執筆のような作業には、根拠となるような資料が必要になる。そのためには、あらかじめ資料を用意しておかねばならない。筆者は、その整理にScrapboxと呼ばれるサービスを利用している。今回は、その使い方を解説しながら、情報の整理について考えてみる。

Scrapboxのメリット

Scrapboxのメリットは、テキスト入力編集と情報整理、情報参照の3つを1つのWebページで行えることにある。今回は、そのうち、情報の整理と参照について解説する。

Scrapboxのページ先頭にはタイトルを入れるが、これがURLの一部となり、かつ、他のページからのリンク先となる。「マイナビ」というページを作ったら、他のページに「[マイナビ]」と角括弧で囲んで記述すれば、このページへのリンクができる。リンクの飛び先のページは、必ずしも存在しなくてもかまわない。マイナビというページがなくても、他のページに「[マイナビ]」というリンクを置くことができ、これをクリックすると、自動的に「マイナビ」というページが作られる(実際にはページを編集するまでは表示だけの存在)。リンクは、角括弧で囲むほかに、頭に「#」をつけて「#マイナビ」とも表現できる。これは、Twitterなどのタグと同じ表記方法だ。

ページの下には、ページに記述したリンク先のページ、表示しているページと同じタグを持つ他のページが表示される(写真01)。また、同じリンク/タグを持つページが多数ある場合、これらはリンクごとにグループ化されて表示される。

  • 写真01: Scrapboxでは、ページ内のリンク/タグに応じて、下に同じリンク/タグを持つページ、表示中のページを直接リンクしているページのサムネイルが表示される。大量のページを作っても、リンク/タグで関係しているページしかここには表示されない

Scrapboxでは、ページにリンク、タグを入れることで情報を整理できる。Scrapboxのページの下半分は、リンク/タグで関係が作られた他のページのサムネイルであり、リンクを介して関連する情報(ページ)を参照できる。つまり、Scrapboxでは、1つのページから同じリンク/タグを持っているページを芋づる式に探すことができるため、強く関係しているページに同じリンク/タグをつければ、1つのページから必要なページにたどり着くことが可能だ。

リンクは「絞る」

最初はやたらとリンクやタグを入れてしまう。しかし、リンク/タグの数が多いと、かえって、ページ下のサムネイル部分が使いにくくなる。ページの探しやすさは、サムネイルの数に反比例する。リンク/タグが多ければ多いほど探しにくくなるのだ。だから、ページに置くリンクは、やたらと増やさないほうがいい。まずは、最低限のリンクだけにする。数が多いほうが安心感はあるかもしれないが、開きもしないページは「ノイズ」でしかない。

リンク、タグにするキーワードはできるだけ範囲の狭いものにするほうがよい。たとえば、「Windows11」というタグよりも、「Windows11のアップグレード」のような、範囲を「絞った」タグをつけるほういい。最初のうちは、どうしても汎用的なタグをつけてしまいがちだが、そうなると、同じタグを持つページが増えてしまって、目的のページを探すのが、かえって面倒になる。

「Windows11のアップグレード」について考えているとき、「Windows11にアップグレード可能なインテルCPU」というページを参照したら、「Windows11にアップグレード可能なAMDのCPU」というページも参照する可能性が高い。となると、この2つのページには「Windows11のアップグレード」というリンク/タグがあるべきだ。少なくともキーワードをつけるときには、将来の利用など、余計なことは考えないほうがいい。筆者の場合、このように着目しているテーマ、あるいは仕事そのものを示すようなキーワードを、その過程で作成したページにつけるようにしている。

「Windows11」へのリンクがないと不安に思うかもしれない。しかし、Scrapboxには検索機能があり、常にページ先頭に検索欄がある。これを使えば、タイトル や本文に「Windows11」があるページを簡単に探すことができる。なので、より広範囲なカテゴリ、タグへのリンクについてはあまり心配する必要はない。

「Windows11のアップグレード」を「Windows11」と「アップグレード」という2つのタグにすることもやるべきではない。Windows11のアップグレードについて考えているときに、Chromebookのアップグレードへの情報を見たくなる可能性は低い。どうしても気になるのであれば「Chromebook」や「アップグレード」で検索すればいいだけで、常にリンクとして表示されている必要はない。

広範囲なキーワードと絞ったキーワードをどうしても関連させたいのであれば、「Windows11のアップグレード」というページに「Windows11」へのリンクを入れておく。逆に「Windows11」のページに「Windows11のアップグレード」へのリンクをいれることもできる。しかし、検索すれば、簡単にアクセスができるので、絞ったキーワードと、範囲の広い(あるいは上位の)キーワードの間にリンク関係を無理に持たせる必要はない。また、「Windows11のアップグレード」というリンク/タグを作ったからと言って概念的に上位となるような「Windows11」というページを作らねばならない理由はない。「Windows11」、「Windows」のような広範囲なキーワードはどうしても必要になってから作るべきで、あとで役にたちそうだから、単にグループ化しておきたい程度の弱い理由で作らないほうがよい。

最初に「Windows11のアップグレード」というタグを使ってページを複数作っていたが、どうも、いま考えているのは「Windows11のアップグレード条件」なのではないかと思うことがある。こうしたとき、Scrapboxでは、タグ名の付け替えができる。「Windows11のアップグレード」のページを開き、タイトルを「Windows11のアップグレード条件」に書き換えれば、Scrapboxが他ページにあるリンクも書き換えるかどうかを確認してくる(写真02)。

  • 写真02: ページのタイトルは、リンク先であり、これを書き換えると、他のページからのリンクを修正するかどうかを確認してくる。濃い緑の部分をクリックすると、すべてのリンクが書き換わる。もし、一部のページを除外したいような場合には、タイトルを変える前にページしたサムネイルから該当のページを開いてリンクを別のものに書き換えておく。このページにはブラウザの戻るボタンで戻ってくることができる

Scrapboxに限らず、こうした情報整理の仕組みから簡単に情報を引き出すには、ページの「記憶」とページ相互の関係の「理解」が必要だ。だから、ページは、自分の手で入力する必要がある。誰しもスマホで撮影した画像を探すことがある。それは撮影した記憶があるからだ。記憶にない写真を探すことは絶対にない。記憶にないということは撮影していないのと同じなのだ。資料も同じだ。記憶にない資料は、そもそも探すことはなく、存在していないのと同じである。個人の情報整理とは、微かであっても情報を記憶に残すことで成立する。

「Windows11」というキーワードを「オペレーティングシステム」とは無関係と考える人はいない。ScrapboxでWindows11について考えているときに、オペレーティングシステムに関連する情報を得たければ検索すれば済む。だからなんでもかんでもリンク/タグで関係させる必要はない。過剰なリンク/タグはノイズを増やすだけだ。