新型コロナウイルスの影響で中止となった、携帯電話に関する世界最大の見本市イベント「MWC Barcelona 2020」。そこで注目されたであろう技術は、5Gの「高速大容量通信」の次のステップ、より具体的には「低遅延」の実現に向けたものだったと考えられます。5Gの低遅延実現に向けては、どのような技術が必要とされているのでしょうか。

「高速大容量」の次に向けた取り組みに注目

携帯電話業界の1年の動向を占うイベントして、毎年大きな注目を集めている「MWC Barcelona」。2020年も2月24日より、スペイン・バルセロナで開催される予定だったのですが、型コロナウイルスの影響を受けて参加企業の多くが不参加を表明したことから、主催するGSMAが中止という判断を余儀なくされたようです。

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    携帯電話業界最大のイベントともいえる「MWC Barcelona」だが、2020年は新型コロナウイルスの影響で中止に。写真は2019年のMWC Barcelonaより

毎年MWC Barcelonaを取材している筆者にとっても非常に残念な出来事でしたが、もし2020年のMWC Barcelonaが実施された場合何が注目されたのかというと、それは「低遅延」に向けた取り組みではないかと筆者は見ています。

2019年2月に開催されたMWC Barcelonaでは、まだ5Gの商用サービス開始前だったことから、5Gの商用サービス開始に向けた準備が整っていることのアピールがなされていました。しかし、2020年は日本でようやく5Gの商用サービスが開始されるとはいえ、世界に目を向ければ既に多くの国々が5Gのサービスを提供している状況であることから、5Gを次のステップに進めることが求められていたと考えられるのです。

現在、5Gのネットワークはまだノンスタンドアローン運用で、5Gの特徴のうち「高速大容量通信」しか実現できていません。早い国では2020年から5Gの特性をフルに発揮できるようにするため、スタンドアローン運用へと移行を進めると見られています。

とはいうものの、実は5Gが持つ3つの特徴のうち「多数同時接続」はまだ標準化作業の最中でもあったりします。そうしたことから注目されているのは、もう1つの特徴である「低遅延」の実現に向けた取り組みなのです。

5Gは無線通信でありながら、ネットワーク遅延が1ミリ秒程度と非常に小さいことが特徴となっており、それが自動運転や遠隔医療など、遠隔で何かを操作する仕組みの実現に大きく貢献すると言われています。そうしたことから5Gの低遅延は、自動車業界や建設業界、さらにはeスポーツの広まりでズレのない操作の反映が求められるゲーム業界などから注目され、大きな期待が持たれているのです。

クラウドの負担軽減が低遅延につながる

その低遅延を実現する上で、重要な技術の1つとされているのが「モバイルエッジコンピューティング」です。

そもそもネットワーク遅延が起きる要因は大きく2つあり、1つは端末とクラウドを結ぶネットワークの距離から来る遅延です。コンピューターのネットワークは多くの場所で高速な光回線が使われているものの、やはり距離が遠いほどデータをやり取りするにはある程度の時間がかかってしまうものなのです。

そしてもう1つはクラウドでの処理負担から来る遅延です。例えばクラウド経由で映像を伝送する場合、データ通信量を減らすためクラウド側で映像を圧縮してから送るなどの処理をすることが多いのですが、遠隔運転などシビアな操作が求められる場面では処理時間でさえ大きな遅延として影響してしまうのです。

これら2つの問題を解消する技術となるのが「エッジコンピューティング」というものになります。具体的には端末とクラウドとの間に「エッジサーバ」と呼ばれるサーバを設置し、クラウドにかかる処理の一部をエッジサーバーで負担することで、クラウドまで送るデータの量と処理負担を減らして遅延を少なくする訳です。

そのエッジサーバを基地局など端末により近い場所に設置することで、5G通信時の遅延を一層小さくするというのがモバイルエッジコンピューティングになります。そうしたことから携帯電話会社も、大きなビジネスの実現が期待される低遅延の実現に向け、モバイルエッジコンピューティングの実現には力を入れているようです。

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    2019年の「Rakuten Optimism 2019」より。モバイルエッジコンピューティングはユーザーの端末の近くにあるサーバーでクラウドの処理を負担し、低遅延を実現する技術となる

国内の動向を見ても、NTTドコモは「ドコモオープンイノベーションクラウド」という名称で、5Gのサービスを創出するパートナー企業に向けたモバイルエッジコンピューティングを提供していますし、AWS(Amazon Web Services)はKDDIなどに、モバイルエッジコンピューティングサービスを提供するとしています。また楽天モバイルも、全国4000カ所にモバイルエッジコンピューティング用のサーバーを設置することで、低遅延の実現を進めるとしています。

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    NTTドコモはパートナー企業と共同で5Gのサービスを創出する「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」を展開しており、パートナー企業に5Gのネットワークだけでなく、モバイルエッジコンピューティングの「ドコモオープンイノベーションクラウド」も提供している

2020年のMWC Barcelonaは中止となってしまいましたが、だからといってモバイルエッジコンピューティングと低遅延の実現に向けた取り組みが止まる訳ではありません。日本でも2021年頃には5Gのスタンドアローン運用が始まり、低遅延の実現に向けた取り組みが進められると考えられるだけに、その動向に注目しておきたい所です。

佐野正弘

福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。