さまざまなタイプの中小企業

中小企業の方に会うと、本当に千差万別な会社や経営者が存在し、「中小企業」とひとくくりに一般化することがとても難しいと感じます。中小企業は、「宇宙の星」ようだと言う大学教授がいました。新しいエネルギーを発生して出現する煌びやかなテクノロジーやビジネスモデルを持つ「新星」型企業、その中でもさらに高速のスピードで成長していく「彗星」型企業、大手企業のテクノロジーを補完しウィンウィンな関係を築いている「惑星」型企業、地域経済に根差して企業グループを形成する「星群」型企業、創業の頃から全くぶれない存在感の「北極星」型企業などさまざまです

星の中心部で起きている核融合の燃料を使い果たしてしまうことを「星が年を取る」とか「星が死ぬ」と呼ぶそうです。まさに現在、事業承継に悩んでいる会社の状態に似ていると思います。さまざまなタイプの中小企業が存在するように、その企業の中ではさまざまなひとり情シスが奮闘しています。そして、ITを活用して事業承継に立ち向かっています。

兼任型情シスの比率の向上

中小企業基本法で定義される300名以下の企業では、情報システム要員が極めて少ないという結果が出ています。ひとり情シスや、兼任型情シス、ゼロ情シスなどの比率が極めて高くなっています。 特に、100名以下の企業の場合、93.8%では専任情シスが存在せず、兼任型ひとり情シスがほとんどであるという結果が出ています。

  • 300名以下中小企業の情シス兼任比率(デル調べ)

兼任型ひとり情シスの仕事の範囲には、いくつかのパターンがあります。ひとり情シスが積極的にさまざまなことに関与する場合もあれば、兼務として必要最低限の内容だけに留まる場合、複数人で分担して情シス一人分の仕事をこなすパターンなどがあります。100名以下の優良中小企業において、兼任型の情シスが上手くいっているケースには共通点があることが分かりました。

「合体ロボ版ひとり情シス」を構成する人々

中小企業では、フルタイムの情シスを抱えることは難しいです。フルタイムの情シスが1人でもいるのは、100人に満たない企業では100社の内7社だけという現状です。残りの企業は、全て兼任型ひとり情シスです。IT運用が円滑に行われている会社は、複数人でひとり分の「ひとり情シス」の仕事を形成しています。

多くのケースでは、4人程の構成メンバーでバーチャルなひとり情シスを運営しているような状況です。これは旅行の行き先を決めるのと同じで、奇数だと割れやすいけど、偶数だと議論を尽くして決定しなければならないからです。この4人が自分の業務の合間から時間を少しずつ切り出して協力することによって、中小企業でのITシステムを運営しています。それぞれの得意な面や知識など合わせ、あたかも合体ロボのように全体を構成する形です。メンバーの形態の違いは多少ありますが、実際そのような会社を多く見てきました。

ある製造業の会社の情シスを構成する4人について説明します。

  • 4人で構成する「合体ロボ版ひとり情シス」

社長
一般的なイメージだと、「中小企業の社長はワンマン」と思われることが多いと思いますが、実際に会うとそのようなタイプの社長ばかりではありません。多少意固地な面はありますが、和を重んじ、従業員にしっかり定着してもらうことを常に考え、家族的な雰囲気で経営しているタイプの社長が昨今多いように感じます。ITに関してはある程度の知見もあり、常に強い興味があります。しかし、まずは社員に参画してもうことを考え、最初からあまり前面に出ることはありません。問題提起や混乱した時の仲裁に出るようにしています。

役員
中小企業の社長は、営業活動や取引先との関係作りなど対外的な仕事をしている時間が長いです。その間、社内をきっちり守っているのが取締役や管理部長、経理部長などであることが多いかと思います。必然的に会計ソフトなどの業務システムなどへの関与が多く、 ITについて理解が深まります。また、PCなどのIT機器を購入するための最終決済をするので、金額観も理解しています。常に社内を守る立場から、全社のIT化以前の問題点などを客観的に理解しています。

技術者
中小企業の製造業には、中心となる技術者や今後中心となるべき若手技術者の方がいます。技術者は社内の新しい技術を研究推進し、若手技術者などの教育なども受け持ちます。一般的に、技術者は機械の専門家であって、ITに明るい電気電子の専門家ではありません。しかし、自身で勉強し、新しいITトレンドに敏感です。事実、現在の製造工場では数値制御の工作機械が一般的ですので、プログラミングもこなすなど必然的に高いスキルを持っています。技術の目利きは慎重な態度なので、新しいITの採用にも十分考慮して意見を出すタイプです。

営業担当者
中小企業の営業担当者は、自社製品の技術的な点も理解してコンサルテーション営業を行っていることが多いです。いろいろな企業と接することが多いので、他社のITについての動向が耳に入ってきています。取引先の営業部門が最新のCRMを導入すれば、使い勝手や効果がどうかなどの話を聞く機会も多いです。どちらかというと、社内に新しいITを導入すべきと積極的に進言するタイプです。

意識的な対立構図を作る

最適なIT運用をしている社長がたびたび話すことには「社員が仲良しなのはとてもいいことだが、仲良しクラブにはならないようにしている」そうです。仲良しクラブになってしまうと、どうしても視野の狭い価値観が形成されやすくなり、変化に対応する意識が弱くなってしまうためです。また、最近の若手社員は、とても素直で真面目であり、おとなしくて自己主張をせずチームワークなどへの気をつかうなどスマートな傾向にあると評されます。しかし、仲が良い関係が行きすぎると徹底した議論がなされないので、結果的には、積極性や創造性の欠如などが起きてしまいます。

そのため社長は、営業部門と技術部門に分けて意見が出るように刺激して、創造的な葛藤を生み出しながら議論をさせるように仕向けているとのことです。一見、自身の組織の利害からの意見になりがちだと思いますが、お互いの部門がそれぞれの悩みを持っていることを知ることにもなり、全社の課題の共有につながるとのことです。

まず営業部門を巻き込む

中小企業で新しいITのプロジェクトをスタートする場合、複数のプロジェクトを並走させることは資金的にも人員的にも難しいことがあります。ITベンダーの側面から見ると、ビッグバン方式がトータルコストを下げる場合も多いと思いますが、ユーザー部門への展開まで考えるとリスクが多いのも事実です。そのため、ひとつのプロジェクトが確実に完了してから、次のプロジェクトに取り掛かることが多いものです。

しかしながら、それぞれの部門で緊急の優先課題があり、一歩も引けない状況の時もあります。部門間の議論で「どちらを優先するか?」は結論が出ません。そのような場合は、「営業部門から着手すべき」というのがIT運用に成功した中小企業の社長達の意見です。これにはいくつかの理由があります。一般的に、中小企業の営業部門についてはデジタル化がされていることが少ないので生産性の改善の余地が大きいという点が第一の理由です。しかし、これは表向きの理由でもあります。実は営業部門は声が大きいために、一度反対勢力になってしまうと、とても厄介な存在になってしまうとのことです。

ひとたび営業部門が興味津々で動き出すと、取引先に社内のデジタル活用の進捗などの話をすることによりお客様からの信頼感が増し、結果的には受注が増えるというようなことになると聞きます。

そして社員の気持ちをひとつに

中小企業でのITの導入は大掛かりな社内イベントだと言う方もいます。会社を良くすることをテーマにして社員でブレーンストーミングや議論すると、さまざま意見が出て収束つかなくなることが多いです。しかし、ITを活用して会社を良くしていくというフィルターを一枚かけると、建設的な議論がしやすいとのことです。「ITは社員の気持ちをひとつにする」とまで言う社長もいるほどです。

特に合体ロボ型ひとり情シスを運営していると、自分の所属部門で討議して、代表者として全社のIT戦略にインプットすることになります。そして、討議された結果を自部門で展開してリテラシーを上げることも、この構成メンバーが担ってくれるそうです。そして会社の方針なども同時に組織の隅々に届くようになるとのことです。

IT業界に働く身としては、ITがきっかけになり社内のコミュニケーションが円滑になり、戦略展開も早くなることや、事業承継にもITが一躍買っていることを聞くと、とても嬉しくなります。更なるサポートが充実することを心に誓う次第です。

デル株式会社 執行役員 戦略担当 清水 博
横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス、本社出向)においてセールス&マーケティング業務に携わり、アジア太平洋本部のダイレクターを歴任する。2015年、デルに入社。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手がけた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネス統括し、グローバルナンバーワン部門として表彰される。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。産学連携活動としてリカレント教育を実施し、近畿大学とCIO養成講座、関西学院とミニMBAコースを主宰する。著書に「ひとり情シス」(東洋経済新報社)。AmazonのIT・情報社会のカテゴリーでベストセラー。ZDNet「ひとり情シスの本当のところ」で記事連載、ハフポストでブログ連載中。早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。
Twitter; 清水 博(情報産業)@Hiroshi_Dell 
Facebook;デジタルトランスフォーメーション & ひとり情シス https://www.facebook.com/Dell.DX1ManIT/」