9月8日に開催されたマイナビニュース スペシャルセミナー「クラウド移行、成功と失敗の分岐点」では、「気象ビッグデータのクラウド化に向けた組織とチームの取組み」と題し、ウェザーニューズ Cloud Initiative Team Leaderの小野晃路氏と、同社 DIT Department DevOps Engineer 武藤直樹氏が登壇。

同講演では、「経営層レベルの理解+会社全体のクラウド推進」と、「現場チームレベルの実装+クラウド利活用」という、クラウド移行に欠かせない2つの視点から、どのようにして同社がクラウド移行を推進してきたのかについて言及された。

日々の天気予報を支えるITインフラ

1986年に創業し、現在は社員数1000人を超えるウェザーニューズの主な事業は、気象情報を活用したリスクコミュニケーションサービスだ。最新の気象予測を基に、さまざまな業界に向けてリスク対応策を提案している。

天気予報は毎日何度も更新されるが、それらの予報は、気象衛星や各国気象庁のデータ、顧客からの情報、ウェザーニューズの利用者からのデータなど、非常に多岐にわたる情報を組み合わせた上で、ウェザーニューズ独自の分析/予測をして提供されるものだ。

気象データ

気象データの流れ

このためITの効果的な活用が大きな意味を持っており、同社ではネットワークを含む情報システムのインフラを社内で構築してきた。

「以前より、自社のサーバルームや外部のデータセンターなどを広く活用してきました。我々インフラチームが手掛けるITインフラの管理業務は、サーバの設置/撤去やサーバルームの空調管理のほか、法定停電時の対応、現地データセンターでの作業、回線の準備、施設との交渉、ケーブル類の敷設、整理など非常にさまざまです。設置場所が海外になると、移動して作業するだけで1週間ほどかかるケースもあります。”縁の下の力持ち”であり、やりがいはあったのですが、当社のサービスを直接生み出しているわけではないため、クラウド活用へと大きく舵を切ることとなりました」(小野氏)

クラウド活用の「2つのメリット」

2012年から一部でクラウド利用を開始したものの、インフラチームではあまり活用は進んでいなかった。しかし、2015年にクラウドカンファレンス「AWS Summit」に参加したことで、パブリッククラウドの必要性を意識するようになったという。

「当社にとってのクラウドを活用するメリットは、大きく2つあると思っています。1つは、トラフィックに合わせたリソースの活用ができること、もう1つはグローバルでのデータの入手や提供がタイムリーにできることです」(小野氏)

天気予報のニーズは「雨が降りそう」「台風が接近している」など、多くの人々が天気を気にする状況になるほど高まる。当然ながらトラフィックが増えることになるが、オンプレミスの頃には、ピークトラフィックに合わせてインフラを用意して安定稼働を実現してきた。しかし当然ながら、天気の安定した日などトラフィックに余裕がある日にはかなりのリソースが無駄になってしまう。

「AWSであれば、トラフィックに合わせてリソースを利用できることに魅力を感じました」(小野氏)

また、クラウドであればインフラ設備の維持/管理のための現場作業も不要になることも、グローバルにサービスを提供しているウェザーニューズには大きなメリットとなる。これは「コロナ禍となって特に強く感じたメリットの1つ」(小野氏)だという。

経験から得た「クラウド移行のポイント」

ウェザーニューズのITインフラチームでは、前述の2つのクラウド移行メリットを踏まえてチーム内の意識改革に取り組み、その上でIT部門全体に説明を行った。2016年後半からは、インフラチームでクラウド利用の受付を開始し、さらにIT部門向けのパブリッククラウドの勉強会や相談会などを定期的に行うことで、社内の意識改革を促していったのだ。

さらに2019年、役員向けのクラウド説明会を経た上で、同社の中期経営計画のなかでクラウド活用を宣言するまでに話は発展していった。今年4月にはAWSのサポートの下、クラウド利用標準ガイドを作成しており、現在オンプレミスからクラウドへの移行が着々と進んでいる。

これまでの経緯から得られたクラウド移行のポイントについて、小野氏は「最初は、現状のシステム構成のままでよいので、実際に使っているシステムの一部をクラウド上で稼働させてサービスを開始してみることではないか」と語る。

「少しずつクラウドに慣れ、理解していくと次々に新しい発見があり、改善していきたくなるものです。そして次のステップとして、オンプレミスのために作ったシステム構成をクラウドネイティブな構成へと作り変えていきます。

クラウドの世界では、次々と新しいサービスや機能が提供されるので、後になればなるほど覚えるべきことが増えてしまいます。そのため、まずはいち早く第一歩を踏み出すことが大事なのではないでしょうか。

また、インフラ部門、システム開発部門、セキュリティ部門などのメンバーでクラウド推進チームを構成するとともに、トップを巻き込んで会社全体でクラウド活用を促進することも、当社では大きな効果が出ています」