ソフトバンクは2021年7月14日、同社の先端技術を揃えた技術展「ギジュツノチカラ Beyond 5G/6G編」を開催し、6Gに向けた新技術の取り組みを披露しました。中でも同社が技術開発に力を入れているのは「HAPS」「テラヘルツ波」の2つですが、その実用化に向けた課題と対処法を、同イベントの内容から探ってみましょう。

成層圏で飛ぶHAPSに同じエリアをカバーさせる技術

世界的に技術開発競争が加速している携帯電話業界。国内でも携帯各社が「Beyond 5G」と呼ばれる現在の5Gのさらに先、そして5Gの次の世代となる「6G」に向けた技術開発が、積極的に進められるようになってきました。

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そうした中、ソフトバンクは2021年7月14日に「ギジュツノチカラ Beyond 5G/6G編」を開催しています。今回で3回目となるこのイベントでは、ソフトバンクが現在取り組んでいる新しい技術に関する取り組みのアピールがなされているのですが、今回はその題名の通り、6Gに向けた新しい無線技術が大きなテーマとなっていたようです。

ソフトバンクはこのイベントにおいて、6Gに向けて12の挑戦に取り組むことを打ち出しているのですが、その中でも技術面でのチャレンジとして打ち出していたのが、1つにエリアの拡張です。

現在、ソフトバンクをはじめとした国内の携帯電話事業者は99%超の人口カバー率を誇るエリアをカバーしていますが、それでも山間部を中心に携帯電話の電波が入らない地域は存在しますし、人の住んでいない場所のカバーもなされていません。さらに世界に目を移せば、そうした場所がまだまだたくさんあることも確かです。

しかし、6Gでは地球全体をエリア化することが求められるとしており、そのためには上空からエリアをカバーする必要があるのですが、中でもソフトバンクが開発に力を入れているのが、成層圏で飛行し地上に電波を飛ばす飛行機「HAPS」です。

ソフトバンクは「HAPSモバイル」を設立してHAPS事業に力を入れており、2020年には実際に成層圏での飛行に成功。約5時間の飛行ながら実際に電波を飛ばし、地上でも通話や通信ができることを確認できたとのことです。

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    ソフトバンクは2020年、HAPSの成層圏飛行に成功しており、5時間超のフライトで地上をLTEでカバーできることを確認したという

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    実際のフライトで使用したペイロード(携帯基地局の無線設備)。700MHz帯の電波で地上の端末と通信する一方、Eバンド(70~80GHz)で地上のコアネットワークに接続する仕組み

ですが、HAPSの実用化に向けてはさらなる課題解消が求められており、その1つが飛行ルートによらず同じエリアをカバーし続けること。HAPSは広範囲を旋回しながら飛行するのですが、現状では飛行機が移動し、向きが変わることで電波を射出する場所や方向が変わってしまうことから、端末が動いていないのにハンドオーバーが発生し、端末と基地局ともに負担が増え、通信体感が落ちるという問題が発生してしまうのだそうです。

そこでソフトバンクでは、HAPSの機体が動いても同じ場所をカバーできるよう、機体の向きが変わっても同じ方向にアンテナを向けることに取り組んでいるのですが、そうするとアンテナの向きを変える度にケーブルがねじれてしまうという問題が発生します。そこで同社では、回転してもねじれが生じないアンテナを開発、すでに通常のケーブルと同等の性能を持つ試作機が完成しているとのことです。

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    HAPSで同じエリアをカバーする上で、ケーブルがねじれないよう開発された回転ケーブル。回転しながらも、ケーブルを通るアナログ信号が劣化しないよう維持するのに苦労したとのこと

そしてもう1つ、同じ場所をカバーするために用いようとしているのが「シリンダーアンテナ」というもの。これは縦方向と横方向に電波を制御し、3次元の任意の方向に電波を射出できるアンテナ。射出する電波の方向を変えて同じエリアをカバーできるだけでなく、さらに多数のアンテナを搭載して個々の端末に向けて電波を射出する「Massive MIMO」の技術を導入することで、通信容量を増やすことも計画しています。

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    3次元の任意の方向に電波を射出できるシリンダーアンテナ。Massive MIMO技術の導入で通信容量を増やすことも検討されている

ミリ波より難しいテラヘルツ波をモバイルに活用

もう1つの技術的チャレンジとなるのが「周波数の拡張」です。5Gでは従来より高い周波数、とりわけ「ミリ波」と呼ばれる主に30GHz以上の周波数帯の活用で、従来より一層の高速大容量通信を実現することが大きな変化となっていますが、6Gではより高い周波数の「テラヘルツ波」(100GHz~10THz)を活用し、更なる高速大容量通信を実現することが視野に入れられています。

しかし、テラヘルツ波は電波と光の中間というべき領域で、その利活用についても開拓が進んでいない部分が少なからずあります。特に懸念されているのが、ミリ波以上に直進性が強く、電波減衰も大きいため移動通信に適していないこと。現状は正確にアンテナ同士を向き合わせ、固定しておかないと通信ができず、少しでも位置がずれたり、遮られたりすると通信ができなくなってしまうのだそうです。

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    テラヘルツ波による通信のデモ。非常に直進性が強いので送信側と受信側のアンテナを正確に向い合せる必要があり、少しでもずれると通信ができなくなるという

そうしたことからソフトバンクは、テラヘルツ波の研究に取り組んでいる岐阜大学やNICT(情報通信研究機構)らとテラヘルツ波の活用に関する共同研究を進めており、スマートフォンに搭載できる超小型のテラヘルツ波用アンテナの開発などに取り組んでいます。しかし、ソフトバンクも独自にテラヘルツ波の活用に向けた技術開発を進めており、その1つとなるのが「回転アンテナ」です。

これはパラボラアンテナの原理を応用したもので、アンテナから射出された電波を反射板で反射させ、なおかつ反射板を高速回転させることで360度の方向に電波を送り、異なる場所にある複数の端末にテラヘルツ波の電波を届けるというもの。現在は横方向のみの回転であるなど課題はまだ多く存在しますが、これがテラヘルツ波による通信を“固定”から“移動”へと広げる上での第一歩になると見ているようです。

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    回転することでテラヘルツ波の電波を360度に送る、回転アンテナの試作機。反射板は3Dプリンターを活用して安価に製作できたとのことだ

6Gの商用化は5G商用化の10年後、つまり約10年後と見られており、従来の通信方式の事例を振り返るならば、そこからさらに10年にわたって高度化が進められるものと考えられます。

HAPSやテラヘルツ波が日常的に使われている様子を想像できる段階にはないというのが正直なところですが、6Gが普及した暁にはそうした技術の活用が一般的なものとなる可能性が高いでしょうし、その際ソフトバンクが開発に取り組んでいる技術がどこまで貢献しているのかが注目されます。