"音"にこだわった遠隔会議用のソリューション

ヤマハは、遠隔会議用サウンドソリューション「ADECIA(アデシア)」を、2021年1月に発売する。日本、北米、欧州のほか、その他の地域でも販売する。今後1年間で2,000セットの販売を計画。そのうち、国内が2割、海外が8割を想定している。

  • 高まる遠隔コミュニケーション需要、ヤマハは「音」で勝負する

    「ADECIA」を導入した会議室のイメージ

中規模会議室において、高品位で、快適な遠隔コミュニケーション空間を実現することを目的に開発したもので、新開発したシーリングアレイマイクロフォン「RM-CG」と、専用プロセッサー「RM-CR」を新たに投入。業務音響市場で高い評価を得ているDante/PoE対応ラインアレイスピーカー「VXL1-16P」と、PoE給電対応のネットワークスイッチ「SWRシリーズ」と組み合わせることで、遠隔コミュニケーションのワンストップサウンドソリューションを提供することができるという。

メーカー希望小売価格は、RM-CGは60万円、RM-CRが24万円(税別)。

  • シーリングアレイマイクロフォン「RM-CG」

  • 遠隔会議用プロセッサー「RM-CR」

  • 遠隔会議のワンストップサウンドソリューションを提供するADECIAの構成

シーリングアレイマイクロフォン「RM-CG」は、天井に設置する構造としており、話者が発言するだけで、ビームが音源の方向を検知するダイナミックボイストラッキングを採用。4本のオートトラッキングビームフォーミングを採用することにより、複数人が同時に発話しても声を逃すことなく追尾するとともに、それぞれのビームの指向性を狭くすることで、周りの雑音を抑制しながら話者の発言を的確にとらえることができる。

「明瞭度の高い音声を遠隔地にいる相手に伝えることができる。また、マイクロフォンに多彩なプロセッシングを搭載することで、利用する環境に自動で適応し、あらゆる環境下で快適な遠隔会議を実現する」という。

遠隔会議の際に発生するエコーを除去し、双方向に言葉を伝え合える「適応型エコーキャンセラー」や、マイクと各出席者との距離の違いから発生する音量差や、各出席者の発話の声量差を自動的に調節して、遠隔会議での会話のしにくさを改善する「オートゲインコントロール」、天井に設置された空調機やプロジェクターのファンノイズといった雑音を軽減する「ノイズリダクション」、残響が多い部屋でも明瞭度の高い音声を届ける残響抑圧機能、人の声と雑音を自動判別する「HVAD(Human Voice Activity Detection)」機能などを搭載。これらの音声処理技術により、雑音に声が埋もれたり、十分に声が聞き取れなかったりといった音に関する課題を解決する。

  • 音声処理技術を組み合わせて遠隔会議のクオリティを高めている

遠隔会議用プロセッサーである「RM-CR」は、ADECIAの中枢を担うもので、本体をLANケーブルでPoEスイッチに接続することで、同一ネットワーク上にあるシーリングマイクロフォンを認識。会議室の空間に合わせて、自動で音響調整を行うことが可能だ。また、多彩な入出力を搭載しているため、Web会議だけでなくビデオ会議や電話会議などのあらゆる遠隔会議との接続や、アナログ有線マイクの追加などにも対応する。PCやスマホと接続し、マイクからの音声を遠隔地に送信、遠隔地から受信した音声をスピーカーに出力することもできるという。

さらに、RM-CRおよびRM-CGと、Dante/PoE対応ラインアレイスピーカー「VXL1-16P」、PoE給電対応ネットワークスイッチ「SWRシリーズ」を、オーディオネットワーク規格「Dante」によってケーブル1本で接続できるため、マイクロフォンからスピーカーまで音の流れを、ワンストップで導入、運用、管理ができ、導入までの時間短縮につながったり、それぞれの機器の相性や互換性を気にしたりすることなく、機器選定ができる。

  • 機器間の接続、管理や設定を易しくすることで、高機能だが導入のハードルを下げようとしている

「ブラウザ上で利用できるセットアップウィザードに従って、クリックするだけで、自動で機器間の音声配線を確立し、部屋環境に合わせた音響調整を実現する。設置や調整に必要な音響に関する知識、経験、時間を最小化でき、高品位で快適なコミュニケーション空間をスマートに実現できる」(ヤマハ 音響事業本部 コミュニケーション事業部商品戦略グループ主幹の太田光彦氏)とした。

  • ヤマハ 音響事業本部 コミュニケーション事業部商品戦略グループ主幹の太田光彦氏

働き方は変わる、オフィスの使い方が変わる

ヤマハが、新たに「ADECIA」の投入した背景には、遠隔コミュニケーションに対する需要の拡大がある。

ヤマハの太田主幹は、「遠隔コミュニケーションの需要が増大しているのにはいくつかの理由がある」とする。

ひとつは、経済活動がボーダーレス化し、様々なロケーションにある本社、支社、工場といった拠点間、あるいはビジネスパートナーとのコミュニケーションが活発化していること。2つめには、居住地にとらわれない優秀な人材の獲得にも、遠隔コミュニケーションが役立てられている点。そして、移動時間や移動費用の削減、あるいは育児や介護といった目的から、自宅やコワーキングスペースなど、オフィス以外の場所から仕事をするといったワークライフバランスを視野に入れた、働き方の変革がある。

さらに、新型コロナウイルスの影響により、在宅勤務が拡大したことも、遠隔コミュニケーションの需要増にプラス効果をもたらしている。

「在宅勤務の広がりにより、多くの企業で、遠隔コミュニケーションが必須のものとなった。今後は、オフィス規模の削減や、リモートワークの永続的な活用などが想定される一方で、オフィスのアクティビティを重視する動きもある。オフィスにおけるコラボレーションの役割はより強まり、テレワークによる参加者が1人でもいれば、遠隔コミュニケーションは必要になる。オフィス内における遠隔コミュニケーションのためのスペースは引き続き増加すると見ており、それに伴うビジネスチャンスも想定される」とする。

  • 「オフィスは不要」というのが現状だが、先進的な働き方が普及するにつれオフィスにも新しい価値が生まれ、将来は必要とされる場面が増えていくと見ている

また、シーリングアレイマイクロフォン「RM-CG」は、その名の通り、天井に設置する形にしたことが、新たな働き方にあわせたオフィスの使い方にも最適だとする。

「新型コロナウイルスの感染拡大以降、オフィスの会議室においても、会議参加者同士が適切な距離を保つための柔軟なレイアウト変更や、会議の準備から利用までの間に、会議室設備に触れる回数を減少させる工夫などを行っている。たとえば、コミュニケーションデバイスは、ひとつのマイクを大勢で囲むのではなく、適切な距離を保ちながらも、マイクの場所を意識せず、マイクに触れなくていい環境を提供する必要がある。天井に設置するRM-CGでは、そうした課題にも対応できる」とする。

さらに、昨今のオフィスでは、コミュニケーションスペースにおけるデザイン性を追求しており、会議室のテーブル上をなにもない整然とした形にしたり、解放感を演出するために壁にガラスを多用したりといった例も多い。「オフィスのデザイン性は、社員の創造性を育んだり、モチベーション向上や新たな人材獲得にもつながり、重要な要素を持つ。コミュニケーションデバイスのケーブルが露出しないことや、ガラス張りやコンクリートの打ちっ放しの壁では、残響があるが、そうした環境でも、明瞭度の高いコミュニケーションを実現する必要がある。天井に据え付け、明瞭な音声で遠隔コミュニケーションができるRM-CGであれば解決できる」とする。

さらに、遠隔コミュニケーションの増加に伴い、参加人数や目的に応じた会議室の効率的な運用を求めたり、残響が多いため遠隔会議には向かなかった会議室においても、快適な音空間を導入したいといった、ニーズの多様化も見逃せない。

「稼働率を向上させるために、様々な種類の会議や、トレーニングやチームランチといった様々な目的に使用できるように設計した部屋が増えている。部屋のレイアウトを変更したり、自由にテーブルを配置したりしても、テーブル周囲の配線がなく、話者がどの位置に立っていても、座っていても、ハンズフリーで会話ができるのも特徴」だとした。

ヤマハでは、企業オフィス、教育施設、政府機関、ホテルのほか、これまでは遠隔コミュニケーションが必要とされていなかった場所への導入も想定している。

ヤマハだから、"音"でビジネスを変えていく

ヤマハ 音響事業本部 コミュニケーション事業部長の池松伸雄氏は、ヤマハを、「音と音楽を原点に、感性と多彩な技術を融合し、心豊かな生活に貢献することを目指す企業である」と語る。

  • ヤマハ 音響事業本部 コミュニケーション事業部長の池松伸雄氏

ピアノやギターといった楽器事業だけでなく、音響機器事業や部品・装置事業などを展開しているが、「音響機器事業は、楽器事業に次ぐ中核事業であり、業務用の音響機器やコンシューマ向けオーディオ機器に加えて、ネットワーク機器や音声コミュニケーション機器などの情報通信分野にも事業を展開している。音響、音声処理、ネットワークといった多様な観点の技術とノウハウを保有する強みを生かすことができる事業領域であり、ヤマハのなかでも成長事業に位置づけられている」とし、「今回の新製品は、その成長事業を拡大し、顧客価値を向上させる製品になる」と位置づける。

業務用音響機器では、商業空間での店舗BGM、空港や公共施設での設備音響、オフィスや役員室の音響システムなどのほか、企業や政府、教育機関などにも展開。「確かな品質と信頼性の高さで世界中の顧客に採用されている」と自信をみせる。

また、情報通信機器分野では、SOHO向けルーターが16年連続で国内シェアナンバーワンを獲得。中小企業や大型店舗、学校、医療分野で利用されており、2019年9月には、400万台の累計販売を達成している。

そして、遠隔コミュニケーション分野には、2006年に、Web会議用スピーカーフォンを発売して市場参入。ここでも国内ナンバーワンシェアを持つ。

「長年に渡り、顧客に向かい続けた実績と経験をもとに、ビジネスコミュニケーションを支える重要な役割を担っていると自負している。コミュニケーションは、ビジネスの根幹であり、途絶えてはならない。新型コロナウイルスの感染拡大により、在宅勤務の導入だけでなく、ワークスタイルの変化は今後も急速に加速する。働き方やオフィス環境にも、ニューノーマルが求められるなかで、遠隔コミュニケーションは、なくてはならないツールになると考えている。今後も、個人の在宅勤務からオフィスの中小会議室、役員会議室、教育、医療現場といったあらゆる空間に対して、確かなビジネスコミュニケーションを支える技術、製品、サービスを提供する。遠隔コミュニケーションは、距離を超えるツールであり、ヤマハの技術をいかんなく発揮することができる分野である。距離を超えてもつながりを支えるために、ヤマハは世界中の顧客にソリューションを提供したい」とした。

ADECIAは、遠隔コミュニケーションの会話を支え続けてきたヤマハの実績とノウハウをもとに、円滑でストレスのない遠隔会議の会話体験を提供。音を原点とする音声処理技術と、ネットワーク市場における経験が組み合せて実現したものだといえる。

池松事業部長は、「ビジネスを加速させるのは音であるという信念のもとに、音の入口から出口まで、ヤマハだからこそできるワンストップサウンドソリューションを実現する」と宣言する。

ADECIAは、音を原点に培った技術と、遠隔コミュニケーション、ネットワークの技術の両方を持つヤマハだからこそ実現できる、ワンストップサウンドソリューションであり、音へのこだわりが詰まった新たな製品だといえる。