いよいよ5Gの商用サービスが日本でスタートした。

富士通コネクテッドテクノロジーズ(FCNT)も、NTTドコモ向けの5Gスマホ「arrows 5G」を発表。2020年6月下旬以降に発売する予定だ。arrows 5Gは、同社にとって、3年ぶりのフラッグシップモデルの投入となる点も注目を集めている。だが、FCNTが5G市場で狙うのは、5Gスマホの成功だけに留まらない。同社の技術力を生かして、BtoB領域における協業や海外展開も、重要な取り組みになってくるからだ。

FCNTの髙田克美社長に、同社の5G戦略のほか、主力のプロダクト事業や、事業拡大を目指すサービス事業、ソリューション事業への取り組みなどについて聞いた。

  • 富士通コネクテッドテクノロジーズ(FCNT)の髙田克美社長。日本で5Gの商用サービスがはじまったこの機会に同社の展望を聞いた

    富士通コネクテッドテクノロジーズ(FCNT)の髙田克美社長。日本で5Gの商用サービスがはじまったこの機会に同社の展望を聞いた

5Gでより鮮明に影響が出る技術的優位性とは

――いよいよ5Gの商用サービスが日本でスタートしました。富士通コネクテッドテクノロジーズ(FCNT)の強みはどんなところに発揮できると考えていますか。

髙田 FCNTは、NTTドコモ向けの5Gスマホ「arrows 5G」を3月に発表し、6月下旬以降に発売する予定です。「Sub6」と呼ばれる6GHz未満の周波数帯とともに、5Gで新たに割り当てられたミリ波帯(28GHz帯)に、国内メーカーでは、唯一、対応したスマホが「arrows 5G」です。これにより、受信時最大4.1Gbps、送信時最大480Mbpsの5G高速通信を実現します。

これまでの技術進化の歴史を振り返ると、2Gから3Gは高速通信への大きな技術革新があったものの、4Gへの技術進化は、3Gの延長線上における進化だったと捉えることができます。しかし、今回の4Gから5Gは、ミリ波が割り当てられたことでより高い周波数になり、その点では、かなり大きな技術進化になります。技術進化が大きいということは、既存のプレーヤーのなかには、技術的に乗り越えられないというケースも出てくることになる。FCNTは、5Gに対する開発投資を前向きに進めてきた経緯があり、その結果、いち早く、ミリ波にも対応することができました。実際、FCNTは、「Qualcomm Snapdragon 865 5G Modular Platform」を採用した、Sub-6+ミリ波対応で世界最薄となる5Gスマートフォンのリファレンスデザインを開発しています。5Gを利活用した製品開発やサービスの提供を検討されている企業は、このリファレンスデザインを応用、活用することで、様々な5G対応デバイスやソリューションを低コストで開発し、早期商用化を実現できます。

  • NTTドコモ向けの5Gスマホ「arrows 5G」。国内メーカーで唯一、ミリ波帯(28GHz帯)に対応した5Gスマホだ

私は、5Gの立ち上がり期には、こうした技術的優位性が鮮明に出ると考えています。FCNTは、そこにおいて、優位な立場にいることができる。しかし、それは、スマホというデバイスにおける優位性だけを指しているわけではありません。むしろ、別の領域での優位性の方が発揮しやすいと考えています。

――それはどんな領域ですか。

髙田 今後、世界中の通信インフラが5Gに置き換わっていくことは明らかですし、IoTの本格普及時代において、5Gは重要なテクノロジーのひとつとして浸透していくことになるのは確かです。ただ、5Gを取り巻く環境を見ると、スマホ本体だけで、大きな利益を稼ぐことはできない時代になっている。ですから、5Gのビジネスにおいては、スマホというデバイスは、あくまでもひとつのビジネスでしかないと捉えています。

では、5Gのビジネスのポイントはどこになるのか。私は、インフラや、ソリューションという領域こそが重要であると考えています。5Gの普及は、インフラの広がりと、エッジであるスマホに代表されるデバイスが並行して進化していくことになりますが、それによって、企業や地域、社会における課題を解決するための手段として、高速、大容量、低遅延、多接続のメリットが生かせることを示さなくては意味がありません。たとえば、企業や地域において、ローカル5Gを活用することによって、こんなメリットが生まれた、あるいはこんな課題が解決できたという成功事例を数多く示すことが、5Gの普及速度をあげるためには大切です。

むしろ、スマホというデバイスの世界だけの提案では、5Gのメリットは伝えきれないと思っています。国や地方自治体、そして民間企業が一緒になって成功事例を作り出せると、社会認知が広がり、新たなインフラとしての価値が広がると考えられます。これが5G普及の突破口になる。FCNTとしても、そこで、ビジネスをしていきたいと思っています。そして、もうひとつはグローバルで展開です。

――これはグローバルにスマホを展開していくことですか。

髙田 いえ、違います。たとえば、中国やアジアのスマホベンダーは、一部を除くと、5Gの技術、とくにミリ波の技術には追いついていません。しかも、5Gに対する開発費の負担も大きいですから、これから追いつくことは難しい。だが、その一方で、5G時代になっても、中国が、「世界のモノづくり工場」として果たす役割は大きいといえます。FCNTは、その領域に向けて、5Gの技術を提供することができます。つまり、テクノロジーを提供するという切り口から、グローバルでビジネスを展開できるチャンスがあると思っています。

――FCNTは、これまでにもグローバルでビジネスをしてきた実績はあるのですか。

髙田 すでに、中国においては、スマホ関連の合弁会社を立ち上げ、FCNTが技術提供したスマホがチャイナモバイル向けに採用されています。また、らくらくスマートフォンで培ったシニア向けのものづくりのノウハウなどを提供するといったことも進めています。中国におけるシニア市場は大きなものであり、らくらくホンやらくらくスマートフォン、らくらくコミュニティといった日本で培ったシニアを強く意識したビジネスモデルを、中国に展開していくことも視野に入れています。これには粘り強く取り組んでいくつもりです。

ソニー・アップル・シャープのスマホに勝てるのか

――FCNTでは、「プロダクト」、「サービス」、「ソリューシュン」という3つのドメインで事業を展開しています。それぞれの取り組みについて教えてください。まずはプロタクトですが、ここでは、arrowsやらくらくスマートフォンが代表的ですね。

髙田 FCNTのスマホには、安心だというイメージが定着しているのではないでしょうか。安心という点では、長年に渡って、シニア向けのらくらくホンやらくらくスマホを発売してきた経緯がありますし、さらに、arrowsでは、「割れない刑事(デカ)」のコマーシャルに代表されるように、画面が割れにくくという安心感とともに、防水、防塵といった堅牢性、生体認証によるセキュリティなどによって、安全であり、質実剛健であるというイメージも定着していると感じています。正直なところ、FCNTのスマホで、音楽配信や動画配信、あるいは美しい画面の特徴を訴求しても、残念ながら、ソニーやアップル、シャープには勝てません。もちろん、その点でも他社には負けません。しかし、Fujitsuブランドの強みを打ち出すことができる点は、安心、安全、質実剛健という領域だといえます。arrowsの購入者が、20代に少ない傾向はありますが、その一方で、30~50代の方々に高い評価を得ています。これらの層には、安心、安全、質実剛健が、arrowsの魅力であるということが認められています。

  • 「割れない刑事(デカ)」のコマーシャルは多くの人の印象に残ったはず

arrowsの特徴のひとつに、防水機能を生かして、洗えるというポイントがあります。昨今の新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、スマホを洗うということにも注目が集まっていますし、実際、arrowsの消毒と清掃の方法に関しても、ずいぶんと問い合わせをいただいています。

また、企業においては、社員がスマホを共有して利用するという環境において、衛生面から洗いたいという需要が生まれており、そこにarrowsの防水機能が生きているという例もあります。防水機能に対応したarrowsでは、石鹸で洗うことができるほか、市販の「アルコール(エタノール)消毒液」や「アルコールタイプ(エタノール)のウェットティッシュ」で製品本体を拭くことができます。

一方で、お風呂でSNSやメールをしたり、動画を見たりという人も増えており、そこにもarrowsならではの需要があります。水に濡れたことでスマホのデータが消えてしまい、大切な個人情報やデータを失ってしまったということがおきないarrowsに対する注目が高まっているというわけです。

特にarrowsで見逃せないのが企業向けの需要です。先にも、社員がスマホを共有して利用する際の衛生面でのメリットをお伝えしましたが、画面が割れにくく、壊れにくいという点は、スマホを長く使いたいという企業から高い評価を得ています。さらに、生産工場である兵庫県加東市のジャパン・イーエム・ソリューションズ(JEMS)において、お客様の要求にあわせたカスタマイズも可能であり、国内生産ならでは強みを発揮できます。そして、この体制は迅速な修理を実現することにもつながっています。こうしたメリットは、他社にはないFCNTならではのメリットとして、幅広い企業に対して、もっと訴求をしていきたいと考えています。

――キッズケータイは、現在、製品をラインアップしていませんが。

髙田 キッズケータイは、継続的に新製品を開発していきたいとは思っているのですが、競争環境が激しく、出せたり、出せなかったりといった状態にあるのが、正直なところです。ただ、arrows Beシリーズのようにジュニアモードを搭載し、使用可能なアプリを選択したり、使用できない時間を設定したり、一日の使用可能時間の上限を設定するといったことは可能にしています。小さい子供向けには、機能を限定しながら、よりシンプルで、一番使いやすいスマホはなにかということを、もっと追求していきたいですね。一方で、タブレットについても、競争が激しい市場において、FCNTとしてどんなところに優位性を発揮できるかということを捉えながら、継続的に製品を投入することを考えていくつもりです。

翻訳機に「arrows」ブランドを採用したワケ

――2019年5月に発売したマルチ通訳機「arrows hello」は、FCNTにとっては新たな領域の製品ですね。約1年間の成果はどうですか。

髙田 量販店に行くと数多くの翻訳機が並んでいますし、どれも素晴らしい商品ばかりです。一方で、スマホの世界を見ても、翻訳アプリがあり、それを利用することができます。それにも関わらず、なぜ、翻訳機の市場にFCNTが参入するのか。それは、翻訳機が、スマホメーカーならではの使いやすさや性能が追求できる商品領域であると考えたからです。スマホで翻訳アプリを立ち上げる手間を考えると、翻訳専用機の利便性にはかないません。ただ、市場にある翻訳機をみると、スマホメーカーのノウハウを活用すれば、より使い勝手のいいものが提供できるのではないかと思ったわけです。スマホを開発、生産してきたノウハウを生かし、手のひらの収まるサイズとし、翻訳ボタンを押すだけで、すぐに起動して動く。片手でも利用できる。しかも、画面に表示された言語の横のボタンを押すだけで、音声を認識して、翻訳し、発声してくれる使い勝手も実現した。専用機の良さと、スマホメーカーとして培ってきたノウハウを活用することで、瞬時に動き、翻訳できる専用機を完成させることができました。

海外旅行の際に持って行くという個人での用途はもちろん、今年前半まで急激に増加していた外国人観光客とコミュニケーションをするために個人が購入するといったケースもありました。さらに、観光地の土産物店や、全国規模のチェーン店では、外国人観光客に対応するためにまとめて導入するという商談も数多く出ています。実際、100台単位での商談もありましたし、外国人労働者が働く工場でも、様々な言語を編訳できるarrows helloを導入することで、様々な国の人たちと、現場でコミュニケーションを取れるようになったという事例がありました。スマホと違って、一度購入してしまえば、月額固定料金が不要であるという点も導入しやすい理由のひとつのようです。

  • 「arrows」ブランドを冠する翻訳機「arrows hello」(AT01)

――スマホのブランドである「arrows」を翻訳機に採用した点には驚きました。

髙田 arrowsは新たなコミュニケーションスタイルやライフスタイルの実現に向けて、その時代ごとの革新的な技術を搭載してきた経緯があります。その点では、この翻訳機には、arrowsというブランドをつけることが適していると考えました。arrowsシリーズのDNAを継承し、安心して使ってもらえるブランドとして、人と人、人と技術をつなぐ新たなコミュニケーションツールとして、スマートフォンやタブレットの枠を超え、快適なコミュニケーションを届ける、という狙いを込めたわけです。また、arrowsのブランドをつけたことで、「あのarrowsが翻訳機を出しんだ」といっていただけますし、一方で、これまでarrowsを使ったことがないユーザー層に、arrowsを知っていただく機会にもなっています。

――翻訳機は、今後、どんな発展をすることになりますか。

髙田 翻訳性能は、日進月歩で進化していますから、翻訳機としての機能を高めることはもちろん、ここで培ったノウハウをスマホにも生かして、スマホの翻訳機能の利用を促進するといったことにも生かしたいと思います。また、SIMを搭載することで販売ルートを広げることも視野に入れています。ただ、翻訳機や翻訳機能としての進化だけではなく、小型軽量の新たなデバイスづくりにも生かしたいですね。たとえば、まったく別の視点から捉えると、あのサイズのなかにはどんな機能があるとユーザーに喜ばれるのか。翻訳のほかに、SNSの機能だけを搭載したり、通話の機能だけを搭載したりといったデバイスにしたら、どんな反応があるのか。

出張先で、夜、食事に行くときに、いつも使っている長サイフは、面倒で持ち歩きたくないなぁ、なんてときはありませんか。そのときに、お札が数枚と小銭が少し入って、カードが2枚ぐらい入って、胸ポケットに入れて歩けて、かさばらないようなものが欲しいんですよね。こうしたニーズをFCNTが解決するとどうなるか。arrows helloのサイズにヒントがあると思っています。

かつては、携帯電話をストラップにつないで、首からぶら下げて使っていた人が多かったですよね。しかし、いまのスマホのサイズでは、そうした使い方ができません。GPSや翻訳、決済、通信手段といった、いくつかの機能に絞った小型端末が、いま、改めて求められる可能性もあります。

翻訳機は、新領域への挑戦として投入したものですが、この成果を様々な形で、「次」へとつなげていきたいですね。

シニア層を囲うサービスコミュニティが強力な武器に

――サービスという点では、どんな取り組みがありますか。

髙田 ここでは、らくらくコミュニティの取り組みがあげられます。2013年にサービスを開始したらくらくコミュニティは、2020年3月時点で197万人の会員数を誇り、毎日利用しているアクティブユーザーは、約100万人となっています。会員構成は、60歳代を中心とした50~80代のユーザーが多く、シニアを中心としたSNSでは最大規模のコミュニティといえます。また、運営サイドからメディア記事を発信する「SNS+メディア」という、世の中にはあまり存在しない仕組みとなっており、コミュニティリーダーを活用した「顔が見える記事」や、シニアにマッチする記事を提供しています。今後は、キュレーションメディアとしての情報発信や、アフィリエイト、サンプリング、オンラインイベントなどのコンテンツを重視したサービス展開も行っていく考えです。

いまは、広告収入などによるビジネス規模はそれほど大きくはありませんが、らくらくコミュニティという基盤を持っていることは、FCNTの大きな強みとなります。たとえば、らくらくコミュニティを活用して、送客によるビジネスやeコマースの場として提供するビジネスも想定できます。すでに、東京海上日動火災保険が、らくらくコミュニティにおいて、長期化する介護に対応した補償と、認知症高齢者およびその家族などに対する支援サービスを備えた「認知症アシスト付き年金払介護補償」を2019年8月から販売しています。ここでは、らくらくコミュニティを経由したインターネット完結型の手続きとすることで、口コミなどで介護関連の情報が拡散するというSNSの特性を活かした新たな保険募集の取り組みともいえます。また、介護補償は主に企業の従業員向けに販売してするものですが、この協業では、その枠を超えて、企業の従業員以外も加入できるという新たな提案となっています。

  • らくらくコミュニティはFCNTの大きな強みになる

ただ、コミュニティによるサービスをさらに活性化させるには、もっとシニアのスマホ利用を支援するような仕掛けが求められており、そこには政府や自治体の支援も必要だといえます。

ネットを通じた商品購入は、外出が難しい、重い荷物を持つことができないシニアにこそメリットがあります。そして、キャッシュレス決済によって、現金を持たずに歩けるようになるという点でも安全です。しかし、ITリテラシーが低かったり、教えてくれる人が近くにいなかったり、あるいはネットによる詐欺などに引っかからないといったことを含めて、セキュリティスキルを高める必要もあります。モバイル決済もそれを始めるための準備が難しいという課題を解決しなくてはなりません。

このままでは、結果として、シニア世代が置いてけぼりを食うことになります。そうしたなかにおいて、私たちの役割は、らくらくスマートフォンを使い、らくらくコミュニティを通じて情報を共有することで、シニアが抱えるこうした課題を解決することです。政府も、シニアがスマホを活用することを後押しするような政策を打ち出す時期に入ってきたといえます。

もはや、スマホを中心としたネットワークは、社会インフラのひとつです。スマホを使って電車に乗ったり、モノを買ったり、タクシーを呼んだり、コンテンツを楽しんだりといったことができる。コミュニケーションを取るためのコンシューマツールという段階から、生活をするために不可欠な社会インフラのひとつになろうとしているわけです。高齢者向けにバス料金の割引やタクシー料金の割引があるように、高齢者が、スマホという社会インフラを、安く、公平に、広く利用できるようにする制度を導入すべきです。人生100年時代見据えた商品、サービスを展開するためにも、シニアが使える環境を作り、安心して利用できる状況にする必要があります。これまでは、端末値引きの規制や、通信とスマホの料金を完全分離するなど、業界の健全な姿のために総務省が施策を展開してきましたが、今後は、社会インフラや情報インフラのあるべき姿に向けて、施策を打つ段階にきたともいえるのではないでしょうか。

そして、もうひとつ、シニアには、スマホを利用することが有効であるという理由があります。

――それはなんですか。

髙田 ヘルスケアという観点での利用です。スマホで血圧が測れるようになったり、日々の健康状態を管理できるようになったりすることで、それらを健康データとしてクラウドに蓄積しておけば、病院に行った際にも、そのデータをもとにして、いまの健康状態を理解し、適切な処置ができるようになります。また、病院に行かなくても、スマホの画面を通じて、初期診断をするといったこともできます。日本では、薬機法がありますから、スマホを医療機器として利用するには高いハードルがありますが、シニアへの総合サービスということを考えれば、このあたりも変えていく必要があります。

インドネシアでは、人口あたりの医師数が、日本の10分の1です。医師不足が深刻な課題となったおり、だからこそ、スマホを利用したオンライン診療の仕組みがどんどん確立されています。社会的ニーズがあるからこそ、新たなテクノロジーを利用した新たなサービスが誕生し、その利用が活性化されていくわけです。日本においても、すでに医師不足は深刻な課題になっています。しかも、高齢化という課題も重なっている。日本もこうした課題に向き合い、そこにスマホを活用していくべきだと、私は思っています。

これまでのスマホは、聞く、見る、話す、撮るという機能がベースになり、ネットワークでつながることで新たな楽しみや喜びを提供してきました。これからは、実生活に密着したモバイルペイメントや、オンラインヘルスケアといった領域に踏み込んでいくことになり、それに相応しい端末に進化させなくてはいけません。その上で、FCNTとしてどんなサービスを提供できるのかということを考えていかなくてはなりません。これが、これからのらくらくスマートフォンの目指す姿であり、FCNTが実現したいと考えているサービスのコアとなります。これらのサービスを実現する上で、異業種のパートナーとの連携も重要になります。FCNTが持つデバイスや顧客基盤と、パートナー各社が持つアセット、得意技を活用して、新たなサービスを提供し、そこで新たなビジネスが一緒にできないかといったことを考えたいですね。

らくらくホンも最初は売れずに苦労しました。売れはじめたのは第3世代になってからです。これと同じで、すぐにサービス事業が定着するとは考えていません。シニアの1人1台時代の先にあるのは、シニアの生活に密着した提案です。そのためのサービスを提供していきたいですね。

画像認識や自動車ICT、技術を活かし新たな価値提案へ

――3つめソリューションでは、どんなことに取り組んでいますか。

髙田 先日、ある回転寿司チェーン店向けに、数100台のスマホを一括導入しました。食べたお皿の集計の際に、スマホの画像認識を活用し、それをもとにレジで会計ができるというものです。人が1枚ずつ数えていたために起こっていたミスを減らし、また、座席ごとにセンサーを備え付けるという投資も必要なく、スマホを活用することで簡単に導入できます。こういう画像を活用したソリューションは、様々な業界で利用できると思っています。

また、FCNTは、自動車メーカーとの協業も進めています。いわゆる「ビーグルICT」の領域であり、クルマに搭載する無線システムの一部をFCNTが受託して、研究開発を進めています。いまは、クルマのなかに通信ユニットが当たり前のように搭載されおり、これが、5Gにまで広がろうとしています。一方で、クルマは、金属でできているため、電波の通りが悪く、電気系統が複雑で、結果としてノイズも多い。さらに振動も多く、高温にもなりやすい。過酷な環境で動作させる技術力が求められているのです。さらに、コンソール部や内装部、あるいは天井部に機器を搭載したいという要望もあり、薄型、軽量化に対するニーズも高い。こうしたところに、FCNTが持つ技術を生かすことができます。スマホは、10mmの薄さのなかに、Felicaやカメラ、Bluetooth、ワンセグ、セルラー機能など、様々なものを詰め込んで商品化しています。これを活かすことができます。また、クルマに搭載されているソフトウェアのバージョンアップを、セキュアな環境で行う仕組みのために、スマホの技術を活用したいという声もあります。自動車メーカーからは、こうしたスマホメーカーならではの技術力を期待されているのです。現在、自動車メーカーからの受託開発案件も増えつつあります。

そして、こうした案件を通じて、モノづくりの設備も活用でき、ソリューションとしての付加価値提案にもつなげることができます。すでに社内では、プロダクト事業部に加えて、サービスおよびテクニカルソリューション部門にも開発の責任者を置き、部門ごとの開発体制を強化しています。そして、サービスやソリューションを提供し、そこから得られた顧客の反応や経験値を、プロダクトの開発にフィードバックするということも可能です。こうしたサイクルが生まれることにも期待しています。

他社がカメラモジュールや液晶ディスプレイを自前で生産する強みがあるのと同じように、富士通のDNAを持つFCNTは、サービスやソリューションが強みになります。規模を追いかけるのではなく、社会的信用度を高めながら、着実にビジネスを伸ばしていきたいですね。

――FCNTにとって、2020年度はどんな1年になりますか。

髙田 2019年度は、主力となるプロダクトに加えて、サービス、ソリューションという第2、第3のビジネスにおいて、いわば「基礎工事」を行うことできた1年だったといえます。すでに、東京海上日動との協業や、自動車関連メーカーからの受託開発を行い、それらの動きが継続し、拡大しています。サービスやソリューションにおいても、FCNTの価値が認められているという手応えを感じた1年でした。

一方で、2020年度は、5Gという大きな波が押し寄せ、業界にとっては、まさに10年に一度のチャンスが訪れる年になります。当社の社名の通り、「コネクテッドテクノロジーズ」という、つなぐための技術を前面に打ち出せる時代がやってきています。ただし、注視しておきたいのは、5Gの立ち上がりがどうなるのか、市場にはどれぐらいの起動力があるのか、とくに、コンシューマ向けの反応よりも、ローカル5Gなどによる企業向けの需要がどんな勢いになるかが、今回の5Gにおいては重要な要素になるといえます。速くて、大容量がほしいというニーズに対して、しっかりとしたソリューションを提供する必要があります。

いずれにしろ、最初の手応えは重要だと考えています。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大の終息が見えないこともあり、その影響をしっかりと捉えなくてはいけません。多くの企業が、地球規模のリスクにさらされています。今回の新型コロナウイルスの影響もそうですし、米中貿易摩擦、ブレグジット、日本における相次ぐ天災など、地政学的な緊張の高まりは、経済活動に大きな影響を及ぼしています。電子部品の調達が遅れていることは多くの企業に共通した課題ですし、代替部品の活用ができる設計とサプライチェーンを確保することも求められています。日本を中心にビジネスを行っている企業であっても、調達や生産、経済活動をグローバルの観点で捉えることが必要ですし、BCMの観点からも、改めて、部品ベンダーなどとのパートナーシップを見直していかないと、ビジネスの継続性が厳しくなります。

  • 新型コロナウイルス感染症の影響で顕在化したサプライチェーンのリスク。改めて、部品ベンダーなどとのパートナーシップを見直していく必要があると髙田社長

一方で、2022年度までには、サービス、ソリューションといった新たな事業を成長させたいと考えています。いまはプロダクト事業が主軸ですが、これを40%の事業比率とし、サービスで30%、ソリューションで30%を占めるという形にしたいですね。プロダクトは、5Gという動きを除けば成熟期に入っているのは明らかであり、一定の買い換えサイクルのなかで回すしかありません。5Gを活用して、プロダクト以外の新たな市場を創造することが、今後の事業成長には必要です。新たなサービス、ソリューションの立ち上げに力を注いでいきます。