キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)が発表した2010年第3四半期(2010年7月 - 9月)連結決算は、売上高が前年同期比2%減の1,570億円、営業損失は8億円の赤字、経常損失は5億円の赤字、当期純損失は10億円の赤字となった。

厳しい業績の要因となったのは、デジカメをはじめとするコンスーマ機器事業の落ち込みだ。

きびしい結果となったキヤノンMJの2010年度第3四半期。コンパクトデジカメに代表されるコンスーマ機器事業の落ち込みが大きい

コンスーマ機器事業の第3四半期売上高は8%減の486億円、営業損失は4億円の赤字となった。同事業が赤字決算となったのは、アナリストの間でも予想外の結果として捉えられている。さらに、2010年度(1月 - 12月)のコンスーマ機器事業の見通しを、7月公表値に比べて、売上高で30億円減額の2,200億円(前年実績は2,222億円)、営業利益で5億円減額の80億円(同104億円)と下方修正した。

同社の説明によると、台数ベースではデジタル一眼レフカメラが28%増、ビデオカメラが39%増となったものの、コンパクトデジカメが20%減、インクジェットプリンタが5%減となっており、コンパクトデジカメの販売数量の減少が際立つ。「コンパクトデジタルカメラでは、トップシェアを維持したが、出荷台数の減少、単価下落の影響が大きく、前年実績を下回った」と、キヤノンマーケティングジャパン コンスーマイメージングカンパニープレジデントの佐々木統専務取締役は説明する。

同社では、タッチパネル方式液晶モニタを搭載した「IXY 10S」、光学10倍ズームレンズ搭載機で世界最薄となる「IXY 50S」を9月に投入したものの、コンパクトデジカメ市場全体が、2万円以下の製品が6割近い市場構成比となっており、比較的高い価格帯で展開してきたキヤノンはその動きに追随できなかったともいえる。

GfKジャパンの調べでは、コンパクトデジカメ市場におけるキヤノンのシェアは、台数ベースでは18.6%であるのに対して、金額ベースでは19.9%。金額ベースのシェアが高いことは、他社に比べて、高価格帯の製品が中心に売れていることの証ともいえる。

「想定以上に価格下落が進展し、その流れについていけなかったことが反省材料。だがすでに、販促費の投入などにより対策を打っていること、第4四半期(10月 - 12月)は大きな価格下落がないと見られることから、影響は少ないだろう」と見る。さらに、「来年に向けては製品構成を変えていくことを視野に入れる一方、引き続き、キヤノンらしい付加価値を提供できる製品づくりにも取り組んでいく」とする。

だが、第3四半期に投下した対策費が経費を圧迫した点も否めない。商戦が本格化する前に前倒しする形で投下した販促費および宣伝広告費の増加が、コンスーマ機器事業の収益悪化に影響したのは間違いない。

「赤字にしてまでシェアを取るつもりはない。収益性を重視しながら、8年連続ナンバーワンのシェアを獲得したい」などと佐々木専務取締役は語る。価格下落が激しいコンパクトデジカメ市場での戦略が転換期を迎えているのは明らかだといえよう。

一方で、好調に見える一眼レフカメラも手放しでは喜べない状況にあるのは事実だ。

2月に発売した「EOS Kiss X4」がフルハイビジョン対応の動画撮影機能を強化した点などが受けて好調に推移したものの、9月に発売した「EOS 60D」は、EOSシリーズ初のバリアングル液晶モニターを搭載した製品として投入したが、第3四半期は想定を下回る実績になっているという。

「デジタル一眼レフカメラは、7月までは良くなった。9月の新製品で巻き返そうと考え、多くを望んだがそこまでは到達しなかった」と振り返る。第2四半期(4 - 6月)の同社のデジタル一眼レフカメラの出荷台数は前年同期比13%減。これに対して、第3四半期(7 - 9月)は28%増と回復しているが、想定ではさらなる伸びを見込んでいたようだ。

「EOS 60Dは、直近では販売台数が徐々に戻りつつあり、第4四半期(10 - 12月)では計画に近いところまで回復するのではないか」と、佐々木専務取締役は自信をみせる。デジタル一眼カメラの国内市場は、過去最高となる年間140万台の市場規模が見込まれている。キヤノンでは、台数ベースで前年比17%増を見込んでいるが、ここではやはりEOS 60Dがどれだけ増販できるかが大きな鍵を握ることになりそうだ。

また、「台数では伸張しているが、金額では前年並み」という状況である一方で、交換レンズが本体の販売増に伴い、出荷本数が増加。本体・交換レンズを合計した売上高は前年を上回っているという。交換レンズを含めた事業成長をどう描くか、またそれを来年にどうつなげるかが注目される。

さらに、好調なビデオカメラは、2月に発売したタッチパネル方式の「iVIS HF M31」や、8月に発売した内蔵メモリを倍増させた「iVIS HF M32」が好調で出荷台数は伸びたが、単価下落により売上高は前年を下回るという状況だ。キヤノンマーケティングジャパンでは、通期では49%増という高い販売台数成長を見込むが、フルハイビジョンモデルに特化することでどこまで単価上昇ができ、収益に貢献させられるかが課題だといえそうだ。

また、家庭用プリンタは、9月に発売した「PIXUS MG6130」などの新製品では、デザインと操作性を一新するなど意欲的な展開を行い、いよいよ第4四半期に需要の集中期を迎えるが、通期の販売台数計画は前年比4%減と厳しい見方をしている。だがその一方で、インクジェットプリンタ用の消耗品は前年比3%増という成長を見込んでおり、本体・消耗品をあわせた実績で前年を上回る方針を掲げている。ここでは、年末に向けて、ソリューション型の提案が試されることになろう。

年賀状印刷などで需要増を見込む家庭用プリンタ。こちらはデザインが一新した9月発売の「PIXUS MG6130」