「ADR申請によって新規顧客獲得が難しくなり、解約の増加につながった。申請自体で自主再建が難しくなった」。18日、会社更生法の適用申請を行ったウィルコムの久保田幸雄社長は苦渋の表情で語り、競争環境の激化や金融不安などの影響で破綻につながったPHS事業を振り返るとともに、今後もPHS事業は継続すると強調した。

会社更生法の申請で会見を行う久保田社長

久保田社長は、喜久川政樹前社長の後任として昨年8月に就任。次世代PHSサービス「WILLCOM CORE XGP」の投資に伴う新たな融資など、財務体質の改善を目指して音頭を取ってきたが、通信市場での競争激化によりPHSサービスからのキャッシュフローが当初計画よりも創出できず、それでまかなうはずだったXGPの開発コストなどが捻出できず、財政的に行き詰まった。

さらにカーライル・グループによる50億円の増資、ウィルコムの株式上場もなくなったことから、昨年9月に事業再生ADR手続きを申請。その情報がマーケットに流れると、新規顧客の獲得に支障が出て、さらに解約も歯止めがかからない状態となった。

競争激化と携帯市場の低迷、さらに金融不安や事業計画自体が不安視されたことで再融資も得られなくなったほか、PHSサービス自体の停滞、XGPの投資コストが重なったことで、これ以上の事業継続が困難と判断。「自主再建のシナリオ」(久保田社長)は頓挫を余儀なくされた形だ。負債額は2,060億円だった。ただし、久保田社長は昨年9月の段階では「ADR以外は選択肢がなかった」と話す。

XGP開始に向けて同社は、総務省から2.5GHz帯の周波数割り当てを受けており、その際はサービスの展開計画などを提出する必要があり、同社はキャッシュフローで開発コストをまかなえると判断していた。しかし、結果的にその見通しが甘かったということになる。

ウィルコムでは18日朝の取締役会で会社更生の適用申請を決定。責任を取る形で、取締役全員が辞表を提出した。スムーズに更生手続きを進めるため、久保田社長自身は管財人として残り、今後決める管財人らとともに事業の立て直しを図っていく考えだ。

ウィルコムのPHSサービスは、いち早くデータ通信の定額制を開始して法人ユーザーを中心に市場を開拓。スマートフォン「W-ZERO3」投入、音声定額の導入でユーザー数を伸ばしたが、携帯電話に通信速度で劣り、さらに携帯も定額制を導入したことで優位性が薄れた結果、最近のユーザー数は純減が続いていた。

しかし、久保田社長はPHSのような「ナローバンド」のサービスが社会インフラ的なサービスとして生き残れると見る。現在でも、自動車の通信端末やエレベーター、AED、ATMといったさまざまな機器に搭載されており、こうした情報伝達用途に加え、低電磁波により病院でも安心して利用できる点や、24時間の音声定額を安価に提供できる点などもメリットとしてあげ、「携帯と違うマーケットが存在し、これからも開拓できる」(同)と指摘。「今私たちが知っているよりも幅広いエリアでの活用が期待できる」と、さらなる拡大を狙っていく。

また、音声定額について、高校生向けに半額になるサービスを開始したほか、大学生向けにも範囲を拡大。こうした新サービスについて「テレビCMなどのプロモーション費用やマーケティング費用の資金が確保できなかった」(同)ことから、顧客拡大に至れなかったとして、支援ではこうした資金を確保することが大きな目的だという。また、サービスのコストダウンやXGPの開発投資の資金も支援を得たい考えだ。

会社更生手続きでは、支援企業として企業再生支援機構、アドバンテッジパートナーズ有限責任事業組合、ソフトバンクが手を挙げており、今後の再建計画に従って事業の再建を進めていく。

一部報道では、支援パートナー側はXGPに関心があり、従来のPHS事業とは分離する可能性も指摘されていたが、久保田社長は「技術的にはXGPとPHSには共通性がある」と指摘。既存の基地局を活用するなど、両者を分離するという点には否定的な見解を示す。ただし、再建計画で分離すること自体は否定してはいない。

従来のPHS、XGPに関しては今後も事業を継続し、NTTドコモのネットワークを使ったMVNOサービスも続けていく意向。発売したばかりの「HYBRID W-ZERO3」のようなスマートフォンも、今後開発を行っていく考えも示している。

今後、ウィルコムでは企業再生支援機構とスポンサー候補の支援を受けながら、具体的な再建策を決めたうえで、事業の再建に向けた取り組みを行っていくことになる。国産の独自規格として独自路線を歩むPHSサービスの生き残りをかけた正念場といえるだろう。