スマートフォンを使う上で必要なのがアプリ。スマートフォンを買ってくればすでに多数のアプリが入っていますし、追加でアプリを入れない人はいないでしょう。しかしスマートフォンにインストールしたアプリの数が多くなればなるほど、アプリの整理も大変です。そもそもスマートフォンで自分たちがやりたいのは「アプリを使うこと」ではありません。「美味しいレストランを探す」「友人の誕生日にプレゼントを選ぶ」「来週の旅行の飛行機のチケットを買う」など、生活をより便利にするためにスマートフォンを使うわけです。

  • MWC2024で展示されていたAIスマホ

そこで登場しようとしているのがAIを活用した「AIスマートフォン」です。ドイツの通信キャリア、ドイツテレコムが現在開発を行っており、2024年2月にスペイン・バルセロナで開催されたMWC2024でデモが披露されました。ドイツテレコムは自社ブランドのスマートフォンの開発・販売も行っています。ヨーロッパでは「T PHONE」、アメリカでは「REVVL」という名前で販売中です。複数の製品を手がけており、高性能モデルから格安モデルまで多くのラインナップを揃えています。

  • ドイツテレコムオリジナルのスマホ「T PHONE」

ドイツテレコムはこのT PHONEにAI機能を組み込み、AIスマートフォンとしています。AIスマートフォンにももちろんアプリは入っているのですが、基本的に何かをしたいときは、AIスマートフォンに音声で質問したり指示したりするだけです。実際に開発中のモデルの操作を見せてもらいました。

  • スマートフォンの画面に「Hold to speak」と表示されている

  • 長押しして音声で話しかける

まずは音声で「2歳の娘の誕生日プレゼント」と話しかけます。すると数秒ほどでおもちゃのようなものが表示されました。これは実はAmazonで販売している商品ですが、AIが最適なプレゼントをすぐに表示してくれるわけです。初めての質問をいきなりした時はこちらの考えていたものとやや違うものが表示されるかもしれません。しかしスマートフォンを日々使い、何度も質問を繰り返していくうちに、AI側も質問者の嗜好を理解していきます。毎日のようにAIスマートフォンを使うことで自分好みのAIに教育できるわけです。

  • 音声を認識して英語で「2歳の娘の誕生日プレゼント」と表示される

  • 数秒で候補になるプレゼントが表示される

この後は再び音声で「このおもちゃの評価を教えて」とか「原材料は何」などと質問すれば、その回答が返ってきます。従来であれば「Googleで2歳向けのおもちゃを検索する」→「リンクからAmazonのアプリを開く」→「おもちゃの詳細を調べる」→「気に入らなければ、Googleの検索結果に戻る」といった操作が必要でしたが、AIスマートフォンならそれらも音声で指示するだけで済みます。パソコンで「ChatGPT」などのAIサービス/ソリューションを使うのと同じ感覚です。

  • おもちゃではなく絵本にする、といったことも簡単だ

なお実際の購入は商品を決めた後、アプリ(今回の場合ならAmazonアプリ)で行います。現時点ではこのようにAI機能は検索の導入に使い、実際の購入はアプリへと移動します。しかし将来的にはアプリの存在を気にすることなく、音声で「いつまでに配送して」「配送先は大阪の実家」「支払は普段のカードで」といった具合に、すべてAI機能上で完結するようになるでしょう。

生成AIのデモも行われました。「アフリカにいる象の写真を作って」と指示すると、AIが自動的に象の画像を生成します。画面を見ると「0.56s」とありますが、0.56秒、すなわち1秒以内でこんな絵が描けてしまうのです。「インドに行きたい」なんて一言を添えてSNSにアップする、といったことも簡単に出来るわけです。

  • 象の印象的な絵も1秒以内に作ってくれる

ドイツテレコムはこのスマートフォンのAI機能をすべてのスマートフォンに組み込めるように開発中です。ハイエンドスマートフォンなら本体内部の処理能力が高いので、オンデバイス処理、すなわちスマートフォンがオフラインでもAI機能を使えます。一方、格安スマートフォンの場合は、5G回線を使ってクラウドでAI処理を施します。クラウド処理のほうが通信を介するためやや時間がかかるでしょうが、同じAIエンジンを使っているためユーザーが求める結果はどんなスマートフォンを使っても同じになるのです。

  • ハイエンドスマホは単体で、格安スマホは5G回線経由でAIが使える

スマートフォンには本体を動かすためにCPU、グラフィック処理を行うGPUが必要ですが、最近ではAI処理などを行うNPU(Neural network Processing Unit)も搭載されています。NPUを使ったAI処理は数年前から主にカメラの画像処理に使われてきました。しかし2023年に起きたChatGPTをはじめとするAIブームを受け、2024年1月にサムスンが発表した「Galaxy S24」シリーズはAIをスマートフォンの基本機能に搭載しています。文書整形や音声のリアルタイム翻訳など、従来はサードパーティーアプリを使っていた機能を本体に内蔵しています。

Galaxy S24シリーズではたとえば音声通話をしながら、しゃべっている言葉を「自分の地声(オリジナル言語)」→「翻訳音声(AIによる変換)」の順に相手に伝えてくれます。アプリを別途インストールする必要が無く、スマートフォン本体を買うだけでこの機能が使えるのです。

  • AI機能を搭載するサムスンのGalaxy S24シリーズ

AI機能に特化した「AIデバイス」も形が見えてきました。Hamaneの「AI Pin」は胸につける小型のバッジ型デバイスですが、音声で話しかけると音声で回答してくれます。また小型カメラとプロジェクターを内蔵しており、数行程度の文字ならば手のひらに投影してくれます。まるでSFの世界を現実にしたようなデバイスですが、AIの進化がこのような製品を現実のものにしようとしているのです。すべてのスマートフォンがAIスマートフォンに進化するだけではなく、今後はポストスマートフォンともいえるこのようなデバイスが次々と登場することでしょう。

  • 音声でAI機能を使えるAI Pin