シャープの沖津雅浩社長兼CEOは、2025年5月30日、社内イントラネットを通じて、社員を対象にしたCEOメッセージを配信した。「シャープらしさを取り戻す」をテーマに、5月12日に発表した中期経営計画で打ち出した方針とともに、その反響などについて説明した。 沖津社長兼CEOは、2024年度を振り返り、3年ぶりの最終黒字の達成や、売上高および各利益が公表値をクリアしたこと、最重要経営課題としていたアセットライト化を着実にやり切ったことなど、「期初に掲げた目標を有言実行できた1年になった」と総括。「これは社員の一人ひとりの努力の賜物である」と振り返った。

  • シャープの沖津雅浩社長兼CEO

    シャープの沖津雅浩社長兼CEO

目の付けどころが冴えてきた? 高まる期待

中期経営計画の説明会に参加したメディアおよびアナリストからは、黒字必達宣言を実現したことをポジティブに捉える声や、一連の取り組みをすべてやり切ったことに対して高い評価があることを紹介。中期経営計画に対しても、シャープの方向性がしっかりと整理されていること、構造改革に区切りをつけ、前に進んでいくメッセージをポジティブに受け取ったなど、肯定的な感想が出ていたという。

また、取引先からは、「今後の成長への意気込みが伝わった」、「“目の付けどころ”の復活に期待する」といった、期待の言葉があったという。

だが、中期経営計画の発表以降も、シャープの株価は低調に推移。「これは、前年度の特殊要因の反動や、米国の関税政策による先行きの不透明さなどを踏まえて、2025年度の業績予想が減収減益となったこと、財務基盤の課題などが影響している」と自己分析し、「こうした株式市場の評価に対しては、ステークホルダーの方々に、中期経営計画の内容を時間をかけて、丁寧に説明し、シャープの事業の状況や競争優位性、目指す方向性などについて深く理解していただき、これを着実に実践し、その成果を四半期ごとの業績で示していくことが重要である」との考えを示した。

シャープでは、6月17日に、メディアやアナリストを対象にした事業説明会を開催し、スマートライフヒジネスグループ、スマートワークプレイスビジネスグループ、研究開発に関する戦略を説明する予定だ。

シャープでは、中期経営計画にあわせ、経営理念と経営信条に沿った新たな指針となるOur Missionを発表。「誠意をもって人々の日常を見つめ、創意をもって新たな体験を提案する」ことを打ち出した。

沖津社長兼CEOは、「この言葉には、社員一人ひとりがいま一度、創業の精神、経営理念、経営信条に強いこだわりをもって事業活動に取り組むことで、他社とは一味違った商品を生み出してきた『シャープらしさ』を、もう一度復活させたいという思いを込めている」と強調した。

シャープでは、液晶テレビやカメラ付き携帯、プラズマクラスター、ヘルシオ、ビューカム、ザウルスなど、数々の独自商品を次々と生み出し、人々の日常に新たな体験を提案。「こうした製品を通じた体験は、現在の人々の暮らしに深く根づいており、現代社会の“文化”を構成する重要な要素となっている」と述べる。

その上で、「これはシャープの力だけで成し遂げたものではないが、その一歩を踏み出したのは、シャープの『誠意と創意』によるものであり、これこそが私が考える『シャープらしさ』である」とした。

さらに、「シャープのDNAである『目の付けどころ』と『特長技術』に加えて、さらなる開発の加速や、走りながら考える姿勢を、より高い次元で身につけるなど、厳しいグローバル競争を勝ち抜くための『スピード』を一層強化していく」とした。

また、「あなたらしく“暮らす”」と「共創的に“働く”」の2つの領域を中心に、Our Missionを実践することで、シャープらしい新たな価値を次々と生み出し、シャープを、新しい文化をつくる会社へと成長させていく」と目指す方向性を示した。

シャープでは、中期経営計画を発表して以降、社内アンケートを実施し、3000人を超える社員が回答。多くの社員が、目指す方向性や中期経営計画の考え方を前向きに捉えているという。

だが、沖津社長兼CEOは、「まだまだ信頼回復に向けた第一歩を踏み出したに過ぎない。また、足元の事業環境は決して予断を許さない状況にある。四半期ごとに着実に業績を積み上げ、何としても2年連続で公表値を達成する。そして、再成長の道のりを力強く歩んでいこう」と社員に呼び掛けた。

すべてのステークホルダー、消費者への浸透が必要

CEOメッセージでも触れたように、沖津社長兼CEOが、中期経営計画で打ち出したのは、「シャープらしさ」を取り戻すこと、そのために「目の付けどころ」にこだわり、そこに「特長技術」と「スピード」を生かすということだ。

だが、現時点では、このメッセージがすべてのステークホルダー、消費者に共通の意図を持って伝わっているとは言い難い。

シャープは、経営危機に陥ったのち、鴻海傘下での再生を遂げたものの、再び業績悪化に陥り、この1年で積極的なアセットライト化に取り組んできた。

そうした激動の時期を繰り返してきただけに「シャープらしさ」の尺度が、人によって異なるのも事実だ。たとえば、特徴的な製品の投入、市場を開拓する製品の投入を、シャープらしさと捉える人がいる一方で、鴻海傘下であることや、業績が悪化している状況を「シャープらしい」と捉える人もいる。

また、「目の付けどころがシャープでしょ」というマーケティングメッセージは、1990年から2009年に使用されていたものであり、15年以上も前のものである。当然のことながら、若い世代にはその意図や当時のインパクトがわかりにくく、メッセージの受け取り方には世代間のギャップが存在する。

「シャープらしさ」や「目の付けどころ」に対する市場のトーンセッティングをしっかり行うことがまずは重要であり、そうしなければ、メッセージそのものが、ステークホルダーや消費者に間違って届くことになりかねない。

沖津社長兼CEOが語るように、シャープのメッセージをステークホルダーに正しく伝えるには、シャープの方向性について深く理解してもらい、それを着実に実践する活動が、より重要になる。