日本データマネジメント・コンソーシアムは3月7日、今年で7回目を迎えるカンファレンスイベント「データマネジメント2018 ~データが拓く無限の可能性~」を開催した。その中から本記事では、ココカラファインヘルスケア 販促部 マーケティングチーム マネジャーの郡司昇氏が登壇したセッション「オムニチャネル時代のデータマネジメント戦略 ~顧客変化への対応~」の内容をご紹介しよう。

“友達以上、医者未満”の相談相手を目指して

ココカラファインヘルスケア 販促部 マーケティングチーム マネジャーの郡司昇氏

オムニチャネルを推進する上で、「店舗とネットを連動させて顧客を囲い込み、他社に逃がさない」「本当の狙いは(グループ間)シナジーの発揮」といった目的を掲げるケースは少なくない。

しかし郡司氏は「こうした目的はあくまでも社内からの視点を中心をしたもので、本当の意味でお客様のことを理解し、その声を聞いているとは思えません。果たしてご来場いただいている皆さんの中で、一人の消費者という立場から『特定企業のサービスに囲い込まれたい』という方はいらっしゃるでしょうか? オムニチャネルの目的は”顧客満足度の向上”であり、お客様は決して『囲い込まれたい』『押しつけられたい』とは思っていないのです」と語る。

そこで同社では、ヘルスケア市場のセグメンテーションから顧客ニーズを分析。人を介した情報サポートとして”友達以上、医者未満”の相談相手となれることを目指したという。

「弊社の分析では、ドラッグストアのイメージ総量と好意度の間で正相関があることが確認されました。これはストアイメージが多く持たれているほど、好意的な認識につながるという結果ですが、一方で特徴的なストアが存在していないことも大きく影響しています。結局のところ『ドラッグストアはどれも同じで近い店を使っているだけ』という認識だったわけです」(郡司氏)

ドラッグストアが差別化できていないという事実に対して、同社では複合的な取り組みを実施した。具体的には、健康や薬品に対して理解を深められる情報サイト「ココカラクラブ」での情報提供、利便性を高めるスマートフォン向けアプリ上での電子会員証や電子クーポンの発行、Q&Aサイト「OKWAVE」での専門家による適切なアドバイス、SNSでの情報発信などが挙げられる。

Webサイトやスマートフォン向けアプリなどで複合的な取り組みを実施

“友達以上、医者未満”の健康情報を提供

情報を提供する上で重要な”データ”と”情報”の違い

情報を提供する上で、特に重要だったのが”データ”と”情報”の違いだ。”データ”とは、なにかを文字や符号、数値、画像などのまとまりとして表現したもの。一方で”情報”は、人間にとって意味のあるものや、データを人間が解釈した結果といえる。

「少々乱暴な言い方かもしれませんが、”無作為なデータ”を”価値あるデータ”にしたものが”情報”といえるのではないでしょうか。たとえば、同じ期末セール広告でも、それを見た人によって”データ”なのか”情報”なのかが異なります。セールが好きな人なら、行動選択・意思決定の手段になるため”情報”です。また、セールが終わってから広告を見た人の場合、価値がないと判断すれば”データ”、『期末にセールをするなら来年まで待とう』という意思決定に関与すれば”情報”といえるでしょう。さらに、セールに興味のない人でも『セール中はレジが混雑するから行くのはやめよう』と思えば、それは”情報”になるわけです」(郡司氏)

また、郡司氏はDIKW(Data/Information/Knowledge/Wisdom)モデルのピラミッド構造を示し、”データの量”と”情報の質”についても言及。「大量のデータを分析すれば、価値ある情報がより多く得られる、というわけでもありません。分析の目的によって、各データはシグナルにもノイズにもなり得ます。いくら膨大なデータでも、ノイズが多ければそれだけ価値ある情報が減ってしまうので、まずはデータを使う目的を考えることが重要なのです」と語る。また、将来的にAIで実現できる領域には限界があることから、知識や知恵といった上位の領域については、ビジネスを理解した人が考えるべきであるという。

情報配信にも安心・安全への徹底したこだわり

同社では現在、”友達以上、医者未満”の情報を多数配信しているが、そこには安心・安全への徹底したこだわりがある。たとえば、ECサイトで購入できる点数制限、より分かりやすくかつ月1回のペースで最新版に更新される添付文書、買わなければ中身が分かりづらいノーブランド商品に対する動画データでの差別化、といった具合だ。

郡司氏は「こうしたタッチポイント戦略により、サイトセッション数が大幅に増加し、2018年1月には業界No.1を達成することができました。また、Q&Aサイト『OKWAVE』では約3000名の専門家の中で1位をたびたび獲得し、『OKWAVE AWARD 2017』で史上初となる専門家部門『Thanks Award』と企業部門『Social Contribution Award』をダブル受賞できたのも大きな成果といえます」と語る。

さらに、スマートフォン向けアプリについてもさらなる利便性向上を図っている。2016年6月にリリースした当初は、メールアドレスとパスワードだけで簡単にポイント会員登録ができるなど、目的をアクセス強化とブランド想起に絞り込んだシンプルな内容でスタート。同年12月には、いつでもポイント倍デー情報やチラシ情報が見られる「マイ店舗登録」機能の追加により、来店頻度と客単価向上を実現した。さらに2017年12月には、「店舗評価」機能を実装し、コーポレートスローガンである「おもてなしNo.1」の見える化を図っている。 「社長室宛ての手紙は、怒りや喜びなど一定以上の強い感情に起因する特殊な定性データです。手紙ではハードルが高くても、アプリに店舗評価機能を追加すれば、これまでと比べてより多くの定性データを獲得できるようになります。この増加した定性データと、体験の定量データを組み合わせることで、新たな分析・改善結果が得られるわけです」(郡司氏)

顧客/メーカー/自社の”三方良し”を実現

そのほか、同社では顧客の利便性向上を図るべく、ECサイト「ココカラファイン.ネット」、実店舗の公式サイト、会員サイト「ココカラクラブ」と3つに分かれていたWebサイトを「ココカラクラブ」に統合。店舗在庫・価格に関する確認機能の追加、アプリとのID共通化なども行っている。その結果、サイト閲覧履歴やアプリ操作履歴など、ID-POS以外のデータで分かることも増えたそうだ。

3つに分かれていたWebサイトを「ココカラクラブ」に統合

最後に郡司氏は「デジタルタッチポイントにおける顧客行動の分析により、一人ひとりのお客様にカスタマイズされた情報とインセンティブ配信が可能になります。こうした取り組みにより、お客様は自分に合った商品を知る・手軽に購入できるようになりますし、メーカーではリーチしたいお客様に商品と情報を届けてもらえます。さらに弊社としても、顧客満足度を得られた結果として収益向上が見込めるという、”三方良し”が実現するわけです」と語り、セッションを締めくくった。