リコーの山下良則社長は、2020年度の方針を、「危機対応」、「変革加速」と位置づけた。

2019年度を最終年度とする第19次中期経営計画に取り組んできたリコーは、2017年度を、成長を実現するために足腰を鍛え、実行力を磨く「再起動」、2018~2019年度を、成長に舵を切り、全社一丸となって、高い目標に挑戦する「挑戦」、そして、第20次中期計画に取り組む2020年度以降を、持続的成長とさらなる発展を確実なものにする「飛躍」のフェーズに位置づけていた。だが、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、2020年度を、飛躍に向けた「危機対応」と「変革加速」の1年と位置づけ、2021年度以降に「飛躍」を目指すことに変更した。そして、第20次中期計画は2021年度からの2年間にする考えも打ち出した。

  • リコーの山下良則社長

    リコーの山下良則社長

働き方や価値観、変化は強制的、強引に進む

山下社長は、「新しい働き方の環境へと、強制的に、強引に変化が求められている。今後3年間で起こると思っていたことが、新型コロナショックで一気に起こり、これを数カ月で進めている。経営も、今後3年でやろうとしていたことを、1年で実行し、次の飛躍につなげていく」と位置づけ、「2020年度は、手元流動性、財務安全性、アフターコロナを見据えた変革加速の3点、が重要ポイントになると考えている」と述べた。

なお、2020年度(2020年4月~2021年3月)連結業績については、「新型コロナウイルス感染症が世界規模で拡大している影響により、現段階では合理的な業績予想の算出が困難であるため未定とする。今後、業績への影響を慎重に見極め、合理的な予想の開示が可能となった時点で速やかに公表する」とした。山下社長は、第1四半期決算発表以降の適切な時期に通期見通しを発表する予定であるほか、下期以降には、2021年度を初年度とする第20次中期経営計画を公表する意向をみせた。

だが、山下社長は、「現時点」での2020年度の基本的な考え方について示してみせた。

山下社長は、「2019年度の営業利益は、前年比9.0%減の790億円となった。目標としていた1,000億円に到達しなかったのは痛恨の極みである。猛烈に反省をしている」と前置きし、「新型コロナウイルスの影響が156億円あった。これを除くと実質947億円。リコーリースの非連結化により、約180億円がマイナスとなる。これが、2020年度の営業利益見通しのベースになる。その上で、危機対応や変革加速における取り組みの前倒しと、一層のスリム化によって、250億円+αの増益を計画している」と語る。

  • 2019年度決算のサマリー

問題は、新型コロナの影響だという。

「第2四半期(2020年7月~9月)から徐々に回復するという仮定Aでは、営業利益に300~400億円のマイナス影響があると見ている。また、もう少し長引き、下期から回復するという仮定Bでは、600~700億円のマイナス影響がある。だが、仮定Bまで長引くと、追加施策が必要になる」と述べ、「柔軟に戦略、施策を変更、追加していくことになる。4月、5月の世界的なロックダウン、活動自粛による事業への影響、緩和に向けた状況を見て、適切な時期に計画を公表する」と述べた。

リーマンショックを上回る影響、2020年度の3つのポイント

2020年度の重要ポイントのひとつにあげた「手元流動性」では、「年間売上高が3割減少しても対応可能な流動性を確保する。これは、リーマンショック時の売上減のインパクトに対して、3倍という最悪の状況を想定した対応である」とする。

  • リーマンショック時の3倍の影響を想定し、資金を確保するという

リコーの松石秀隆取締役専務執行役員兼CFOは、「リーマンショック時にはハードウェアで10%減少、ノンハードで微減だった。リーマンショックは、金融不安から発生していたため、コストダウンが業績に影響した。だが、今回の新型コロナウイルスの影響は、それとは違い、長さや深さが見えない。3倍というのは安全の上での、さらに安全を見ている」と、「3倍」の背景を示す。

  • リコーの松石秀隆取締役専務執行役員兼CFO

2つめのポイントである「財務安定性の改善」では、2020年4月に実施したリコーリースの非連結化により、リスク資産および有利子負債を圧縮。「実質的に無借金経営の状況となり、株主資本比率を34.2%から、52.8%に改善し、安定性を向上した」とした。これをベースとした安定性維持に取り組むことになる。

そして、時間を割いて説明したのが、3つめのポイント、「アフターコロナを見据えた変革加速」についてだ。

山下社長は、「3月の説明会で、リコーは、OAメーカーからデジタルサービスの会社に変わる宣言をした。ここでは、OAメーカーとして重荷だったものを、サービス会社としての強みに変えるということを打ち出し、リコーの4つの強みを説明した」と、今後のリコーの基本姿勢を示す。

アフターコロナ見据え、4つの強みでOAメーカーから脱皮

4つの強みとは、「全世界140万社の直接取引を行っている顧客に対して、直接サービスを提供できること」、「1万1,000人のフィールドエンジニアを持ち、顧客に寄り添ったサービスを提供できること」、「ソフトウェア開発からフィールドでのシステムエンジニアまでを含めて、1万6,000人のデジタル人材を持ち、顧客の困りごと解決に取り組むことができること」、「グローバル4,000社のパートナーとの連携ができていること」の4点だ。いずれもOAメーカーとしては重荷となる資産だが、デジタルサービス会社として強いリソースになる。

ここで、山下社長は、「なぜ、それが、いまなのか」とし、「今後3年間を見据えた新たな中期計画を検討する際に、バックキャスティングで将来を描いいてみた。ドキュメント市場は紙から電子へと強烈な勢いで移行する。空間的、時間的な境目が相当薄れ、職住接近となる。働き方や価値観の変化が進む。だが、これらは、3年を待たずに、この数カ月で起こっていることと同じであり、それが強制的に進み、もう元には戻らない。短期的に変わることを覚悟した」とする。

そして、「いま、リコーが加速すべきことは、OAメーカーからの脱皮を急ぐことであり、デジタルサービスの提供を推し進めることである」との姿勢を明確にした。

  • アフターコロナを見据え、OAメーカーからデジタルサービスの会社へ脱皮を急ぐ

OAメーカーからの脱皮としては、「いままでMFP(マルチファンクションプリンター)の価値提供によって成長してきたのがリコー。だが、誤解しないでほしいのは、MFPの生産を止めるというのではなく、世界一のMFPやその他のデバイスなどをメーカーとして作り続けるという点。2019年のカラーA3複合機の世界シェアはさらに伸ばし、2年連続のナンバーワンとなっている。世界一のデバイスメーカーであり、お客様の業務課題を熟知している会社であることによって、ワークプレイスの業務課題解決を提供する」と述べた。

そして、「新型コロナに対する危機対応策と見えるかもしれないが、以前からやるべきことであると考えていた」としながら、2つの実行施策を示した。

ひとつは、MFP事業に最適化されたバリューチェーンの徹底した効率化である。

「まだ多くの自前商品を持っている。世界一のデバイス提供にフォーカスする開発、生産リソースの重点化、OEM調達、供給の拡大などにより、徹底的なシンプル化を図る」と述べた。

もうひとつは、社内DX(デジタルトランスフォーメーション)による効率化の推進である。「本社業務プロセスのデジタル化を飛躍的に進め、顧客にもこれを勧めることができるように社内実践をする。今年7月には、中国・河南に、最新のデジタルマニュファクチャリング拠点を稼働させる」とする。

これらの取り組みによって、2020年度にバリューチェーンの徹底で160億円、社内DXの推進で90億円の効果を見込むという。

リコーのデジタルサービス=新しい働き方を実現するサービス

一方、デジタルサービスの提供については、「リコーの考えるデジタルサービスとは、ワークプレイスのITインフラを構築し、ワークフローをデジタル化してつなぎ、新しい働き方を実現するサービス」と定義。ITインフラの構築、ワークフローのデジタル化、新しい働き方の実現、現場のデジタル化の4つの提供価値をもとに、オフィス、ホーム、現場のワークプレイスを高度化。導入、運用の負荷の削減するとともに、データを分析して、新たな知見を提供することを含めて企業に貢献するという。

さらに、新型コロナウイルスの影響によって顕在化したワークプレイスのデジタル化についても言及。「いきなり在宅勤務をスタートすることになった多くの企業において、オフィスと同じ環境を実現することはできなかった。取引先から届く請求書などの書類を確認するだけに出社を強いられるといったことも起きている。現場のデジタル化が遅れていることがあちこちで問題となっている。オフィス、ホーム、現場がデジタル化すれば、それぞれを簡単につなげることができる。ここでのキーワードは、リモートと自動化、省人化である。新型コロナウイルスがこの課題を強引に炙り出した。そして、新型コロナ終息後の世界はまったく違った景色になるだろう」とした。

  • リコーの考える、ワークプレイスをデジタル化することの意義

リコーでは、こうした世界に向けて、アプリケーションおよびソリューションの提供を強化。好評なリモートワーク向けアプリケーション「在宅勤務パック」に、シスコシステムズとの連携により、自宅でのセキュアな印刷環境を提供するパッケージサービスを新たに追加。「家でもプリントするといった需要が顕在化していることに対応する」という。また、業種業務アプリケーションもラインアップを広げ、10業種および1業務において、108種類のパッケージを、6月上旬から順次発売する。

さらに、中小企業のICTの利活用による生産性向上に向けて、日本商工会議所と連携協定を結び、テレワークや在宅勤務の整備を支援するという。

そのほか、不動産業界では、THETAで撮影した360度画像によって、リモートでの物件内覧を実現する「バーチャルツアーサービス」を提供。車に搭載したステレオカメラで撮影した路面画像から道路の凹凸を検知する「路面性状モニタリングシステム」を、すでに10以上の自治体に導入していること、病院向けには、PCR検査の精度を向上させる「DNA標準プレート」の提供を行っていることなどに触れた。

また、海外ではノートPCやプリンタとともに、在宅勤務ガイドやトレーニング、サポートなどをパッケージ化した「在宅勤務パッケージサービス」を提供。遠隔授業を可能にするハードウェアとソフトウェアをパッケージ化した「遠隔授業パッケージサービス」を提供。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、全社員のリモートワークへの移行が急務になった英国大手保険会社においては、数1,000台のタブレット端末とスマートフォン、ヘッドセットを導入し、「ネットワークの構築、セキュリティ対策、トレーニングの実施までを、約2週間で対応した」という。また、イタリアでは、大学などの教育機関に対して、ビデオ会議による遠隔授業が行えるパッケージを用意した例も示した。

  • デジタル化は、オフィスワークのリモート化だけでなく、「現場」でも

山下社長は、「サービスという価値をきっちりと届けることが非常に大切であるということが、新型コロナショックを通じて、改めて気づかされ、社会貢献への道筋を実感した」と述べ、「リコーは、時代の変化を的確に捉えながら、社会が求める課題を解決することで、持続的な価値提供を行っていく」との基本姿勢を強調した。

2019年の業績、コロナ影響も通年は日欧で好調だった

一方、2019年度(2019年4月~2020年3月)連結業績は売上高が前年比0.2%減の2兆85億円、営業利益が9.0%減の790億円、税引前利益が9.6%減の758億円、当期純利益が20.2%減の395億円となった。

  • 2019年度決算の内容

リコーの松石秀隆取締役専務執行役員兼CFOは、「為替、非連結影響を除くと、新型コロナウイルス感染症影響を吸収して、実質2.5%の増収となり、営業利益は1.9%、当期利益は6.5%の増益となっている。セグメント別では、第3四半期まで全事業で増益ベースだったが、第4四半期で、営業利益への新型コロナウイルスの影響が156億円あった。オフィスプリンティングの減少を、オフィスサービスでカバーしきれなかった。また、ROEは4.3%だが、リコーリースの株式譲渡を除くと、5.3%と前年並になる」と総括した。

  • 新型コロナウイルスの影響は156億円のマイナス

セグメント別では、オフィスプリンティング分野は、売上高が前年比7.4%減の1兆62億円、営業利益は23.4%減の903億円。「構造改革と採算重視の販売にシフト。A3カラーのMFPは前年を上回る伸長たったが、第4四半期には商談機会が激減して刈り取ることができなかった。ノンハードは、3月中旬以降は、先進国でのロックダウンや自粛により、プリントボリュームが減少。この分野で2割減となり、セグメント業績にも影響している」という。

オフィスサービス分野は、上高が前年比7.4%減の1兆62億円、営業利益は23.4%減の903億円。「絶好調である。日本では、スクラムパッケージとWindows 10への買い替え需要が好調であり、欧州では買収したITサービス企業が貢献した」と振り返った。

  • オフィスサービス分野は絶好調だった

スクラムパッケージは、「お客様とベンダー、リコーがスクラムを組むというところから命名している」という。7業種、3業務のワークフローに対して、定量的に効果がある提案を行っているのが特徴で、2019年度だけで4万本を販売。累計出荷は7万本となった。売上高は300億円に達し、伸び率は1.6倍になっているという。「とくに2020年3月、4月は、テレワーク需要もあり、前年同期の5~6倍で推移している。IT補助金と自治体の助成金も、導入の追い風になっている」とした。

商用印刷分野は、売上高が前年比3.7%減の1,783億円、営業利益は15.0%減の231億円。「第3四半期までは新製品の好調な販売が寄与。だが、最大の刈り取り時期となる第4四半期に新型コロナウイルスの影響により、商談が進まず、納品遅れや検収遅れが発生。減収減益になった」とした。

産業印刷分野は、売上高が前年比11.2%増の230億円、営業損失は21億円改善の49億円の赤字。「第3四半期までは新型インクジェットヘッドが好調であり、年度末に向けて増産体制を敷いていたが、いまからというタイミングで出荷が止まった」という。

サーマル分野は、売上高が前年比6.7%減の618億円、営業利益は24.0%減の32億円。「染料の原価上昇にあわせて値上げしたこともあり苦労した。また、交通・エンターテイメントでの需要低迷が響いた」と振り返った。

その他分野は、売上高が前年比1.7%減の1,700億円、営業利益は23億円。「営業利益の改善の半分は本社経費の削減。デジタルカメラのGRや360度カメラのTHETAが好調で、Smart Vision事業の収益が改善した」という。

一方で、新型コロナウイルス拡大に伴って開始した一斉リモートワークの実施に伴い、回線状況の改善に向けて24億円の投資を行ったことも示した。