携帯電話会社やローカル5Gの免許を取得した事業者など、5Gのインフラを手掛ける事業者は、いずれもパートナー企業と5Gを活用したビジネス開拓や、5Gの実証実験をするための「オープンラボ」に類する施設に力を入れているようです。なぜ各社が5Gでオープンラボに力を入れているのでしょうか。

5Gで急浮上した「オープンラボ」とは

コロナ禍の影響やエリア整備、端末の販売など、普及に向けては非常に多くの課題があるとは言え、国内でも5Gに関する取り組みが粛々と進められていることは確かです。5Gに取り組む事業者には大手の携帯電話会社から、ローカル5Gの事業者まで非常に幅が広いのですが、それら企業の取り組みを見るとある共通点が見られます。

それは各社が5Gを活用した技術デモを展示したり、5Gの実証実験などをしたりする拠点「オープンラボ」を用意していること。各社はオープンラボをパートナーとなる企業や自治体などに提供し、共同で5Gを活用したビジネスを開発することに力を入れているようです。

実際、携帯電話大手の動向を見てもNTTドコモが2018年より、5Gのサービス創出に向けた「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」を提供しており、それらのパートナーが5Gの技術検証などをするための「ドコモ5Gオープンラボ」を用意。KDDIも5Gビジネスの開発拠点として2018年から「KDDI DIGITAL GATE」を開始してていますし、ソフトバンクも2018年に「5G×IoT Studio お台場ラボ」を展開しています。

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    KDDIは2018年より、東京などに5GやIoTを活用したビジネス開発拠点「KDDI DIGITAL GATE」を展開してパートナー企業とのビジネス開発を進めている

また、ローカル5G関連事業者の動向を見ても、NTT東日本が2019年から東京大学と共同で「ローカル5Gオープンラボ」を設立していますし、オプテージも2020年6月に「OPTAGE 5G LAB」を設立。NECや富士通も、それぞれ「ローカル5Gラボ」「FUJITSU コラボレーションラボ」といった形で、パートナー企業との実証に向けたオープンラボを用意しています。

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    オプテージは2020年6月17日に、西日本初となるローカル5Gのオープンラボ「OPTAGE 5G LAB」を開設、ローカル5Gのデモや実証などができる場として活用されている

ローカル5G事業者はともかく、少なくとも携帯電話会社は4Gまで、パートナー企業に自社の施設をオープンな形で体験・活用してもらう、オープンラボのような取り組みはあまり積極的に実施していませんでした。それがなぜ、5Gでは各社がこぞってオープンなスタイルのオープンラボの展開に力を入れるようになったのでしょうか。

5Gのキラー不在でユースケースの開拓に力を注ぐ

そこに大きく影響しているのは、5Gの普及をけん引する“キラー”が不在だという実情にありそうです。4Gの時はスマートフォンの通信速度をより高速にしたいという明確なニーズが存在したことから、スマートフォンがキラーデバイスとなって4Gが急速に普及したという経緯があります。

しかし、5Gの場合、低遅延を活用した遠隔操作や多数同時接続を活かしたIoTなど、未来の取り組みに対する期待は非常に高いのですが、一方でスマートフォンのように普及を明確にけん引するデバイスやサービスが存在していないのです。

5Gのキラーがないということは、5Gの商用サービスが始まる前から懸念されていたことでもあります。そうしたことから、特に国内では携帯各社が5Gのキラーとなり得る事例を見つけるべく、早い段階からオープンラボに類する施設を展開。さまざまなパートナー企業に協力を募り、双方のノウハウを生かすことで5Gのキラーとなる事例の開拓を進めてきたのです。

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    NTTドコモは2017年、5Gのサービス創出に向けた取り組みを一般の人に体験してもらう拠点「5Gトライアルサイト」を東京スカイツリーなど2カ所で展開していた

一方、ローカル5G事業者の場合、無線通信に必ずしも長けている企業が多い訳ではありません。それゆえオープンラボを開設する理由はユースケースの開拓だけでなく、パートナー企業と協力して5Gの無線通信を検証し、ノウハウを身に着けることにもあるようです。

それらの取り組みを経てもなお、5Gのキラーとなるデバイスやサービスはまだ見つかっておらず、漠然とした期待感だけが高まっているのが現状です。それだけに各社は今後、オープンラボを通じてパートナー企業と連携してのビジネス開拓に一層力を入れていく必要があると言えそうです。