新型コロナウイルス感染症の拡大は、あらゆる分野/業界にデジタル化の波をもたらした一方で、特別定額給付金の支給の遅れ、FAXでの感染者数の集計による混乱など、デジタル化における課題も浮き彫りにした。急速な外的変化に対応するために、私たちはテクノロジーとどう向き合っていくべきなのだろうか。

12月3日に開催された「マイナビニュースフォーラム 2020 Winter for データ活用」で、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別招聘教授/ドワンゴ 代表取締役社長 夏野剛氏が、日本のデジタルトランスフォーメーション(DX)の現在地と未来について語った。

夏野剛氏

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別招聘教授/ドワンゴ 代表取締役社長 夏野剛氏

テクノロジーをまったく活かせていない日本の現状

インターネットやスマートフォンといったテクノロジーの登場により、私たちの生活は劇的に変化した。夏野氏は「平成の30年間でのでいちばんの変化はテクノロジーだった。コロナ禍以前は世界中でIT革命が起こっていた」とし、次のようにその変遷を振り返る。

「日本におけるIT革命の幕開けは、1996年のYahoo! JAPANのサービス開始でした。1998年にGoogleが創業し、(IT革命は)本格化しました。そして2000年代には、ブロードバンド化によりインターネットが日常化し、2008年にはスマートフォンの時代へと入っていきました」(夏野氏)

農耕技術や産業革命も含めテクノロジーの進化が社会にもたらすものは、生産性だ。その結果、人々に余裕ができ、新しい付加価値が生み出され、新しい産業が登場する――こうした歴史が、文明の誕生以降繰り返されてきたといえる。そして、1996年以降に起きたテクノロジーの進化は、劇的で急激な生産性向上を私たち人類にもたらした。

しかしここで夏野氏は、日本の名目GDPおよび労働生産性が1996年から2018年の間にそれぞれ3%/2%しか上がっていないのに対し、同期間で米国はそれぞれ155%/110%も成長しているというIMFの調査結果を紹介。「米国はデジタルの領域では遥かに日本の先を走っており、生産性向上を実現している。他の国も同様。しかし、日本だけが生産性が低いまま。これは、日本がまったくテクノロジーを活かせていないということを意味する」と、日本の現状について問題提起する。

1996年と2018年の成長率比較

1996年と2018年の成長率比較