パナソニック 空質空調社は、同社独自の技術である気体状次亜塩素酸が、飛沫に含まれるインフルエンザウイルスを98.5%以上不活化することを検証したと発表した。

  • 実使用を模擬した環境での実験の様子

    実使用を模擬した環境での実験の様子

北海道大学大学院 獣医学研究院 微生物学教室の迫田義博教授の協力を得て、実使用を模擬した環境で実験を行った結果、空間内を一定の次亜塩素酸濃度で維持することで、気体状次亜塩素酸が、飛沫中の水分に急速に溶け込み、水分の蒸発に伴い濃縮された次亜塩素酸が作用し、インフルエンザウイルスを不活化できたことが推察できるとした。

パナソニック空質空調社 常務 CTOの岡本剛氏は、「今後の飛沫感染制御技術につながる次亜塩素酸の新たな知見が得られた」とし、「これまでは、疾病などの原因物質をいかにして抑制することができるかを検証してきたが、今後は、疾病などを、いかにして抑制することができるかの検証に踏み出すことができる。仕事や生活において、コミュニケーションは重要であり、社会を活性化するためにも不可欠である。感染症リスクを低減し、人々が安心、安全に暮らすことができる『感染制御空間』を実現したい」と語った。

  • パナソニック空質空調社 常務 CTOの岡本剛氏

    パナソニック空質空調社 常務 CTOの岡本剛氏

  • 北海道大学大学院 獣医学研究院 微生物学教室 教授の迫田義博氏

    北海道大学大学院 獣医学研究院 微生物学教室 教授の迫田義博氏

なお、現時点では、研究段階の試験結果であり、実用化された技術ではなく、同社が発売している次亜塩素酸空間除菌脱臭機「ジアイーノ」で、同様の性能を保証するものではないとしている。

次亜塩素酸は、酸化剤の一種で、菌やウイルス、ニオイから電子を奪い、働きを抑制(酸化)し、除菌や脱臭を行うことができる。具体的には、次亜塩素酸分子(HOCl)のうち、Cl+が他の物質から電子を奪うことで強力な酸化分解力を発揮。生成した水溶液から揮発した気体状次亜塩素酸の量が半分になる時間(半減期)は50時間以上であり、自己分解しにくい特性があるため、遠くまで拡散できるという特徴も持つ。もともと三洋電機が開発し、製品化していた経緯があり、約40年に渡る研究の蓄積がある。

  • 次亜塩素酸とは?

    次亜塩素酸とは?

  • 実は身近なところで活躍中

    実は身近なところで活躍中

  • 今回の検証以前にも、多くの実績を上げてきた

    今回の検証以前にも、多くの実績を上げてきた

食塩水を電気分解して次亜塩素酸を生成する「電解生成技術」、空間に浮遊する菌などを次亜塩素酸水溶液に高効率に接触させる「気液接触技術」、通風により水溶液の液面から気体状の有効塩素成分を効率的に分離し、空間上に放出する「揮発技術」によって実現しており、これまでにも、数多くの除菌、ウイルス抑制効果を確認している。野菜の洗浄、水道水の浄化、プールの除菌、哺乳瓶の消毒、病院や施設での拭き掃除、鶏舎や牛舎、豚舎の消毒などで使用されている。

  • 次亜塩素酸技術の特徴

    次亜塩素酸技術の特徴

パナソニック空質空調社では、浮遊や付着する菌およびウイルスに対する次亜塩素酸の効果検証として、「空気感染」と「接触感染」を想定した試験を行ってきたが、今回は、インフルエンザウイルスを用いて、初の「飛沫感染」を想定した検証を実施したという。

飛沫感染の試験については、短時間に効果を確認する必要があり、標準的な評価方法がないという。そのため、短時間で評価可能な設備および試験系が必要であり、今回の実験では、新たな装置を用意し、実空間に近い環境も再現したという。これは業界初の取り組みになる。

  • ウイルスの主な感染経路のうち、標準となる試験の評価方法がなく、これまで検証が進んでいなかった「飛沫感染」を想定して実施

    ウイルスの主な感染経路のうち、標準となる試験の評価方法がなく、これまで検証が進んでいなかった「飛沫感染」を想定して実施

具体的には、検証に不可欠な気体状次亜塩素酸が、水に包まれたインフルエンザウイルスを秒単位で不活化することを事前に確認するとともに、模擬咳での効果検証を行うために十分な飛沫量を捕集する技術を確立。模擬咳発生装置から噴霧させたインフルエンザウイルスを含む飛沫を、気体状次亜塩素酸に接触させ、装置から2mの位置で捕集し、成果を検証したという。

ステップ1として、気体状次亜塩素酸とインフルエンザウイルスを含んだ飛沫を、試験用の筒に噴霧、送風して捕集。気体状次亜塩素酸が「あり」の場合と、「なし」の場合で、インフルエンザウイルスの不活化率を確認したという。ここでは、約10ppbの濃度の気体状次亜塩素酸に、水分を含むインフルエンザウイルスを1.8秒暴露した条件で評価した結果、気体状次亜塩素酸「あり」の場合、99.2%を不活化したという。

  • ステップ1、次亜塩素酸の効果

    ステップ1、次亜塩素酸の効果

パナソニック空質空調社の岡本剛CTOは、「次亜塩素酸は水に溶けやすいため、ある程度の効果は想定していたが、ここまでの数値が出たことに驚いた」とし、「気体状次亜塩素酸が水分に急速に溶け込むだけでなく、飛沫粒子は、秒単位で水分が蒸発するため、次亜塩素酸がどんどん濃縮され、それにより、ウイルスの不活化効果が高まるのではないか」と分析した。

ステップ2では、正確な試験を実施するために、実使用環境下でダメージを与えずに、多くのウイルスを捕集する技術として、回転湿式静電捕集機を新たに開発。ウイルスを不活化させずに、大風量で、ウイルスを高効率に捕集することができるようにしたという。「マイナス極のドラムが回転することで、水で包まれたウイルスを静電気の力で高効率に捕集し、捕集液に優しく回収することができる環境を整えた。これにより、実空間に近い環境での試験ができるようになった」という。

  • ステップ2、捕集技術の確立

    ステップ2、捕集技術の確立

これらの成果をもとに、愛知県春日井市のパナソニック空室空調社IAQ検証センターBSL2試験室内の約25m3(約6畳)の除菌評価室に、実験装置を構築。模擬咳発生装置から2m離れた場所に静電捕集機を設置して、咳を模擬した代表粒子径16μmの粒子による、水を含んだインフルエンザウイルスA(H1N1)を5秒間隔で3回噴霧。空間中に約10ppbの気体状次亜塩素酸が「ある」場合と、「ない」場合で検証。1回目の噴射から1分経過後に静電捕集機を停止し、捕集機で回収したインフルエンザウイルスの感染価を評価して、不活化率を算出した。実空間では98.5%以上を不活化率したほか、距離1.5mでは92.9%の不活化、1mでは64.1%の不活化を達成したという。

  • 今回の検証では、98.5%以上を不活化率という大きな結果が得られた

    今回の検証では、98.5%以上を不活化率という大きな結果が得られた

飛沫感染は、咳やくしゃみ、会話によって飛び散った5μmより大きいしぶき(飛沫)に含まれる病原体を、近くにいる人が吸い込むことで感染することを指し、飛沫感染によるリスクが高まる場として、飲食を伴う懇親会や、大人数や長時間におよぶ飲食、マスクなしでの会話、狭い空間での共同生活、居場所の切り替わりの場面があげられている。コロナ禍では、飛沫感染対策のひとつとして、人と人との距離を2m以上空ける「ソーシャルディスタンス」が広く推奨されたことは記憶に新しい。

今回の実証では、感染リスクが少ないとされるソーシャルディスタンスに定義されている距離の内側で、インフルエンザウイルスの98.5%以上の不活化を検証したものであり、現実的にコミュニケーションを行う距離がもっと近いことや、ジアイーノが使用される実際の利用環境では、空間の広さ、温度、湿度などが異なることを考慮すると、パナソニック空質空調社が目指している今後の飛沫感染制御技術の進化に期待したいところだ。

  • 2メートル(ソーシャルディスタンスの距離)が空けられない空間で、高い効果があったことは注目に値する

    2メートル(ソーシャルディスタンスの距離)が空けられない空間で、高い効果があったことは注目に値する

一方、迫田教授は、「鳥インフルエンザウイルスが人に感染するなど、人と動物、環境が相互に関係し、健康バランスが保たれ、最適化するという『ワンヘルス』の考え方が広がっている。統合的で統一的なアプローチが必要である。とくに、インフルエンザウイルスは、人獣共通感染症であり、人や鳥を主として様々な動物に感染する」と指摘。「人に感染するインフルエンザウイルスは、A/H3N2、A/H1N1、Bであり、毎年、冬場に流行する傾向に大きな変化は見られない。今回検証したインフルエンザウイルスのH1N1は、2025年に流行ったものであるが、今年流行している季節性インフルエンザウイルスのH3N2亜型(サブクレードK)とは、性状や消毒に対する効果が同等のため、H3N2を含むその他のインフルエンザウイルスに対しても有用であることが示唆される」とした。

  • 「ワンヘルス」の考え方

    「ワンヘルス」の考え方

  • 季節性インフルエンザの感染傾向

    季節性インフルエンザの感染傾向