2025年4月13日から開幕した大阪・関西万博の会場内において、NECの顔認証システムが導入されている。実際に万博会場を訪れて、顔認証システムの様子を体験してきた。
Osaka Metro中央線の夢洲駅を降りて、目の前にあるのが万博会場の東ゲートである。
ここでは、手荷物検査とともに、入場チケットのQRコードを読みとって入場することになるが、同時に、NECの顔認証システムを活用した来場者管理も行われている。
対象となるのは、期間中に何度でも利用可能な「通期パス」の利用者と、夏期限定の「夏パス」の利用者だ。一般入場者は、顔認証の対象外である。
対象チケットの利用者は、チケットに記載されているQRコードをゲートにかざした後、カメラに向かって、顔認証による追加確認を行うことになる。
通期パスと夏パスの利用者は、一般入場者に比べて、顔認証という作業が必要になるのだが、これは、チケットの貸し借りなどによるなりすましを防止する狙いがある。認証は一瞬で終わるため、そのために待たされるということはない。
ゲートに設置した顔認証用のカメラは、高さや位置を考慮することで、車椅子での来場者や、子供の来場者でもスムーズに認証を行えるようにしているという。また、マスクを装着しても顔認証が行えるようにしている。
NECでは、「来場者がスムーズかつセキュアに入場していただけるシステムを目指している。スタッフの省力化にもつながる」としている。
顔認証のための事前登録は、万博のチケット購入サイトでチケットを購入後、「顔認証情報の登録はこちらから」という表示が出てくるので、そこをタップし、スマホのカメラで顔写真を撮影して、登録すれば完了だ。PCでチケットを購入した場合も内蔵カメラで撮影。PCにカメラが無い場合の登録方法については、博覧会協会のサイトには、「ご家族や友人・知人にサポートいただき、顔認証情報登録まで実施いただきますようお願いいたします」と書かれている。。
NECの顔認証システムは、地下鉄に直結している東ゲートでは23カ所、シャトルバスやタクシーで来場した際に利用する西ゲートでは28カ所に設置。合計で51カ所の入場ゲートが稼働している。
NECでは、国内における顔認証の提供事例としては最大規模となる約120万人の登録を見込んでいるという。
また、NECの顔認証システムは、万博会場内の店舗での決済にも、顔認証システムを導入している。
万博会場内はすべてキャッシュレスとなっており、現金の利用はできない。キャッシュレス利用の利便性をさらに高めるのが、NECの顔認証システムということになる。
物品を購入する際に、スマホや電子マネーカードを取り出さずに、手ぶらで、より手軽に決済ができるというわけだ。
対象となっているのは、決済端末である「stera terminal」が設置されている店舗で、大阪・関西万博の独自電子マネー「ミャクペ!」に事前登録しておけば、入場チケットの券種に関わらず、すべての来場者がこの仕組みを利用できる。
レジカウンターには、カメラが内蔵したNEC端末と、決済端末が連動しており、販売スタッフは、決済の都度、金額を入力することなく、スピーディな処理が可能だ。
利用者は、事前に、EXPO2025デジタルウォレットアプリから万博IDと連携後、大阪・関西独自の電子マネー「ミャクぺ!」で、顔認証決済に使用する顔の登録をすればいい。なお、顔認証を行うことができる決済方法として、「ミャクペ!」のほかに、クレジットカードや銀行口座とも紐づけできる。また、通期パスと夏パスのチケット購入者は、一度の顔登録で、入場と会場内決済の両サービスが利用できるようになっている。
NECによると、電子マネーと顔認証が紐づく決済の運用事例としては、国内最大規模になるという。
ちなみに、万博会場における入場管理と決済における顔認証サービスは、生体情報の使用に同意し、登録した来場者だけが利用できるもので、預った顔画像などの個人情報は日本国内のプラットフォーム内に安全に保存するという。また、利用者の同意なしに個人情報を他の目的で使用することはないことも明らかにしている。
大阪・関西万博の独自電子マネーである「ミャクぺ!」は、EXPO2025 デジタルウォレットとして、三井住友フィナンシャルグループとともに提供しているもので、NECの「応援経済圏構築プラットフォーム」をベースに構築。クレジットカードや銀行口座からチャージして使える二次元コード決済型の電子マネーだ。万博会場内外を問わずに、Visaのタッチ決済対応の全国の店舗で、会場内では万博開幕期間中の利用が可能。万博会場以外では2026年1月13日まで利用できる。万博会場以外では顔認証には対応していない。
話題を集めているパビリオンのひとつが、メディアアーティストの落合陽一氏がプロデュースした「null2(ヌルヌル)」。ここにも、NECの顔認証が利用されている。
null2は、鏡をモチーフにしたシグネチャーパビリオンで、デジタルの鏡として、来場者のデジタルヒューマンを映し出すことができる。来館者は全身をスキャンして、デジタルヒューマン「Mirrored Body」を生成。これを活用して、パビリオンで様々な体験ができる。また、このデータを持ち帰ることができる。
ここでは、NECが提供するDID/VC(分散型ID/検証可能なデジタル証明書)ソリューションの「NEC Digital Identity VCs Connect」を活用。顔認証技術で確実な本人性を担保し、Mirrored Bodyのなりすましといった不正を防ぎ、デジタルの世界で高い信頼性とセキュリティを実現するという。
NEC Digital Identity VCs Connectは、個人が自身の情報を、自らの意思で管理する「自己主権型アイデンティティ」の体験を可能にしており、デジタル上のデータ管理におけるサービス事業者やクラウドベンダーへの依存を減少。個人がデジタルサービスを安心して活用することが可能だという。
一方、NECでは独自にパビリオンによる出展は行っていないが、大阪・関西万博のバーチャル会場「バーチャル万博~空飛ぶ夢洲~」において、NEC独自のバーチャルルームを公開している。
バーチャル万博は、外国人を中心に、万博会場に来られない人を対象にしており、万博が閉幕する10月13日まで、24時間365日オープンしている。
バーチャル万博への来場者は、アバターとして、大阪・関西万博の世界に入り、実際の建物が再現されたパビリオンやイベント施設を訪問し、バーチャルならではの展示やイベントを楽しめる。
NECルームでは、万博におけるNECの取り組みや、同社が打ち出す価値創造モデル「BluStellar」の紹介のほか、空港での顔認証をイメージ体験できるようにしており、顔認証によるパスポートチェックイン、顔認証による手荷物預け、顔認証保安検査場ゲートの様子を再現している。
バーチャル万博は、NTTコノキューのメタバースPF「DOOR」をベースとしており、アプリをインストールして、PCやスマホ、VRゴーグルでの参加が可能だ。
実は、NECでは、1970年の大阪万博の住友童話館において、カメラで撮影した来場者の顔から、目や鼻、口の位置や輪郭の特徴を分析し、よく似たパターンの歴史的人物にあてはめて分類する性格診断を行っていたというが、55年を経て開催された今回の大阪・関西万博では、顔認証技術として大きく進化し、入場管理や決裁などの実用面で活用されているというわけだ。
そのNECの顔認証技術は、世界ナンバーワンの評価を獲得している。
米国国立標準技術研究所(NIST)が実施した最新の顔認証技術のベンチマークテストにおいても、世界第1位を獲得したところだ。
同ベンチマークテストでは、1200万人分の静止画を用いた「1:N認証」において、認証エラー率0.07%となり、参加した世界中の企業および団体のなかで第1位の性能評価を獲得した。
また、撮影後10年と、12年以上経過した画像を用いて評価を行う2つの経年変化のテストでも第1位となるなど、主要8項目のすべてにおいて、2位以内に入る評価を獲得している。
とくに、パスポートやマイナンバーカードの有効期限に相当する10年以上を経過した画像を用いた経年変化テストにおいては、他組織の追随を許さない圧倒的な精度で第1位を獲得したという。
NECの顔認証は、顔の目や鼻、口などの特徴点の位置や、顔領域の位置や大きさをもとに照合を行っていることから、眼鏡の有無や、帽子の有無、ひげの有無なども影響しないという特徴を持つ。
現在、NECの顔認証技術は、世界の約80の空港において、出入国管理や税関申告、搭乗手続、おもてなしといった様々な用途で活用が進んでいるほか、交通機関やオフィスビル、工場、ホテル、テーマパーク、病院、マンション、店舗、金融機関、自治体などにも適応範囲が拡大。世界50以上の国と地域で事業を展開している。