こんにちは。ご縁があって今回からコラムを掲載させて頂くことになりました、税理士の高橋秀明と申します。みなさん、よろしくお願いします。
最初に、私の仕事「税理士」について簡単に紹介させて頂きます。税理士とは、税理士法という法律に基づく資格を持った"税"の専門家ということになっています。主に次のような業務をしています。
1.税務書類の作成
申告書、申請書、届出書、その他税務官公署に提出する書類を作成します。
2.税の相談
税務についての一切の相談に応じています。税理士には、依頼者の秘密を守る義務があります。
3.会計業務
税務には会計処理が伴います。法人税の申告や所得税の青色申告も記帳に基づいて計算されますから、これも税理士の仕事のひとつです。
以上のような仕事を基幹としつつ、中小事業者のさまざまな相談にのり、サポートを日々行っています。
では本題に入りましょう。
最初のテーマは、決算数字の見方です。4月は、全国的に会社の決算の時期です。みなさんもテレビや新聞で見聞きすると思いますが、会社の決算は3月期が多く、その決算報告を6月の株主総会で行います。
ちなみに会社というのは、決算期をいつにしても良いのですが、わが国では3月期決算と9月期決算が多いようです(ただし、上場企業はほとんどが3月期ですが)。私の事務所では中小企業の決算期をあえてずらし、一年間の決算作業が集中しないように平準化しています。
税法上は、決算期後2カ月以内に課税庁へ申告納税することになっています。しかし、手続きをすれば、決算期後3カ月以内に申告すればよいことになっています。私の事務所では、年末年始の時期や夏休みの時期は避けるようにしていますので、11月期決算と6月期決算は少なくなっています。
決算数字といえば、みなさんもご存じだと思いますが、「損益計算書」とか「貸借対照表」ということになります。ちなみに、「財務諸表」という言葉は、損益計算書と貸借対照表を含んだ総称と思って頂いて結構です。
今回は、損益計算書(P/L:Profit and Loss Statement)を見ていきましょう。
損益計算書
少し難しい定義でいうと、会計上損益計算書とは、『一定の会計期間に属する諸収益(期間収益)と諸費用(期間費用)の差額としての収益余剰を、当期純利益として確定する仕組みをもっている』ということになります。わかりやすく言えば、会社の会計期間である事業年度において、売上高から費用を差し引いたものが利益になるということです。
では、売上ってなんでしょうか? パソコンを例に考えると、
(1)パソコン会社がパソコンを仕入れてそれを売る。
(2)パソコン会社が部品を購入して、技術者が組み立ててパソコン製品にしてそれを売る。
(3)パソコン会社が売ったパソコンをお客様が使用できる環境にセットする。その設置・導入するサービスの提供を技術者が行った結果収入を得る。
といった取引があり、それぞれその提供した対価((1)仕入売上、(2)製造売上、(3)サービス売上))に対して報酬を得ることが売上です。現金で受け取れば現金売上、代金の回収がその対価の提供の後になれば売掛金となります。
わざわざ3つに分類しましたが、(1)は小売業であり、(2)は製造業、(3)はサービス業となります。業種業態は違っても、取引における売上の概念はご理解頂けたかと思います。
次に、粗利益を考えます。売上と原価との関係を上の3つの業種に絞って考えてみましょう。少し難しい定義でいうと「会計上、原価とは支出によって量定された財貨(金銭)または役務(サービス)のこと」(「最新財務諸表論」武田隆二著/中央経済社)とあります。
(1)パソコン会社がパソコンを仕入れた
仕入れとは、成果物である商品(商品とは完成品のことを指す)を購入する取引のことで、その購入価額が仕入原価となります。
(2)パソコン会社が部品を購入して技術者が組み立ててパソコン製品にしてそれを売る
パソコン会社が部品を購入して、技術者(または工場など)がパソコンを組立てた後に完成する生産品のことを製品といいます。各部品はそれだけでは機能はせず、組立てることにより、製品となり使用可能状態になります。その生産価額が製造原価となります。
(3)パソコン会社が売ったパソコンをお客様が使用できる環境にセットする。
パソコン会社のサービスマンがパソコンを使用可能な状態に設置導入した場合には、そのサービスマンのお給料を時間工数に置き換えた価額が売上原価となります。
すなわち、
売上高 - 売上原価(仕入原価や製造原価のこと) = 粗利益(正式には売上総利益と呼ぶ)
という計算式になります。
利益という言葉がでてきましたが、この第一段階利益を売上総利益と呼び、総額表示に基づき営業損益計算項目として、P/L損益計算書の最初に表示されるものとなります。みなさんも新聞公告などでよく目にするものです。
企業会計原則に基づく表示
(営業損益計算)
1 売 上 高
2 売 上 原 価
売上総利益 ・・ 第一段階利益
企業経営においては、この粗利益が重要なポイントとなります。
粗利益は、売上から売上にかかる直接費用、すなわち原価を差し引いた金額です。同じ売上高でも業種によっては粗利益は違ってきます。金額を見るのも重要なポイントですが、利益率を見ることはさらに重要なファクターとなります。
経営指標として、このパーセンテージを毎月の数字の中で見極めることが重要で、この商品(製品・サービス)を販売したことによる利益率はどうか? 販売時点で当初予定した利益率より少なければ原価高になり、コスト削減の見直しに結びつきます。逆に多ければ、当初予定した原価を抑制した成果であると推察できます。しかし、販売において当初販売予定した売上高より高く売れることは稀です。
ここでケースごとの営業計算項目を見てしましょう。
(1)のケース(小売業)
1 売 上 高 1000
2 売 上 原 価 800
売上総利益 200
売上総利益率20%ということは原価率80%
(2)のケース(製造業)
1 売 上 高 1000
2 売 上 原 価 700
売上総利益 300
売上総利益率30%、ということは原価率70%
(3)のケース(サービス業)
1 売 上 高 1000
2 売 上 原 価 600
売上総利益 400
売上総利益率40%ということは原価率60%
売上高は同じ1000なのに、売上総利益率により粗利益の額は違ってきます。ここは毎期会社の決算においてほぼ同率で推移します 。 この売上総利益率の変動は、時に原価高であったり、たな卸しが影響したり、原価に対する売上が値引きされたりと影響項目が存在します。
したがって、売上総利益率の変動幅が大きかった時は、その原因をしっかり見極めることが重要となり、その原因の表面化による取り組みが翌年度の経営方針へとつながっていくのです。
中小企業庁のWebでは、「中小企業の財務指標」が参照できます。
以下に業種別の売上総利益率の対比表があります。これは中小企業の標準的指標です。あくまでも標準としての目安ですが、自社の利益率と比較してみるのも良いでしょう。
業種 | 売上高総利益率(%) | 売上高営業利益(%) | 売上高経常利益率(%) |
---|---|---|---|
建設業 | 22.4 | 1.2 | 0.9 |
製造業 | 31.9 | 2.1 | 1.7 |
情報通信業 | 57.4 | 2.0 | 1.6 |
運輸 | 37.6 | 1.0 | 1.1 |
卸売業 | 21.7 | 1.0 | 0.8 |
小売業 | 31.9 | 0.2 | 0.3 |
不動産業 | 66.0 | 7.6 | 4.1 |
飲食業 | 64.3 | 0.3 | 0.2 |
サービス | 60.8 | 1.4 | 1.3 |
ここに企業会計原則に基づくP/L損益計算書の標準的ひな型を記します。
(営業損益計算) 本来の主たる営業活動の中で獲得した利益の計算
1 売 上 高
2 売 上 原 価
売上総利益 ・・・ 第一段階利益
3 販売費・一般管理費
営業利益 ・・・ 第二段階利益
(経常損益計算) 本来の活動以外の中で獲得した利益の計算
4 営業外収益
5 営業外費用
経常利益 ・・・ 第三段階利益
(純損益計算) 通常では発生しない特殊要因の中で獲得した利益の計算
6 特別利益
7 特別損失
税引き前当期利益・・・ 第四段階利益
8 法人税・住民税額 当期純利益 ・・・ 第五段階利益
今回は紙面の都合上ここで終わります。次回は粗利益の続きで、「営業利益」「ケイツネ/経常利益」「税引き前当期利益」「当期純利益」を見ていきます。