リコーは、商用印刷・産業印刷事業の取り組みについて説明した。同社では、商用印刷領域において、インクジェット技術を用いたデジタル印刷機のラインアップを強化。さらに、産業印刷領域ではデジタル印刷機に加えて、インクジェットヘッドの外販にも力を注いでいる。
リコー コーポレート上席執行役員 リコーグラフィックコミュニケーションズBUプレジデントの宮尾康士氏は、「商用印刷・産業印刷事業を担当するリコーグラフィックコミュニケーションズは、リコーの収益の太い柱としてグループの成長を牽引する役割を担っている」と位置づける。
また、今回の説明会にあわせて、神奈川県海老名市のリコーテクノロジーセンターに設置している「Customer Experience Center (CEC)」と、「Technical Surprise Wonderland (TSW)」の様子も公開した。なお、インクジェットの主力工場である厚木事業所を、最先端の事業開発拠点として一新する戦略プロジェクトを開始していることも明らかにした。
米国と中国の市況が悪化、それでも伸びる印刷のデジタル化
リコーのリコーグラフィックコミュニケーションズBUは、商用印刷事業と産業印刷事業で構成される。
商用印刷事業は、カタログや書籍、雑誌、ポスター、チラシなどを印刷するデジタル印刷関連ビジネスとなり、商用印刷事業者や、企業内印刷センターなどの印刷業向けに、大規模なB2枚葉インクジェット印刷機のほか、インクジェット連帳機、カットシート印刷機などのデジタル印刷関連製品を開発、販売。印刷現場におけるワークフローなどのソリューションサービスも提供している。クレジットカードの明細書や公共料金の請求書などを印刷する用途の基幹系高速インクジェット連帳機でも実績を持つ。
調査会社のデータをもとに、リコーが世界シェアを算出したところ、ハイエンドカットシート印刷機では31%、ミドルレンジカットシート印刷機では50%となり、世界1位のシェアを獲得。インクジェット連帳機では28%でシェア2位、ローエンドカットシート印刷機は14%で4位だという。
また、産業印刷事業は、建材や壁紙、サイングラフィックス、服飾品生地などの印刷を可能にする産業用インクジェットプリンタの提供のほか、産業印刷機器メーカーにインクジェットヘッドを販売する事業を行っている。主力はインクジェットヘッドの販売であり、サイングラフィックス市場においては、積層ヘッドのMHシリーズが24%のシェアを持ち、世界シェアは2位だという。「インクジェットヘッドは、2008年から事業化しており、高耐久性、高信頼性が評価されている。多種多様な産業印刷に対応できる点が特徴である」と述べた。
リコーグラフィックコミュニケーションズの2024年度実績は、売上高が前年比11.6%増の2926億円、営業利益は76億円増の231億円と高い成長を記録。そのうち、商用印刷事業の売上高が12.3%増の2497億円、産業印刷事業の売上高は8.3%増の429億円となっており、約85%が商用印刷事業が占めている。
また、2025年度の業績見通しは、売上高が前年比1.0%増の2940億円、営業利益は前年から31億円減の200億円と、急ブレーキがかかったような計画となっているが、「日本で生産をしているため、為替の影響を大きく受けている。また、米国と中国の市況が大きく減速しており、設備投資の先送りが見られる。2025年度後半からの回復が見込まれること、中長期的視点では、商用印刷および産業印刷のデジタル化が進展するトレンドにも変わりはないと見ている」としている。
その上で、「リコーグラフィックコミュニケーションズが、リコーの収益の太い柱として、グループの成長を牽引していくという戦略上の位置づけは変わらない。また、消耗品、保守サービスによるストック収益によって、堅実な利益成長を継続することを目指している。さらに、画像技術や光学技術、システム技術と、グローバルな販売およびサービスインフラによって、競合に対して優位性を持っている」と述べた。
開発拠点は、神奈川県海老名市のリコーテクノロジーセンターに設置。本体や部品、消耗品などの生産は、すべて日本で行っており、「品質や納期に対する高い要求レベルに対応するために日本での生産にこだわっている」という。
さらに、2025年には、英国にRicoh Printing Solutions Europeを設立。インクジェット関連の事業リソースを集約し、事業強化を図るという。
メリットの多いデジタル印刷、移行は着実に進行中
印刷業界は大きな転換期を迎えている。それはアナログ印刷から、デジタル印刷への移行が着実に進んでいるからだ。
アナログ印刷は、オフセット印刷やフレキソ印刷、グラビア印刷などがあり、印刷するごとに「版」が必要となるが、大ロットの印刷では低コスト化が図れるのがメリットだ。これに対して、デジタル印刷は、インクジェット方式や電子写真式があり、「版」が不要で、オペレーションが簡単であること、小ロット印刷時に低コストであり、環境にも優しいという特徴がある。
市場動向を見ても、商業印刷市場は、印刷の総需要は毎年1.9%減で推移しているが、そのうち、デジタルカラー印刷は2030年までに年平均成長率は12%の成長が見込まれている。
「リコーが注力しているデジタルカラー印刷は、パーソナライズ印刷やオンデマンド印刷、環境対応といったニーズを背景に成長を遂げると見込まれている。また、2027年の商用印刷の絶対量では、デジタル印刷の比率は10%だが、印刷物の価値という点では、デジタルが50%を占めるとの推計が出ている。印刷物1枚あたりの価値が圧倒的であり、デジタル印刷機ならではの高い付加価値が評価されている」とする。
かつてのダイレクトメールは数万枚の規模で印刷して、同じものを一斉に届けるという仕組みであったが、デジタル印刷機を利用することで、消費者それぞれにあわせたダイレクトメールを発送することが可能になり、こうした活用方法がデジタル印刷機の成長を支えている。
リコーのデジタル印刷機を導入している米国の商用印刷会社では、現在、デジタル印刷の比率が70%となり、売上高を4年間で倍増以上に高めたという。「短納期、小ロット対応に加えて、フィニッシングや配送までを取りこみ、大きな成長を遂げている。なんでもデジタルで情報を配信するのではなく、必要な情報を、必要なときに、必要な形で届けてほしいというニーズがあり、そこに印刷物が評価されている。パーソナライズした情報伝達手段としても紙が用いられている」などとした。
また、産業印刷においても、デジタル化へのニーズが高い。産業印刷市場全体では、毎年2.1%増の成長が見込まれているが、そのうち、デジタル印刷市場は2026年までに年平均成長率が21%増となり、さらに高い成長が見込まれている。
中国のテキスタイル印刷機メーカーでは、リコーのインクジェットヘッドを活用し、テキスタイルプリンターを開発。テキスタイル市場における課題解決につなげているという。
「伝統的なアナログ印刷工法によるテキスタイル印刷では、デザインによっては、Tシャツ1枚に2500Lの水を使用するなど、水を大量に使用してなくはならない課題や、世界の水質汚染の20%をテキスタイルが占めるなど、ケミカルによる環境への汚染も課題となっていた。また、アナログ印刷では、大量印刷がコスト削減につながるが、その結果、製品の過剰在庫、大幅値引販売、大量廃棄という商慣習が維持されることにつながっていた。デジタル印刷によって、これらの問題を解決することができる。また、リコーのインクジェットヘッドを採用した印刷機メーカーにとっても、高品位な製品開発による事業成長を果たせている」とした。
このほか、トラックの荷台の壁面や、タイヤへの印刷など、柔軟なカスタマイズ印刷が可能で、広告ビジネスへの応用も進んでいるという。
環境面でのメリットも訴求。「インクジェット印刷機は、オフセット印刷機に比べて、73%のCO2排出量の削減ができる。デジタル印刷は環境面でもメリットが大きい」とする。
また、リコーでは、東京製鐵と共同で、高炉鋼板と同等の品質特性を持つ電炉鋼板を開発。これを再生材として製品に使用することで、新規資源の投入を削減していることも強調した。
リコーが印刷市場で描く成長戦略とは?
今後の成長戦略についても説明した。
「印刷会社では、パーソナライズ化などの多様化するニーズへの対応、人手不足への対応、環境対応や大量廃棄への対策のほか、小ロットビジネスが増加したことにより、それぞれの収益を確実に把握し、どんぶり経営から脱却することが求められている。これらの課題を解決するのがデジタル印刷である」とし、「これまでは、デジタル印刷の主戦場は小ロット印刷の領域であったが、今後は、デジタル印刷機の主戦場は、高速インクジェット領域にシフトする。高生産性、画質、安定性、コスト競争力が進化したことで対応ができるようになった。ここにリコーの強みを生かしていく」と述べた。
リコーが商用・商業印刷市場において、成長戦略を描く上で強みとなるのは、インクジェットヘッドやインク、トナー、画像エンジンを自社で開発し、ローエンドからハイエンドまで網羅する「技術力と製品力」、グローバルに保有する販売およびサービスインフラを活用して、顧客とともに課題を解決する「顧客との価値共創(Co-Innovation)」、ワークフローの自動化、ICTを活用した社内プロセス改革支援など、単なる機器提供にとどまらない包括的なソリューションを展開する「自動化とDX支援」の3点だとする。
今後の成長が期待される産業印刷領域においては、サイングラフィックス用途において、ハイエンドおよびローエンドにも事業範囲を拡大。テキスタイルやラベル&パッケージ領域での事業強化や、3Dプリンターなどの領域においてもシェア拡大を図る。
「リコーは、産業印刷の各アプリケーション市場のトップベンダーを顧客に持ち、強固な信頼関係を構築していること、市場全体の成長に比べて2.2倍の事業成長を遂げていることに加えて、高耐久性や高生産性で、幅広いアプリケーションに対応できる商品力と顧客に寄り添った技術サポート力、幅広い商品群とノウハウの水平展開により、新規アプリケーションの強化も図ることができる」とした。
リコーが強みのひとつにあげた「Co-Innovation(顧客との価値共創)」においては、顧客が抱える課題をともに理解し、パートナーとして協力しながら解決策を創り出す「Collaboration」、顧客が所有する製品と、リコー製品をシームレスに統合する「Co-Integration」、新たな製品や機能をともに新規に開発する「Co-Development」、市場ニーズを製品ロードマップに反映し、強いプロダクトを造る「Co-Enhancement」の4つの取り組みを推進。「お客様や、パートナーと協働し、新製品や新サービス、新ソリューションを創造するアプローチを進めていく。印刷機は、生産設備であり、5年以上をかけてリターンを出していく。そのために長期なお付き合いが必要である。そこにリコーが貢献することが大切である」とした。
リコーでは、Co-Innovationの具体的な取り組みとして、Global Engineering Support (GES)を展開。日本の技術者をグローバルに派遣し、技術の力を活用しながら、課題解決や価値提供を促進。顧客要望に基づいた技術サポート、自動化ソリューションの提案、ハードウェアやソフトウェアによるソリューション開発、アプリケーション開発を進めているという。
神奈川の「Customer Experience Center」と「Technical Surprise Wonderland」を公開
今回の説明会では、神奈川県海老名市のリコーテクノロジーセンターに設置している「Customer Experience Center (CEC)」と、「Technical Surprise Wonderland (TSW)」の様子を公開した。
リコーテクノロジーセンターのB棟1階にあるCECは、国内外の印刷関連顧客やビジネスパートナーに、商用デジタル印刷機を体験してもらう場で、日本のほかに、米国、英国、タイにも設置している。海老名のCECでは、開発拠点と同じ敷地内に併設することで、中長期にわたる顧客との戦略的コミュニケーションを実現していることが特徴だという。
「開発評価や、技術探索の場としての活用のほか、顧客価値の提供や共創などの商談の場としても活用している。リコーが描く、未来の印刷フローを体験してもらい、リコーだから実現できる顧客の課題解決後の姿をみせることができる」とした。
実機を前にして、最新技術やソリューションを提案したり、印刷用紙の検証、後加工機をはじめとする他社機との連動、共創事例の紹介なども行っている。
一方、TSWは、リコーテクノロジーセンターのD棟3階にあり、顧客共創空間と位置づけている。リコーの強みのひとつとして掲げたCo-Innovationの実践の場でもある。
「TSWは、リコーテクノロジーセンターが持つメーカーのモノづくり拠点としての役割だけでなく、顧客とつなぐ共創空間の役割を持たせている。多様化する顧客ニーズに対して、従来の製品やサービスでは埋めることができないギャップが存在する。それを技術で埋めて、解決することが、リコーが提供するデジタル印刷ニーズに対する提供価値になる」とする。
具体的な実績として、ハードウェアのカスタマイゼーションや自動化ワークフローの提案、ソフトウェアによるアプローチなどの成果があるという。
「海老名でなくては見られないソリューションや技術を提案し、技術(Technical)と、驚き(Surprise)のメッセージの発信基地となっている」と位置づけた。
30人以上のエンジニアが在籍しており、メカ、エレキといったハードウェアエンジニアのほか、ソフトウェアエンジニアも参加。システム構成に必要なすべての要素を持った人員で構成している。約10人のエンジニアは、商談にも立ち会い、プロジェクトマネジメントの役割を果たしているという。販売部門の傘下にある組織であり、販売への貢献を評価指標に置いており、生まれた成果は、個別案件に留めず、横展開できるようにしていくという。
具体的な共創事例も紹介した。
厚紙印刷/加工ソリューションでは、欧州の顧客から、デジタル印刷による紙製ギフトカードやメンバーズカードを厚紙に印刷し、加工したいというニーズがあり、それに対応するために、ハードウェアのカスタマイズに加えて、後加工機器のメーカーとの連携を行ったという。
顧客からの要望では、紙製ギフトカードに必要な用紙の厚みは600gsm以上であり、リコーや競合他社の製品を含めて、その厚さまで対応できるデジタル印刷機はなかった。
そこで、RICOH Pro C9500の内部の用紙搬送経路の部品を変更するなどの改良を行い、さらに、厚紙型抜き加工機メーカーであるUCHIDAとの連携により、TSWに型抜き加工機を設置。600gsm以上の厚紙に対応したカッターの開発をはじめとしたチューニングを行って、ニーズに対応したという。
リコーでは、この成果を、データ加工、厚紙印刷、厚紙型抜き加工を一気通貫で行えるソリューションとしてパッケージ化。欧州の複数の顧客に提案しているという。
もうひとつの事例は、新江ノ島水族館で実施したインビジブルフルカラーを利用した団扇によるプロモーションである。
リコーでは、新たな特色として、ブラックライトを当てて、光らせることができるインビジブルレッドに加えて、インビジブルグリーン、インビジブルブルーを新たに開発。3色の組み合わせで、フルカラー表示ができるように進化。これを利用して、暗い所でも視認性が高い団扇を制作した。
「新江ノ島水族館は、くらげや深海魚が多いが、暗いエリアには人が来ないという課題があった。人の少ないエリアにも人を呼び込み、感動してもらえるノベルティを配布したいというニーズがあり、そこに、リコーからも様々な解決策の提案を行った。新江ノ島水族館では、インビジブルカラーを使用した団扇と、スタンプラリーを組み合わせたプロモーションを行うことを決定。それを配布して、暗いエリアへの集客を図った。団扇の配布期間外では1日300人だったものが、配布期間中は1日600人以上と、約2倍になるという結果が出ており、顧客満足度も高い」という。
このように、顧客が持つ課題を技術を活用することで解決。顧客に寄り添った提案ができるのが、TSWの特徴だ。
課題解決型の提案力の高さが、リコーグラフィックコミュニケーションズのビジネス成長の源泉にあるといえそうだ。

























