こんにちは。織田隼人です。

前回は「決断」をテーマに、「考える時間」から「悩む時間」を取り除くことで、決断の効率を上げるためのコツについてお話しました。仕事とは、つまるところ小さな決断の繰り返しですので、ひとつひとつの効率を高めることで大きく時間を節約できます。

さて、今回は前回あまり触れなかった比較的大きな決断について、その「質」を高めるにはどうすればいいか考えていきます。ここでいう「大きな決断」とは、文書やプレゼンの形式をどうするのかといった簡単なことではなく、その文書やプレゼンの内容に関する決断や、予算の割り当てに関する決断など、会社の利益に直接関わるような決断のことです。このような決断には、前回の話題とは違って「質」が求められます。会社勤めの皆さんは、現在このコラムを読んでいる最中にも、少なからずそのような類の決断に関わることを求められているでしょう。

決断を助ける睡眠の機能

夜。暗闇の中で唯一光を発しているパソコンのディスプレイの前で、あなたは頭を抱えています。一本のプレゼンを仕上げなければならないが、時間がない。資料は十分に揃っているし、詰め込みたい情報もおおかた決まっているのに、どうしても効果的な構成を考えつくことができない。あまりにも頭が働かないから、ままよ、と思って軽く睡眠を取ったら、悩んでいたのがバカらしく思えるほどあっけなく構成が思い浮かんだ――

こんな経験はありませんか?

決断力を高める前に社会人としての基礎スキルを高めたほうがいい場合も……

朝になると頭が冴えるのには、いくつか理由があります。もちろん、脳と体が休息することによって気分が上向くため、というのも見逃せない要素でしょう。しかし、事を「決断のため」だけに絞ってみると、睡眠にはそれ以上に重要な役割があります。

人間の脳は、「睡眠中に今までに得た情報を整理する」という機能を備えています。既存の情報網と新しい情報をうまくリンクさせ、情報どうしの広大なネットワークを築く作業です。このために情報を脳内でアレコレと動かしている最中に見るのが、夢だと言われています。すなわち、眠りから覚めるたびに、あなたの脳内はきれいに整理整頓されているのです。

冒頭に書いたようなことが起きるのもそのためで、知ったばかりではそれぞれの繋がりも見えないような雑多な情報が、眠っている最中に整理されたために、効果的な構成が思い浮かんだのです。

決断を妨害するもの

この知識を逆算すれば、決断の質を下げる「邪魔者」はなんなのか、ということが自ら見えてくると思います。すなわち、決断を鈍らせるのは眠りから覚めたあとに入手した「新しい情報」だというわけです。映画を見ているとき、一枚の画面の中に注目しなければならないものがたくさんあると、結局どれを見ても集中できないように、考えるべき情報が多ければ多いほど、決断の精度は鈍ります。

では、仕事場で視界に入ってくる「新しい情報」とは何のことでしょう。ここまで読んでいただいた皆さんなら、もうおわかりかもしれませんね。

それは、新着メールのことです。

多くのビジネスパーソンは、会社に着いたらまず新着メールをチェックします。メールには急用がかかれているかもしれないし、何より一通一通を読む時間が短くすむので、「さあ、今日も仕事を始めるか」といった感じでなんとなく手を付けてしまうことも多いでしょう。

また、常にメーラーが立ち上がっているビジネスパーソンも少なくありません。急ぎのメールならば、即座に気づいて返信しなければなりませんからね。

しかし、仕事始めとしてメールを読む、あるいは他の仕事をしているときに新着メールに気づく、という行為は、決断にとっては邪魔者でしかありません。せっかく脳が整理してくれた情報のネットワークにノイズが混じり、焦点を合わせるべき箇所が分散してしまうからです。特にメールの返信を保留して、「ああ、あのメールに返信しなきゃな」と考えながら決断をするのは最悪のケースです。

メールを読む目安は「朝11時」

以上のことを総合してみると、「朝一番で行う決断の質が、最も良い」ということになるでしょう。多くの人にとって習慣となってしまっている「朝イチのメールチェック」を少し後ろにずらし、質を求められている決断をこなすことから仕事を始めれば、結果として最も効率が良く、質も高い仕事をするための近道になるはずです。

私も忙しいときほど、メールをチェックする時間は「朝11時以降にする」と決めています。それまでに決断をこなして、午後までに返信が欲しいメールに対して優先的に返信するのです。

メールチェックの時間を遅らせることで、「早く返信が欲しいメールの返事を待たせてしまうのではないか」と心配になるかもしれませんが、考えてみれば、これだけテクノロジーが発展した現代において、メールだけを使ってやり取りをするのはナンセンスです。メールの文末や、名刺のアドレス欄に、「火急の連絡は電話にてお願いします」という一言を添えてみてはいかがでしょうか。

「メール送ったんだけど、読んでくれました?」的な電話……重要な用件ならメールの前に電話しよう

(イラスト ナバタメ・カズタカ)

執筆者プロフィール

織田隼人 (ODA Hayato)

心理コーディネーター&経営コンサルタント。心理についての解説の仕事をメインにしながら、経営のコンサルティング業務も行っている。元々は経営コンサルがメインで、マーケティングに関わりながら心理学を学んできた。心理の仕事では特に「男女の心理の違い」や「意思決定」を専門としている。男女の心理の違いを解説したブログに「男心と女心」があり、月間アクセス数は100万を超える。ほかにも心理学を学べるWebラジオやアニメーションも配信している。Webサイトはこちら → 知りたい! 相手の気持ち