防衛省の平成26年度予算に関する概算要求が出てきた。なんだか最近、「島嶼防衛」と頭に付ければ何でもあり、という風潮がなきにしもあらずではないかと思うが、それはそれとして。
最近になって浮上した新規案件のひとつに、無人偵察機(UAV : Unmanned Aierial Vehicle)がある。具体的には、ノースロップ・グラマン社製のRQ-4グローバルホークが候補になっているとかいないとか。東北地方太平洋沖地震の後で、福島第一原子力発電所の上空偵察を行ったことで知られる機体である。
UAVというと、過剰な期待を抱く人と、過剰な反発を抱く人と、両極端に分かれている傾向があるようだ。「ロボット兵器」なんていう言葉を使って煽る人がいると、ますますその傾向が加速する。
ということで、UAVと、そのUAVが深く関わっている分野であるC4ISR(Command, Control, Communications, Computers, Intelligence, Surveillance and Reconnaissance。指揮・統制・通信・コンピュータ・情報・監視・偵察)について取り上げてみようと思う。
UAVでできること
まず、UAVに何ができて、何ができないのか。現時点で使われている機体を引き合いに出しつつ、具体的に説明していこう。なお、UAVではなくUAS(Unmanned Aircraft System)という言葉を使うことも多いが、機体だけならUAV、さらに地上管制ステーションや通信関連機材などを組み合わせた「システム」として見た場合にUAS、と呼び分けるのが一般的ではないかと思われる。
UAVはその名の通りに人が乗っていないから、撃ち落とされても人命の損失につながらない。それだけでなく、搭乗員が疲れて居眠りしたり、お腹を空かせたり、トイレに行きたくなったりしない。つまり、機械的な条件と燃料搭載量が許す限り、長時間の連続飛行を行える。
これがもっとも効いてくるのが、C4ISRのうちISR、つまり情報収集・監視・偵察の分野である。たいていの場合、UAVには昼光用のテレビカメラと夜間用の赤外線カメラを搭載しており、昼夜を問わずに監視飛行を行える。波長の関係で赤外線映像の方が荒くなるが、何も見えないよりはマシだ。
そしてもちろん、静止画も動画も撮れる。動画の解像度は640×480ピクセルから1,920×1,080ピクセル程度だ。それだけでなく、撮影したデータをリアルタイムで、データリンク経由で送ってくることができる。つまり、UAVを飛ばしていれば「実況中継」が可能になるわけだ。ISRの手段としてはまことに理想的である。
日本で監視用に導入するのではないかと噂されている、RQ-4グローバルホークUAV(出典 : USAF) |
これがUAV登場以前であれば、地べたを這いつくばって人間が偵察に行くか、車両を使って偵察に行くか、有人の偵察機を飛ばすか、偵察衛星に頼るか、といった話になる。ただ、人間は動きが遅いし、車両は目立つ上に燃料補給などの負担が大きい。有人偵察機は迅速な偵察が可能だが、撃ち落とされたときに失うものが大きい。偵察衛星では常に同じ場所を継続的に見張ることができないし、天候に邪魔されることもある。
だから、偵察手段としてUAVは有用性が高い。ただし、すべての用途を単一機種でカバーするのは現実的ではないので、現場の小規模部隊レベルで使用する小型で安価な機体から、戦略偵察用途で使用する大型・高級・高性能の機体まで、さまざまな偵察用UAVができた。
たとえば米軍の場合、現場の小規模部隊は電気モーター駆動・手投げ発進式のRQ-11Bレイヴンを多用している。もちろん性能はたいしたことないが、「ちょっとあそこの建物の向こう側を偵察してこい」「あの丘の向こう側を偵察してこい」といった程度の用途なら、十分に有用だ。
手で投げて発進させる電動式UAV・RQ-11レイヴン(出典 : USAF) |
そのレイヴンの管制ステーションは「タフブック」を使用する(出典 : USAF) |
一方、師団・軍団といった大規模な単位で使用する機体としては、MQ-1プレデターの一族がある。MALE (Medium-Altitude, Long-Endurance) UAVに分類されるように、飛行高度は数千メートル以上に達し、20時間かそこらの連続滞空が可能だ。これなら長時間の偵察も容易である。これよりもう少し小型の機体もあるのだが、その話は措いておく。
そして、もっとも高級なのがRQ-4グローバルホークのようなHALE (High-Altitude, Long-Endurance) UAVである。RQ-4を例に取ると、運用高度は65,000フィート(約19,500メートル)に達しており、たいていの有人機の運用高度より高い。だから、いったん運用高度まで上昇してしまえば、有人機との衝突を気にする必要はない。
武装化もできるのでは?
UAVの多くは、昼光用のTVカメラと夜間用の赤外線センサー、さらにレーザー目標指示器やレーザー測遠機を一体化して、旋回俯仰が可能なターレットに収めたものを胴体下面に取り付けている。だから、機体の動きとセンサーの動きは必ずしも一致する必要はなく、ある程度の自由度がある。
ポイントは、探知手段だけでなく、目標指示手段としてレーザー目標指示器を搭載していることだ。だから、それを使えばAGM-114ヘルファイア対戦車ミサイル、あるいはペーブウェイ誘導爆弾といった、レーザーによる目標指示を必要とする兵装の運用が可能ではないか、という話になった。
UAVが偵察専用なら、目標を発見したら戦闘機や爆撃機を呼び寄せて兵装を投下させることになる。その際に目標指示をUAVが担当するか、戦闘機や爆撃機が担当するか、はたまた地上の友軍が担当するかは場合によりけりだ。ともあれ、UAVが「センサー」に徹して、「シューター」は別に呼んでくることに変わりはない。
ところが、UAVがレーザー誘導兵装を搭載すれば、「センサー」と「シューター」を兼用できる。すると、捜索・発見から直ちに交戦に移ることができて、緊急に攻撃しなければならない目標(業界用語でいうところの "time critical target" または "time sensitive target")に対処しやすい。
という発想の下、まずMQ-1プレデターの主翼下面にヘルファイア×2発を搭載した。これが、パキスタンやアフガニスタンやイエメンなどの上空を遊弋して、タリバンやアルカイダ関連組織の関係者を発見すると直ちにミサイルを撃ち込むようになり、国家主権との絡みなどもあって、賛否両論を引き起こしているわけである。
両翼に1発ずつヘルファイア対戦車ミサイルを搭載したMQ-1プレデター(出典 : USAF) |
では、その武装UAVのオペレーションはどうやっているのか? という話は次回に。
執筆者紹介
井上孝司
IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。