アクロディアは9月25日、9軸センサー内蔵の硬式野球ボール「TechnicalPitch」を発表した。

硬式野球ボールの中心部に、3軸加速度、3軸地磁気、3軸角速度の3つのセンサーを搭載。ボールの回転数、回転軸、球速、球種、変化量、腕の振りの強さ/時間などのデータを取得し、Bluetoothでスマートフォンの専用アプリケーションへ送信する。さらにスマートフォンからクラウドへデータを送り、クラウド側で投球モーションや球質を解析する仕組みだ。

TechnicalPitch。中心部分に3つのセンサーと通信モジュール、電池を搭載したIoTデバイス。投球専用ボールで、見分けがつくよう縫い目を青くしている

アプリは、Android用、iPhone用が用意されている。詳細画面に遷移すると、回転数、回転軸、球速、球種、変化量、腕の振りの強さ/時間がわかる

電池は交換/充電に非対応だが、スリープ機能が組み込まれ、約1万回の投球を計測可能。ボールからスマートフォンまでの通信距離は約20メートルで、グラウンド脇の安全な場所からでも利用できる。

すでに特許を取得済みで同日より販売開始。コンシューマ向けには1球 1万9500円、野球チーム向けには傷んだボールを取り替える包括的なリースプランなどを提供する予定だ。

硬式球と重量、重心、強度を揃えるのに苦労

「TechnicalPitchの開発に着手したのは約2年前になる」(アクロディア 代表取締役社長 堤 純也氏)という

アクロディア 代表取締役社長の堤 純也氏

アクロディアは元々、フィーチャーフォン向け組み込みソフトウェアを開発を手がけていた企業。その経験を活かしたIoT関連サービスに力を入れていく中で、今回の硬式野球ボールの開発案が生まれたという。

中心部のデバイスは、スマートフォンと連携する車載機器などの開発で実績豊富なアルプス電気が担当。V9時代に読売ジャイアンツのピッチャーとして活躍し、プロ/アマ問わずさまざまな野球チームで投手コーチを務めている中村 稔氏をアドバイザーに招聘し、体制を整えた。

開発を担当したアルプス電気の稲垣 一哉氏は、難しかった部分として、重量や重心のバランス、強度の調整を挙げる。

「お話をいただいた当初は、さほど難しいとは思っていませんでしたが、プロ野球選手が使う道具なので、センサーや通信モジュール、電池などが搭載されたデバイスを、通常のボールで使われているコルク製のものとまったく同じ重量、重心にしなければならず苦労しました。しかも、紐や皮で何重にも巻くことになるため、強度も確保する必要がありました。何度もテストして作り直して、ようやく満足していただけるレベルのものに至りました」(稲垣氏)

また、回転数など、データ精度の確認にあたっては、レーダートラッキングシステム「トラックマン」を導入済みの球団に協力を依頼して数値を比較。差異は数%で、正しい数値が取得できているという認識に至ったという。

測定結果画面。球速や回転数、回転軸、腕の振りの速さなどが表示される

練習場でも回転数が確認できる

トラックマンとの違いについて堤氏は、「トラックマンは、大きな設置費用がかかるため、プロ野球のスタジアムなどでなければ導入が難しい。TechnicalPitchであれば個人でも購入でき、普段の練習から回転数などのデータを確認できる」と説明。ピッチャーの練習内容が大きく変わる可能性があると続けた。

利用イメージ。スマートフォンとペアリングするだけ

加えて、TechnicalPitchは、投球モーション時の腕の振りも数値化できる。「球種によって腕の振りに違いがないか」「リリース前に力んでいないか」などがチェック可能だ。

ボールのデータを基に投球モーションも解析できる

すでに一部のプロ野球球団が秋季キャンプでテスト予定で、春季キャンプでの正式採用を目指しているという。また、米国球団での検討も進められており、米国向け硬式野球ボールの生産にも着手しているという。