2023年に入ってから、回転寿司チェーン店で迷惑行為をする動画がSNSに投稿され、拡散しています。ある人はレーンを流れている寿司にわさびを乗せ、ある人はテーブルに置いてある醤油のボトルや湯呑みを舐め回すなど、食の安全に関わる行為であり、悪ふざけでは済まされません。
当事者となった回転寿司「スシロー」を運営する「FOOD & LIFE COMPANIES」は、本人とその保護者から謝罪を受けたものの警察へ被害届を出し、「刑事、民事の両面から厳正に対処する」ことを表明しています。
ほかにも、うどん店で備え付けの天かすを共用のスプーンで食べる動画や、カレー店で備え付けの福神漬けを直接食べる動画、火災報知器を鳴らす動画など、迷惑行為を撮影している動画が次々に拡散されています。迷惑動画が話題になっているため、過去の動画が掘り起こされているケースもあります。
迷惑動画は、InstagramのストーリーズやTikTokに投稿していた動画がTwitterで拡散され、さらにYouTubeへと広がっていきます。やがて人物が特定され、名前や学校名、SNSアカウントなども同時に拡散。まとめサイトに掲載されるようになり、「デジタルタトゥー」としてネットに残り続けます。
内輪受けのつもりでも
こうした迷惑動画を見ると、かつて炎上したSNS投稿が思い出されます。10年前、コンビニ店員がアイスケースの中に入った写真をFacebookに投稿し、コンビニ運営会社がその店舗のフランチャイズ契約を解約するなど、大きな騒ぎとなりました。
その後もこうした「炎上」は続きます。Twitterが舞台となってからは「バカッター」、さらにInstagramのストーリーズで動画を公開する人が増え、「バカスタグラム」と呼ばれるようになりました。アルバイト中の店員が迷惑行為をした場合は、「バイトテロ」と呼ばれます。
なぜ自分たちの悪行を画像や動画で撮影し、わざわざ証拠をネットで広めるのでしょうか。
迷惑行為をする人は、自分の友人たちに「俺はこんなに危ないこと(面白いこと)ができる」と自分の度胸を見せたい、またはウケてもらいたい「内輪受け」のつもりでやっています。周囲の友人も、ふざけている様子を別の友人にも見せたい、一緒に笑い合いたいとの思いから、撮影してSNSに投稿します。
しかし、公開範囲を知り合いのみに狭めていても、誰かが「画面収録」機能などで動画を保存し、本人を知らない人にも共有していくものです。すると単なる「面白いコンテンツ」としてTwitterやYouTubeなどで拡散して、フォロワーが多いアカウントに見つかればすぐに炎上、身元を特定されてしまいます。
若者たちにとって、SNSはリアルの人間関係を補てんするもの。仲間以外が自分たちの投稿を見たり、拡散したりすることに思いが及ばない若者も多くいます。親や学校などは、こうした行為には大きな代償を払う事態になると指導していますが、「自分だけは大丈夫」と考えているのかもしれません。
こうした迷惑動画を気軽な気持ちで投稿していても、その迷惑行為は企業にとっては重大な問題です。炎上した結果、ネットでの問題では済まなくなり、自分の人生が大きく左右される事態になりかねません。
撮影、投稿、拡散しないことも大切
迷惑行為をしないことはもちろん大前提ですが、私は撮影する人と投稿する人、拡散する人がいることも気がかりです。
迷惑行為をしている人を止めずに撮影する人は、もしかしたら「もっとやれ」と煽ったのかもしれません。投稿は本人の可能性もありますが、友人が投稿している場合も多いと推測されます。投稿したらどうなるかも、今の若者はネットリテラシーが低いわけではないので、ある程度は予想がついているはず。それでも共有したい気持ちが勝ってしまい、投稿してしまっています。
行為に及んだ本人が悪いのは当然として、周囲の友人も迷惑行為をネットに広める役割を担い、結果として企業に大きな損害を与えます。保護者の方々は、これから迷惑動画についてお子さんと話し合う機会があれば、迷惑行為をしないことはもちろん、一緒に撮影したり、投稿したりすることも問題であることを話してあげてほしいと思います。
また、迷惑動画を転載したり、本人の身元を特定して名前や学校名を拡散したりする人たちは、誹謗中傷にあたる可能性があります。自分の行為は悪行を正し、正義を守っていると考えているかもしれませんが、その段階ですでに本人は反省しており、企業も対応に動いているでしょう。問題になっている人の中には未成年者もいます。拡散する前に、相手が身近な人でもその行為(拡散)をするのか、いったん手を止めて考えてもらえたらと思います。
SNSはネットを通じて人と人がいつでも交流できる、すばらしいサービスです。ただ、そこにいる人たちの使い方しだいという側面もあります。誰もが心地よく楽しめる空間に近づけるように、みんなで努力していきたいものです。