コロナ禍によりテレワークが広がるなど働き方が大きく変わりつつある今、企業の総務部門は何をすべきなのか――月刊総務社 代表取締役/戦略総務研究所 所長 豊田健一氏は、「”戦略総務”に進化して変化を主導せよ」と提言する。

本稿では、9月9日にオンラインで開催されたTECH+フォーラム「バックオフィス業務改革 Day 2021 Sept.」にて、「総務のDX」をテーマに語られた豊田氏の講演内容をレポートする。

デジタル化は手段であって、目的ではない

新型コロナウイルス感染症の拡大による影響はさまざまだが、良い意味で起きている変化としては、リモートワークの実現や”見えない課題”の可視化に向けたDXの推進が挙げられる。総務部門でも、「誰が押印するか」「誰が代表電話をとるか」「郵便物をどうするか」といった課題への対応が進みつつある。

だが、それらのDXについて豊田氏は「手段が目的化していないか」と警鐘を鳴らす。

「Transformation with Digital、つまり何かを変革したり、実現したりするためにツールを使うということです。これを間違えてはいけません」(豊田氏)

豊田健一氏

月刊総務社 代表取締役/戦略総務研究所 所長 豊田健一氏

それには、「What(何を)とWhy(なぜ)」、次に「How(どうやって)」、そして「What(どのように変化したのか)」というステップでDXを進めるべきだという。まず何がしたいのかを考え、それをどう実現するかの部分でテクノロジーを使うわけだ。

もちろん、そこで終わりではなく、デジタルツールを使うことによる波及効果が生まれる。その1つがデータだ。豊田氏は、「(データを)総務的にどう理解し、読み解き、どう対処するかが重要」だと説く。

具体的には、アナログ情報をデジタル情報に変換する「デジタイゼーション」、業務環境・プロセスをデジタル化する「デジタライぜーション」、顧客や社員接点のデジタル化を通じて総務サービス(ビジネスモデル)を変換する「DX」、そしてデータを掛け合わせて予兆を把握し、どう対処するのか先回りして考える「データアナリティクス」と4つのステップを経ることになる。

働く場の多様性は社員の自律性とセットで

では、DXのステップであるWhatとWhy、How、結果のWhatを総務部門に当てはめるとどうなるのか?

最初のWhat「総務は何を目指すのか」について、豊田氏は「それぞれの会社で考えるべきだが」と前置きしながら、仮説として次の3つを挙げた。

  1. 生産性が高い働く場:働く場の多様性
  2. 俊敏で柔軟な組織:VUCA時代への対応
  3. なくてはならない総務:戦略総務の実現

1については、働く場所がオフィスから自宅やサテライトオフィスなど多様化する今、多くの人々は自律的に選択したいと思っていることが背景にある。企業は最大限の選択肢を提供する必要があるが、半面、これまでのようにオフィスに全ての機能を揃える必要がなくなっている。

そこで言われているのが、広義のアクティビティ・ベース・ワーキング(ABW)の概念だ。オフィスは、交流したり協働したりする場、あるいは学びの場のように機能特化型となり、家は集中する仕事やソロワークの場所として成り立つ。豊田氏は「本質的には、場所ありきではなく、今やっている仕事は何を目的としているのか、その生産性が最も高まるのはどういう状態か、それを実現できる場所はどこなのか、を考えればよい」と説明し、上司が命令するのではなく社員が自律的に選択する世界でなければならないと説く。

「(働く場の)多様性と自律性をセットで進めなければ、総務がいくらたくさんの”場”を作っても誰も使っていないという状況になってしまいます。いろいろな場を作りつつ、社員の自律性をどう育むかが重要です」(豊田氏)