• 無限アセンブラ

3Dプリンタを使うには、3Dデータを用意する必要がある。流通している3Dデータもあるが、通常は、自身で必要なものを3D CADソフトウェアで設計する必要がある。前回の記事では、AutodeskのFusionを選んだという話をした。仕事で機械設計などをしていた人ならともかく、筆者は、こうした3DのCADソフトを使うのは初めてである。一般に使い慣れないアプリケーションを理解するには、「用語」と「コンセプト」がポイントになる。

(表01)は、筆者がまとめたFusionの用語である。筆者がキートップを作成するのに理解を必要とした最低限必要なものだけである。どうしても理解する必要があるのが、「デザイン」、「プロファイル」、「(ソリッド)ボディ」、「タイムライン」、「フューチャ」である。

「デザイン」は、Fusionの保存の単位である。デザインの中には、いくつかのオブジェクトが記録されるが、いわゆる3DオブジェクトをFusionでは「ボディ」と呼ぶ。ボディは、4種類あるが、3Dプリンタの場合には、そのうちの1つである「ソリッドボディ」を使う。ソリッドボディとは中身の詰まった3Dオブジェクトである。3Dプリンタで単純な構造のものを作るなら、とりあえずソリッドボディ以外は気にしなくてよい。

Fusionとは、ボディを作り、これを組み合わせて目的の形状を得るというのが基本コンセプトだ。Fusion自体は大規模なソフトウェアで、板金や電子回路基板設計などの機能もあるのだが、3Dプリンタ用として使う場合には、「ソリッドボディ」を作るものという理解で構わない。

ソリッドボディは、立方体や円筒、球などの基本立体を組み合わせて作ることができる。3Dオブジェクトを想定した機能が「ソリッド」メニューに用意されている(写真01)。画面構成に関しては、Autodeskのサイトに解説がある。

  • 写真01: 3Dプリンタの利用という点から見ると、Fusionはソリッドボディと呼ばれる3Dオブジェクトを作成するためのソフトウェアである。ソリッドボディを作る方法の1つは、プリミティブ立体を加工すること

ボディを作るもう1つの方法が、スケッチ機能を使ってプロファイル(輪郭)を作成し、これに厚みを付ける方法だ(写真02)。立方体、円柱といった単純な立体ではないものを作る場合には、この方法を使うことになる。単純に平面に厚みを付けるだけでなく、ボディに対してプロファイルから作った立体を引き算することもできる。その他、2つの平面を滑らかにつなぐ機能(ロフト。写真03)や、回転体を作る機能などがある。

  • 写真02: ソリッドボディを作るもう1つの方法は、スケッチ機能でプロファイル(輪郭)を作成し、これに厚みを付ける「押し出し」フューチャを使うこと

  • 写真03: Fusionのフューチャには、2つのプロファイルの間を滑らかにつなぐ「ロフト」フィーチャーもある

スケッチ機能で描画する点や線、面などのグラフィカルオブジェクトを「ジオメトリ」と呼ぶこともある。とりあえず、最初の段階では、「スケッチ」、「プロファイル」、「ジオメトリ」はほぼ同じものを意味していると考えてよさそうだ。

Fusionのさまざまな機能を「フューチャ」という。Fusionでは、例えば「立方体の描画」や「押し出し」(平面に厚みを付ける操作)などのフューチャがある。例えば、ペットボトルのキャップのような形状を作る場合、円柱を描画し、「シェル」フューチャを適用することで、一定の厚さをもった「殻」ができる(写真04)。そのほか、複数のボディを組み合わせて1つのボディにすることや、ボディを分割するといったフューチャもある。

  • 写真04: 「シェル」(殻)フィーチャーを使うと、中身の詰まったソリッドボディの中身をくりぬき、外側だけのボディを作ることも可能。写真は、円筒にシェルを適用し、ペットボトルのキャップのような構造のものを作ったところ

フューチャを時系列順に並べたものが「タイムライン」(いわゆる履歴)である(写真05)。Fusionでは、タイムラインにあるフューチャのパラメーターをあとから変更することができる。いわゆる「微調整」や「現物合わせ」のような設計変更は、タイムラインで「フューチャ編集」を実行して行うことができる。

  • 写真05: アプリケーションウィンドウ左下にならぶアイコンがこれまでデザインに適用されたフューチャを表すタイムライン。アイコンの右クリックメニューの「フィーチャ編集」で適用したパラメーターを修正できるほか、プロファイルの修正などが行える

Fusionの「保存」は、履歴として記録され、過去に保存したデザインを呼び出すこともできる。保存に対して「マイルストン設定」(バージョン指定)が可能で、エクスポート時のファイル名にマイルストン番号を付加できる。なお、デザインの保存形式は、Fusionの独自形式である「f3d」形式で行うが、デフォルトでは、Autodeskのクラウド側への保存となる。また、「名前を付けて保存」では、別デザインとして保存が行える。

無料版のFusionでは、同時に編集可能なのは最大10個のデザインまでで、それ以上は、読み取り専用にしておく必要がある。ただし、デザイン自体は10個以上保存することができる。

今回のタイトルネタは、ケヴィン・J・アンダースン、ダグ・ビースン共著「無限アセンブラ」(ハヤカワ文庫SF。1995年刊。原題Assemblers of Infinity,1993)である。異星人のナノマシンが月面に構造物を建築、人類はどう対応するのか? という作品。ナノマシン(ナノテクノロジー)は、1970年台に提唱され、Kim Eric Drexlerの“Engines of Creation: The Coming Era of Nanotechnology,1986”で広まった。ナノマシンがテーマなら他のヒット作品もあるのだが、ネタバレになるので扱えず。本作は、ナノマシンを扱ったSFとしては初期のものの1つである。3Dプリンタが造形する様子はナノマシンが物体を組み上げているように見え、ナノマシンテーマの作品を選んだ。