お盆に入り、実家に帰省されている方も多いかもしれません。そこで確認したいのが、昔作ったかもしれない定期預金。10年間取引がない「休眠口座」は、管理の仕方や状況によって、お金が戻ってこなくなったり、自分の死後、遺産分割の手続きにおいて多大なる迷惑をかけたりする可能性があります。

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放置しがちな「定期預金」にご注意を

こんにちは、行政書士の木村早苗です。今回は「休眠口座」のお話です。1990年代前半までは銀行も郵便局も金利が高かったので、会社の給与振込用口座とは別に貯蓄用定期口座を作った方も多かったのでは。そして定期預金なら(商品としてある場合)最長10年を選ばれた方が多いでしょう。

でも入社から10年といえば、企業人としても個人的にもライフステージの変化がものすごく激しい期間です。会社では仕事を覚え、中間管理職として後輩の教育係やリーダー係として激務になったり、業種によっては転勤を命じられたりします。会社に見切りをつけて転職や起業をしたという方もおられるかも。加えて日常では結婚や子育て、受験に自宅購入、ご両親との今後など、考えることはてんこ盛りです。

頻繁には通わないから、と利率優先で作った遠くの銀行や郵便局の定期口座だと、作ったことすら忘れている可能性、ありますよね。あとはご両親がつくってくださった「あなた名義の定期口座」とか。故郷から、そして新卒時から一度でも引っ越し経験のある皆さん、その頃の定期口座はちゃんと管理できていますか?

銀行の休眠預金は1年で約1,200億円

なぜそんなことを問うのかといえば、本当に「お金が返ってこなくなる」種類の口座があるからなんです。

ちなみに休眠口座の預金額は毎年約1,200億円、預貯金者に返金されたのは500億円ほど。つまり700億円もの存在が忘れられていることになります。このお金を有効活用するため、2018年1月1日に「休眠預金等活用法(民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律)」が施行され、2009年1月以降に行われた最後の取引から10年以上資金の移動がされていない預貯金等は「休眠預金」となり、2019年から民間公益活動などに活用できることになりました。

ただ、もし休眠預金が見つかっても通常は取引があった金融機関に通帳やキャッシュカード、本人確認書類などの指定書類を持っていけば引き出し可能ですし、期限も特にありません。通帳やカードをなくしても本人確認書類(身分証明書)などで代用でき、亡くなった方の口座でも相続人が金融機関が定める手続きを踏めば引き出すことができます。

  • 休眠預金になるまでの流れ(政府広報オンラインより引用)

民営化前の郵便貯金、満期後20年2カ月でお金を引き出せなくなる

じゃあ何の問題もないはず……と思わず、ぜひもう少し。

定額・定期・積立の各郵便貯金は、満期後20年と2カ月が経過すれば、権利が消滅してしまうのです。

金融庁のサイトを見ると、休眠預金等とは「預金保険法、貯金保険法の規定により、預金保険、貯金保険の対象となる預貯金」と書いてあります。これは銀行の普通預金のほか、定期預金や貯金、定期積金をさします。

そしてよく見ると「「預金等」に当たらないもの」の欄には、「2007年10月1日(郵政民営化)より前に郵便局に預けられた定額郵便貯金等」との記載が。

  • 休眠預金等になりうる「預金等」に当たるもの(金融庁ホームページより引用)

つまり、郵政民営化前に郵便局に預けられた定額郵便貯金や定期郵便貯金、積立郵便貯金、住宅積立郵便貯金、教育積立郵便貯金等は、預貯金保険法が対応する「休眠預金等」に含まれないということです。

民営化前の積立郵便貯金はすべて満期が来ています。

独立行政法人郵便貯金簡易生命保険・郵便局ネットワーク支援機構(以下、郵政管理・支援機構)から満期後10年で発送される「満期日経過のご案内」と満期後20年経過で発送される「権利消滅のご案内(催告書)」に気づかず、さらに2カ月経っても払戻し請求がないと、旧郵便貯金法により権利が消滅してしまいます。

ちなみに令和4年度末の睡眠貯金(休眠預金と同じ)は2,970億円あり、権利消滅額は197億円。このうち権利消滅分は国庫に納付されています。

払い戻しができるケースも

一方のよい動きとしては、2023年9月に総務省から、高齢化が進む中で「預金者の死去や転居などで書面が届かない事例が多い」と、郵政管理・支援機構に権利消滅後でも正当な権利があれば払い戻しに応じるよう求めたことが報道されました。

同機構のWebサイトには、「郵便貯金の権利消滅等に関するQ&A」や「満期を経過した郵便貯金の払戻しに関するお知らせ」などの項目があります。場合によっては請求できるそうなので、参考にしてみてください。

適切な口座の管理で、相続手続きを楽に

さて、行政書士がこんなふうに「休眠預金がないか確認しておきましょう」と勧める理由は、2つあります。

一つ目は、遺産分割協議前に、何かのきっかけで休眠口座があるらしいとわかった場合、その通帳やキャッシュカードを探すのは想像以上に大変だからです。また解約も金融機関に合わせて手続きを行わなければならないため、お子さんにさまざまな労力をかけてしまうでしょう。

二つ目は、遺産分割協議後にもし休眠口座が見つかった場合、その分の分割方法を決めるため、もう一度相続人全員が集まって遺産分割協議を行わなければならなくなることです。遺産分割協議はただでさえ大変な手続きです。子どもさんたちも一度ですっきりと終わらせたいのではないでしょうか。

特に引っ越しをされた方の場合、郵政管理・支援機構からの「満期日経過のご案内」や「催告書」などに気づかないことも多くあります。子どもさんやご兄弟に後々ご苦労をかけないためにも、改めて通帳まわりを確認しておきたいものですね。