デジタルは、マスメディアと異なり双方向のコミュニケーションを得意とする。このデジタルの性質を活用し、ブランドが抱える課題をいかに解決するか、PDCAを回し次の施策に生かしていることが、「皮ごこち」や「淡麗グリーンラベル」のデジタルコミュニケーションにおける成果につながっているのだろう。