「令和の米騒動」とも言われるように、米を取り巻く昨今の動きは、日本人の大きな関心事だ。

米の供給不足や、それに伴う米価格の高騰、政府によって放出された備蓄米の販売開始に続き、夏場の猛暑の影響による新米の収穫量や品質への懸念などが指摘されている。

  • 我々のくらしに大きく影響している「お米」の問題

    我々のくらしに大きく影響している「お米」の問題

こうしたなか、パナソニックは、新たな炊飯器として、可変圧力IHジャー炊飯器「おどり炊き X9Dシリーズ」を、2025年9月1日から販売を開始する。大手量販店などには、8月下旬から商品が並ぶことになりそうだ。今年の新製品ではテレビCMの放映も行い、訴求に力を注ぐほか、9月4日から全国7都市で、試食イベント「食べ比べ亭」を久しぶりに開催する予定であり、同社の力の入れ具合が伝わってくる。

  • 可変圧力IHジャー炊飯器「おどり炊き X9Dシリーズ」

  • X9Dシリーズを加えた2025年の「おどり炊き」ラインナップ

パナソニックでは、「ビストロ匠技AIとWおどり炊きの進化によって、甘みを約8%向上させることができた。新米も、古米もおいしく炊ける炊飯器を実現した」と自信をみせる。

米を取り巻く環境が大きく変化するなか、パナソニックが投入した新たな炊飯器は、どんなインパクトをもたらすのか。そして、パナソニックグループが取り組む構造改革において、炊飯器を含むパナソニックのキッチンアプライアンス事業の行方も気になるところである。

米を取り巻く環境が騒がしい。日本人の主食である米の供給状況や価格動向は、暮らしに直結するものであり、世間の関心が高まるのは当然のことである。

今年前半から米の平均販売価格は、5kgあたり4000円を超えたのを受けて、政府による備蓄米の放出により平均販売価格が下落。その一方で、お米をおいしく食べたいというニーズが高まり、Googleによる検索キーワードでは「高級炊飯器」が上昇するといった傾向も見られている。

国内の炊飯器市場は、コロナ禍による巣ごもり需要の反動で減少傾向が続き、年間では約450万台程度が見込まれているが、2025年度第1四半期(2025年4月~6月)は、出荷台数で前年同期比3.3%増、出荷金額で9.0%増となり、いずれも3カ月連続での成長を達成。しかも、出荷台数よりも、出荷金額の伸び率が高いことからも、高機能モデルにシフトしていることがわかる。市場全体の7割以上をIHタイプが占めているという。

  • 近年、米の消費量が増加しているというデータがあるが、「炊飯器」市場も需要の底を脱したか?

パナソニック コンシューマーマーケティングジャパン本部 商品マーケティングセンター調理機器マーケティング部炊飯器商品マーケティング課 課長の石毛伸吾氏は、「長期的には減少傾向が続いているが、ここ数カ月は、米に対する市場の感度が高まっており、需要の底を脱したと判断している」と語る。

  • パナソニック コンシューマーマーケティングジャパン本部 商品マーケティングセンター調理機器マーケティング部炊飯器商品マーケティング課 課長の石毛伸吾氏

一方で、Panasonic Cooking@Labでは、今年の新米予測を明らかにした。

これによると、新米の収穫量は低下が見込まれており、「出来栄えはいいと言えない状況である」と指摘。さらに、新米の価格は引き続き高値が予想されること、来年にかけて米の流通量が不足する可能性があるとの厳しい見方を示した。

  • 今年の新米予測。再び米不足となる可能性がある

パナソニック キッチン空間事業部調理機器ビジネスユニットPanasonic Cooking@Lab主任技師の萩成美氏は、「今年は梅雨が短く、6月~7月にかけて雨が少ない気候であり、米にとっては痛手となっている。出穂期に水が不足すると受粉ができず、籾が稔らない状態になる。とくに、米どころと呼ばれる地域での降雨量が少ない。また、カメムシ類が多く発生し、斑点米が増加していることも、収穫量が低下する要因になっている」と指摘したほか、「水不足や高温のため、高温障害が起きたり、夜間の気温が高いため、日中の光合成で作ったデンプンを、夜間の補給で消費してしまい米に蓄えることができなくなったりといったことが発生している。また、備蓄米によって平均価格は下がったが、銘柄米の価格は下がっていない。新米の予約販売も現状価格となっている。例年は9月~12月は古米と新米のどちらも流通していたが、2024年産米は前倒しで消費しているため、2026年夏には、また米不足になる可能性がある」と予測した。

  • パナソニック キッチン空間事業部調理機器ビジネスユニットPanasonic Cooking@Lab主任技師の萩成美氏

作付け面積の拡大が進んだり、米農家では暑さ対策の工夫を行ったり、水不足や高温に強い新たな品種の登場などもある。「厳しい状況にはあるが、農家はおいしい米を作る努力をしている。パナソニックは、それぞれの米にあわせて最適な炊き方ができるようにモノづくりをしている。好みの米を探してもらい、おいしく食べてもらいたい」と語った。

パナソニックが発表した可変圧力IHジャー炊飯器「おどり炊き X9Dシリーズ」は、独自の圧力技術の急減圧およびIH技術の高速交互対流によって実現する炊き技「Wおどり炊き」と、それを制御する「ビストロ匠技AI」の技術によって、新米だけでなく、精米してから時間が経過した状態の古米でも甘みを引き出すことができ、おいしいごはんに炊き上げられるのが特徴だとする。

  • 「Wおどり炊き」と「ビストロ匠技AI」の技術により、新米だけでなく、古米や外国米の甘みも引き出す

パナソニックの石毛課長は、「パナソニックには、1956年に電気自動炊飯器を発売して以来、約70年にわたる開発経験がある。かまどご飯に学び、進化させてきたものであり、元祖IH、元祖可変圧力、元祖AIといえる技術を蓄積してきた。これらを結集したおどり炊きと、米のおいしさを科学の観点から研究してきた専門部隊であるPanasonic Cooking@LabによるAI技術を活用することで、感動のかまど炊きが実現できる」と自信をみせる。

  • 約70年に渡ってパナソニックが発売してきた炊飯器

  • 1957年に発売した電気自動炊飯器

  • パナソニック炊飯器の70年史

おどり炊きは、もともとは三洋電機が開発した技術で、買収に伴い、2013年からパナソニックブランドの炊飯器に採用。かまどごはんを目指した改良を加えており、「甘み」「粒立ち」「ふっくら」を実現することができるのが特徴だという。

パナソニック くらしアプライアンス社 キッチン空間事業部調理機器BU 国内マーケティング企画センター 商品企画課 課長の林田章吾氏は、「おどり炊きは、米の消費量の変化、消費者の嗜好の多様化、ブランド米の高付加価値化、季節変動や気候変動の影響などを捉えながら進化してきた。新製品では、新米だけでなく、古米もおいしく炊けるように進化している」という。

  • パナソニック くらしアプライアンス社 キッチン空間事業部調理機器BU 国内マーケティング企画センター 商品企画課 課長の林田章吾氏

Wおどり炊きは、独自技術である急減圧バルブを活用し、加圧から一気に減圧し、爆発的な沸騰を起こして、米をおどらせる可変圧力技術と、IHの高速切り替えで泡の対流を発生させ、米をおどらせる高速交互対流IHで構成されている。

また、独自のAI技術を活用することで、米の状態に合わせて、おどり炊きを自動調整し、炊き上げることができる点も大きな特徴だ。

「炊飯は、米と水だけのシンプルな構成だが、銘柄米、新米、備蓄米(古米、古古米、古古古米)、カルローズ米などの多様な米が流通し、米の状態や室温や湿度、水加減、火加減などで炊き上がりは大きく異なる。これらをセンサーで見極めて、圧力、火力を微細にコントロールすることで、誰が炊いてもおいしくできるようにした。様々な種類の米が流通している時代がからこそ、AIが威力を発揮する」(林田課長)

今年のビストロ匠技AIでは、沸騰検知センサー、釜底温度センサー、リアルタイム圧力センサーに加えて、新たにリアルタイム赤外線センサーを搭載。合計4つのセンサーが、米の状態を見極めて、おいしく炊き上げる。

「従来は釜底に設置したセンサーで温度を検知していた。だが、接触型であるため、安定している温度を検知するには適しているが、急な温度変化を見ることができなかった。新たなリアルタイム赤外線センサーは非接触型であるため、温度変化をリアルタイムで検知し、より細かく見ることができるようになった」という。

新搭載のリアルタイム赤外線センサーは、赤外線で温度検知し、0.1℃ごとに検知(釜底センサーは0.8℃ごと)でき、温度変化を読み取るのが得意であるため、昇温時に効果を発揮するのが特徴だ。

  • 温度は釜底温度センサーとリアルタイム赤外線センサーで検知する

  • 新たに搭載したリアルタイム赤外線センサー

  • 赤線が赤外線センサーの変化。手を近くに近づけるだけで瞬時に反応するが、青線の釜底センサーは手をかざしても変化を認識するまでに時間がかかる

  • リアルタイム圧力センサーによって圧力を検知

  • 沸騰検知センサーはこの部分に配置されている

新製品では、Wおどり炊きりの進化と、ビストロ匠技AIの精度向上により、米が水を吸収する前炊き時には、高速交互対流IHによって、米が甘くなる温度帯に素早く到達させ、α化が進む沸騰時には急減圧バルブで、水の残り具合を精度高く推定し、従来よりも早いタイミングで急減圧させて、沸騰を維持するという。

「前炊き時には、米が甘くなる40℃から60℃の温度帯に素早く到達させる。これが甘みを引き出す重要なポイントになる。一気に加熱しすぎると60℃を超え、酵素が失活してしまう。また、従来センサーでは温度変化をゆっくり検知するため、慎重な加熱しかできないという課題があった。瞬時に温度を検知し、狙った温度にすぐに到達させ、火力をセーブしてその温度を維持するようにしているのが今年の進化である。さらに、水の残り具合の推定精度を高めたことで、4回の急減圧のうち、2回目の急減圧において、吹きこぼれないぎりぎりのタイミングを狙い、水が多い段階で急減圧をかけることが可能になった。水が多いため、より爆発的な沸騰でお米が高く持ち上がり、一粒一粒に熱をしっかり伝えられるメリットが生まれた」という。

  • 炊飯工程のイメージ

同社によると、2024年産コシヒカリの新米では、従来モデルで炊いた場合と比較して、甘みが約8%向上。古米である2023年産コシヒカリでは、ビストロ匠技AIが無い場合と比べて、約8%ふっくりらし、約9%の甘み改善が図られているという。

「ビストロ匠技AIは、米の状態から判断して、圧力や火加減を自動で調整する。古米の場合には、センサーの情報をもとに、水分量が少なめであることを診断し、加圧時間を長くし、加圧を高くし、火力を弱くするといった制御を自動的に行う」(パナソニックの林田課長)という。

  • 新米では甘みが約8%向上、古米でも約9%の甘み改善

実際、2023年の備蓄米を、ビストロ匠技AIありとビストロ匠技AIなしで、食べ比べをしてみたが、硬さや風味、香りに違いがあることがわかった。

  • 左がビストロ匠技AIありで炊いた古米、右がビストロ匠技AIで炊いた古米。香りや甘みに違いが感じられた

  • 新米が炊きあがったところ

ビストロ匠技AIを開発しているのが、Panasonic Cooking@Labだ。従来は、ライスレディと呼ばれ、炊飯を科学し、それをもとに、炊飯プログラムを開発する専門家たちであり、約40年の歴史を持つ。調理科学を専門に学んだメンバーで構成しており、自動メニューを調理する際の加熱制御とレシピ(ソフト技術)を開発するのが役割だ。

ビストロ匠技AIについても、Panasonic Cooking@Labが、開発をリードしている。長年に渡って蓄積したデータをもとに、パラメータを組み合わせて、約9600通りの組み合わせのなから最適な火加減、圧力加減を、自動で調整して炊飯する。全国の73銘柄を炊き分けることが可能だ。

Panasonic Cooking@Labの萩氏は、「炊飯器の炊飯ボタンを押すだけで、どのような米でも、毎日おいしくご飯を食べることができる炊飯器の開発を続けている」とする。

「おどり炊き X9Dシリーズ」のオンラインストア価格は、5.5合炊きのSR-X910Dが9万9000円、1升炊きのSR-X918Dが10万5000円。指定価格制度の商品として販売する。

  • 発売にあわせて全国で試食イベントを計画

パナソニックグループにおいて、炊飯器や電子レンジなどを担当するキッチンアプライアンス事業は、実は、課題事業に位置づけられている。

課題事業の定義は、成長が見通せず、ROIC(投資資本利益率)がWACC(加重平均資本コスト)を下回る事業であり、2025年度中に方向づけを行い、2026年度までに整理を完了することになる。

課題事業に対しては、事業をカーブアウトする方法、事業を終息する方法、一部事業をカーブアウトしたり終息したりし、それに伴い商品ラインアップを見直す方法が考えられる。

パナソニックホールディングスの楠見雄規グループCEOは、「課題事業に対しては、どういう方針で、どう変えるかということはほぼ決まった。それをこれから実行することになる」と語る。

キッチンアプライアンス事業は、キッチン空間事業部が担当している領域であり、炊飯器や電子レンジ、冷蔵庫、IHクッキングヒーター、ホームベーカリー、トースター、ジャーポット、コーヒーメーカー、自動調理鍋、ホットプレート、食洗機などが対象となる。

炊飯器や冷蔵庫など、パナソニックが長年に渡って取り組み、市場をリードしてきた製品や、若年層への新たな提案によってヒットした食洗機も含まれている。

  • パナソニックらしい製品が多く存在するキッチン空間事業だが、どんな経営判断が示されることになるのか

パナソニックの石毛課長は、「キッチン空間事業は、健康で豊かな食文化の向上に貢献するための製品開発を進めている。くらしのニーズや変化に寄り添い、ビストロシリーズでは、期待を超えるおいしさの深化に取り組み、食材管理や小世帯向け、サプスクリプション、再生中古品などにより、『新しい食』のくらしの提案も進めている」とする。

パナソニックらしい製品が多く存在する事業だけに、キッチンアプライアンス事業に対して、どんな経営判断が示されることになるのかが気になるところだ。