マイクロサービスアーキテクチャで目指すもの

【連載】

AWSで作るマイクロサービス

【第1回】マイクロサービスアーキテクチャで目指すもの

[2020/07/13 08:00]川畑 光平 ブックマーク ブックマーク

2014年にジェームス・ルイス(James Lewis)氏とマーチン・ファウラー(Martin Fowler)氏が提唱したマイクロサービスは、一時はバズワードと呼べるほどトレンド化しました。特にクラウドの世界ではデフォルトのアーキテクチャスタイルに位置付けられ、キャッチコピーとして雑誌/Webの記事やアナリストレポートにも登場し、近年では政府のシステム入札案件の要件としても見かけるようになってきました。筆者が執筆する連載「AWSで実践! 基盤構築・デプロイ自動化」の第1回でもマイクロサービスアプリケーションのメリットについて触れましたが、提唱された当初と比べて、マイクロサービスが実現を目指す領域は広がりつつあります。

従来、マイクロサービスでは、下図のような構成によって、以下に示すメリットが得られるアーキテクチャを目指してきました。

  • 開発チームごとに分担した各サービスの疎結合性/独立性が向上し、開発のアジリティが向上する
  • 使用頻度の高い特定の機能を、サービス単位でスケールできるため、アプリケーションパフォーマンスが向上する
  • 独立したサービスの集合でアプリケーションが構成されるため、特定のサービスが障害などで機能不全に陥ってもシステム全体が機能不全に陥ることはなく可用性が向上する

従来のマイクロサービスの構成

近年では下図のように、Webアプリケーション、モバイル、運用端末といったマルチクライアントに加え、サードパーティサービスに利用されることを想定し、ビジネスロジックを切り出してAPI化したマイクロサービスアーキテクチャを検討する動きも目立ち始めています。

こうしたさまざまなサービスを組み合わせて新たな付加価値を付ける試みは、SOA(Service Oriented Architecture)やマッシュアップなど、マイクロサービスが提唱される以前からありました。しかし、サービス連携時のセキュリティ対策の複雑さや多数のクライアントが接続するための拡張性に難があるなど、広く普及させるには障害となる多くの問題を抱えていました。

近年このような潮流が再び巻き起こっているのは、クラウド化によってスケーラビリティが容易に確保できるようになったことや、OAuth2、OIDCなどの標準化されたセキュリティ技術の普及により、技術的なハードルが下がってきたことが背景にあります。

一方で、このようなマイクロサービスアーキテクチャでアプリケーションを構築するのは容易ではありません。サービス分離によるトランザクションの分割/通信エラーの発生や、データベースが分離された構成での一貫性担保の問題、揮発性のあるサーバ環境での永続化処理の実行、各サービス自体のスケーラビリティの確保、さまざまなクライアントから実行される場合の認証/認可といったセキュリティ対策など、アプリケーション実装も相応に複雑になります。

例えば、もともとモノリシックだったWebアプリケーションのドメインロジックを分離して、上記の図のようにBackend Service APIとして切り出した場合、以下のようなアーキテクチャ上の検討課題が浮上します。

課題 詳細
サービス実行フロー制御 処理のオーケストレーション/コレオグラフィといったサービス実行フロー制御、エラーハンドリング方式
トランザクション管理 複数の更新系Backend Serviceを実行する場合の業務トランザクションのロールバックや補償トランザクション
ステートフル共有データストア アプリケーションにスケーラビリティを持たせることを目的とした、ステートフル(状態)データを共有するためのデータストアの利用や、データストア障害に伴うフェイルオーバー発生時のエラーハンドリング
サービスディスカバリ方式 サービスが動的にスケールアウト/縮退する場合のBackend Service APIのサービスディスカバリ
サービス間通信方式 Backend Service APIを呼び出す場合の同期/非同期の使い分け、リトライ/サーキットブレイカー処理
サービス認証/認可方式 OIDC、OAuth2.0に準拠した、JWTを使ったアクセストークンの連携方式
ロギング/モニタリング方式 アプリケーション/サービスを跨いでトレーサビリティを確保するためのロギング、各サービスごとのモニタリング
Backend Serviceステートレス化/冪等生 スケールアウトを容易にする、Backend Serviceのステートレス化を前提としたREST準拠API規約/ルール(HTTPステータスコードなど)、耐障害性向上のための冪等性をもつ処理実装
マネージドサービス連携 揮発性であるコンテナ/サーバレス環境下で、データ永続化のためのマネージドストレージやキューを利用する場合の方式
マルチクライアントにおけるサービス分割 Webアプリケーション以外にも、モバイルなどのSPAクライアント、サードパーティサービス連携がある場合のサービス分割/ビジネスロジックの分離方針

こうしたなかで、AWSではマイクロサービスアーキテクチャベースのアプリケーション構築をサポートする以下のサービスが提供されています。

サービス 説明
Elastic Load Balancing Classic Load Balancer、Application LoadBalancer、Network LoadBalancerで構成されるサービス。詳細は、連載「AWSで作るクラウドネイティブアプリケーションの基本」の第5回を参照してください。ALBでは、各コンテナにデプロイされたマイクロサービスのIP/ポートを意識せずにパスベースでルーティングを行うことができます
Route53 通常のDNSサービスに加えて、ECS上にデプロイしたマイクロサービスのサービスレジストリ/ディスカバリ機能やオンプレミスや別のデータセンタからのルーティングなどのリゾルバ機能があります
Amazon ECS マイクロサービスアプリケーションがデプロイされたDockerコンテナを実行するコンテナオーケストレーションサービスです。コンテナの死活監視やオートスケーリングなどを実行します。詳細は、連載「AWSで作るクラウドネイティブアプリケーションの基本」の第4回を参照してください
Amazon EKS マイクロサービスアプリケーションがデプロイされたコンテナを実行する、オープンソースのコンテナオーケストレーションツールKuberntesのマネージドサービスです。機能的にはECSと同等です
Amazon ElastiCache 複数のマイクロサービスアプリケーションのデータ共有のためのキャッシュストレージとして利用できるサービスです。詳細は、連載「AWSで作るクラウドネイティブアプリケーションの基本」の第19回を参照してください
Amazon API Gateway マイクロサービスアプリケーションのAPIゲートウェイとして利用できるサービスです。REST APIの定義やデプロイ、サービスへのHTTPリクエスト/レスポンス変換などを実行します。詳細は、連載「AWSで作るクラウドネイティブアプリケーションの基本」の第3回を参照してください
AWS Lambda サーバレスでマイクロサービスアプリケーションの実行が可能なサービスです。詳細は、連載「AWSで作るクラウドネイティブアプリケーションの基本」の第2回を参照してください
AWS Cognito 認証/認可サービスです。外部の認証Providerとの連携や、IAMロールに応じたAWSリソースへのアクセス制御、マルチデバイス間でデータ同期する機能などもあります
Cloud Map クラウドリソースのDNSサービスです。IPアドレスが割り当てられているEC2やRDSなどのAWSリソースに加え、LambdaやDynamoDB、SQSといったARNが割り当てられたリソースに対しても名前解決が可能です
App Mesh オープンソースのサービスメッシュプロキシEnvoyのマネージドサービスです。サービス間の通信、監視、ログやメトリクス出力などを実行できます
X Ray マイクロサービスアプリケーションを分析することができるサービスです。サービス実行時間の計測やトレース、フィルタリングによる可視化などが行えます
Amazon SQS マネージドキューサービスです。マイクロサービス間の非同期メッセージ連携などで利用します。詳細は、連載「AWSで作るクラウドネイティブアプリケーションの基本」の第28回を参照してください
Amazon SNS Publish/Subscribe型のメッセージ配信サービスです。複数のマイクロサービスへメッセージを連携する場合などで利用します。詳細は、連載「AWSで実践!基盤構築・デプロイ自動化」の第18回を参照してください
Amazon MSK (Managed Streaming for Apache Kafka) オープンソースのメッセージキューミドルウェアであるApache Kafkaのマネージドサービスです。非同期メッセージ連携などで利用します。Kafkaではデータの流量制御等きめ細やかな設定が可能です
Amazon MQ マイクロサービス間の非同期メッセージ連携などで利用します。メッセージの到達保証を担保したい場合に利用します

ただし、当然これらのサービスがマイクロサービスアーキテクチャにおける課題を全てカバーしてくれるわけではありません。必要に応じて、さまざまなオープンソースのプロダクトを組み合わせながらアプリケーションを構成/実装していく必要があります。

本連載では、AWSのマネージドサービスを駆使しながら、マイクロサービスのメリットを最大限享受できる、SpringBootをベースとしたアプリケーションアーキテクチャの実装例を紹介していきます。いまだにこの分野の技術は栄枯盛衰が激しく、各プロダクトの機能追加や新たなサービスの登場によってベストプラクティスは変わっていくので、AWSクラウド上での実装例の1つとして捉えていただくと良いと思います。

次回以降は、マイクロサービスアプリケーションを構築していく上で難しいハードルの一つである認証/認可処理について、その実現方法の全体像を解説します。

著者紹介


川畑 光平(KAWABATA Kohei) - NTTデータ

金融機関システム業務アプリケーション開発・システム基盤担当、ソフトウェア開発自動化関連の研究開発を経て、デジタル技術関連の研究開発・推進に従事。

Red Hat Certified Engineer、Pivotal Certified Spring Professional、AWS Certified Solutions Architect Professional等の資格を持ち、アプリケーション基盤・クラウドなど様々な開発プロジェクト支援にも携わる。AWS Top Engineers & Ambassadors選出。

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