弊社刊行の雑誌「Web Designing」で連載中の「エキソニモのView-Source」は、HTMLのソースとそのレンダリング後の画面をセットで展開するという珍しいアート作品だ。レンダリング後の画面だけを見るとグラフィックデザインのようだが、HTMLソースのほうを見るとインタビュー記事が埋め込まれており、レンダリング後の画面でゲスト自体を、HTMLソースのほうでゲストとエキソニモの関係やバックグラウンドなどを知る事ができるという仕掛けになっている。
今回の作品を見たとき、「あっ! なんか見たことがある」と思った。それは決してパクリとかそういった類いのものではなく、なにか懐かしいもののような印象だ。カーソルのイラストは、一見1クリックアワードポスターにも見えるがなんだろう? と思い当たったのが、WebDesigningの表紙だ。確かこんなやつあったよなあと思いながらバックナンバーを検索すると確かにあった。
ただし、よく見てみると、それほど似ている訳ではない。ただし、この表紙が創刊号のものであったというのには驚いた。2001年10月のことだから今から10年も前のことだ。当然エキソニモはその当時は既に活動をしていただろうから、きっとこの表紙も見たであろう。今回の作品のどこかには、そんな記憶が残るっていたのかもしれない。
今回の作品の構成は、文字化け、カーソルのイメージで構成されたカーソルとなっている。きっとこの文字化けには何かの仕掛けがあるに違いないと思いつつ、鑑賞モードへと進んでいく。そこで裏面を見ると……。以下がソースである。
今回のview-sourceのURLは、拡張子が.jpg。JPEdデータのMIME Typeをサーバ側で強制変換し、HTMLとして出力している。そうすると、JPEGのバイナリデータが無理やりHTMLとして解釈され、文字化けになる。しかし、JPEGファイルのEXIFにHTMLでコメントを入れることで、そのHTML部分だけは正しく解釈され、前ページのような表示となる。そして、前ページに貼りつけられているカーソルの画像は、実は自分自身(つまりこのJPEG自身)なのだ。自 分 自 身 の ヘ ッ ダ か ら 自 分 自 身 を 入 れ 子 状 態 に 取 り 込 む 。そ れ ぞ れ の J P E G の E X I F の 中 に も 、こ の テ キ スト が 含 ま れ て い る と い う .. .. バ イ ナ リ・フ ィ ード バ ッ ク! で 、謝 辞とさせていただきます。
今回は仕掛けがエキソニモご本人によって解説されている。そうか、そういう仕組みだったのか。納得。ということで今回は終了とさせていただこう。
などというわけにはいかないので、更に解説をしてみたい。
今回の作品を読み解くヒントは実は表面にも存在していた。「カーソルのイメージで構成されたカーソル」の部分である。この作品がカーソルを再帰的に呼び出して表示しているように、イメージ自体によってそのイメージと同じカーソルが作られていることに敏感な人間であれば気づくと思う。そして、決定的なのは、「Photoshop」の文字と、文字化けの中に潜む「ExifMM*JR」の文字だ。
EXIFというのは、「富士写真フイルムが開発し、JEIDA(日本電子工業振興協会)で標準化された画像フォーマット」なのだそうで、画像データにメタデータを埋め込むことが出来、かなりのデジタルカメラで採用されている。つまり、EXIF形式の画像内にHTMLを埋め込んだということが読み解けるのである。では実際に作品をブラウザで見てみよう。
ブラウザについている開発ツールを使うと、画像本体が取り出せる。
さて、本来であれば画像ファイルなはずが、何故HTMLとして表示されたかというのはソースに書かれた解説の通りだが、何故そうなるのかについて少し解説してみよう。普段僕らがブラウザで見ているWebページ/Webコンテンツは、サーバから送られて来た全ての情報ではない。サーバからはブラウザで表示されるもの以外に様々なデータを送信してきている。
これらはヘッダとか呼ばれるが、この中に「Content-Type」という形でどんなファイルが送信されてきたかを伝える信号が含まれている。例えばhtmlであれば「text/html」という文字列がこの中に入ってくるし、画像であれば「image/jpeg」のような文字列が入ってくる。ここまでくれば察しのいい読者にはわかるであろう。ブラウザにこのJPEGファイルはHTMLですと伝えればいいのだ。
さて、今回のようにJPEGをHTMLと間違って読み込ませる世界には何が広がっているのだろうか? その答えはGoogleが握っている。試しに「ExifMM*JR」で検索してみよう。
GoogleがHTMLなどと間違えて出力されてしまった現象すらインデックスしてあり、これらが大量にひっかかってくる。もちろん文字化けしており、何語かわからない状態である。ページをめくっていっても出てくるのは不毛な文字列だけだ。
ただ、どこまで進んでも不毛かと聞かれると言葉に詰まる。というのも今回のエキソニモの作品のように、EXIF領域になんらかのメッセージを入れているケースもあるからだ。ひょっとしたら何か宝の地図のような情報を詰めてインターネットに流している人がいるかもしれない。
※この記事は、『Web Designing』2011年1月号に掲載された「エキソニモのView-Source」の解説記事です。『Web Designing』本誌とあわせてお楽しみください。