DXやイノベーションといった言葉が声高に叫ばれている昨今だが、本当の意味で成し遂げられている企業がどれだけあるだろうか。言葉だけが先行し、本来の目的を見失ってはいないだろうか。

8月27日に開催された「ビジネスフォーラム事務局 × TECH+フォーラム DX Day 2021 Aug. DXの要は経営者の視座」に、ケイアンドカンパニー 代表取締役の高岡浩三氏が登壇。かつてネスレのCEOとしてイノベーションを起こし続けた自身の経験を基に、DXとイノベーションの本質について語った。

なぜ今、変革が求められているのか

「昨今はイノベーションやデジタルトランスフォーメーション、ビジネストランスフォーメーションなど、まさに”トランスフォーメーション”が花盛りです」

講演冒頭、高岡氏はそう述べた上で、「トランスフォーメーションの意味は”変革”だが、単なる変化だけではなく、大きく物事を変えていかなければならない。ではなぜ、我々に今、変革が求められているのか」と問いを投げかけた。

高岡浩三氏

ケイアンドカンパニー 代表取締役の高岡浩三氏

高岡氏が変革の背景として考えているのが、日本の現状だ。かつて高岡氏は、経営学者のフィリップ・コトラー氏に会った際、氏から「日本は戦後、目覚ましい復興を遂げた国で、バブル期までは世界で最もイノベーションな国だと思っていたが、その後はどうなんだ」と問われたという。バブル崩壊以降、日本の経済発展は低迷し、現在に至るまで”失われた30年”と呼ばれているのは周知の通りである。

日本はなぜ成長が止まってしまったのか。その理由を考えるためには、逆に「日本はなぜ戦後、成長できたのか」を考える必要がある。

高岡氏は、戦後の日本の成長モデルを「日本株式会社モデル」と呼び、次のように説明した。

「通常であれば、国が復興するときには外資が入り、そこに頼って成長するのが新興国の常です。しかし、政府や有識者はそれをよしとせず、日本だけで復興しようと考えました。ですが、当時の日本にはお金持ちも投資家もいませんでした。そこで、唯一お金を持っていた銀行を大株主として、発展復興を目指そうと考えたのです。これこそが、世界に類を見ない”メインバンク・システム”だったのです」

さらに当時の日本は、「毎年増える人口」「低い労働コスト」「世界有数の高い労働力の質」といった条件を兼ね備えており、これらの要因が経済成長を押し上げる原動力となったのである。

言い換えれば、「コストを抑えて品質を高く保ち、世界に打って出られた」ことこそが高度経済成長期の日本の勝ちパターンだった。そこにあったのは「労働力の質の高さ」であり、イノベーションではなかったというのが高岡氏の見立てだ。

「当時は誰が社長をやっても伸びた時代だったのです。だからこそ、1人がずっと社長をやるのは不公平だということで、社長の任期が決まっていました」

その後、バブルは崩壊。ほどなくして、日本は未曾有の不景気に陥る。一方、世界は情報化社会を迎え、次なるイノベーションを必要としていた。

「世界第2位のGDP大国となり先進国の仲間入りを果たした日本でしたが、それまでの勝ちパターンだった”日本株式会社モデル”からの脱却ができなかったのです」

90年代、世界のトップ企業20社のうち、7割は日本企業が占めていた。ところが、2020年末に発表された世界トップ企業20社に日本は1社も入っていないのが現実だ。日本のトップ企業であるトヨタですら、この時点ではトップ50社にも入れていなかった。

さらに、現代の日本は65歳以上の高齢者が全体の25%を占め、世界で最初に人口が減少し始めた”衰退国”となっている。このような状況の中で、企業が持続的に売上と利益を向上させるにはどうすればいいのか。

自らも失われた30年の中にキャリアを置いてきた高岡氏は、「日本に必要なのは新しい21世紀型マーケティングとイノベーションである」と提言する。