パナソニック ホールディングスは、天然の生産量が極めて少なくなっている「すじ青のり」や、準絶滅危惧種の「とさかのり」などの養殖を支援することを目的に、シーベジタブルと、共同実証契約を締結し、それに向けた活動を開始している。

両者では、海藻養殖を通じた海の生物多様性の保全、回復や、食料問題および健康維持、CO2削減といった社会課題解決に向けた可能性を検討。パナソニックが持つロボット技術やIoT技術などの知見、ノウハウを活用し、陸上での海藻養殖などをサポートすることになる。これは、サステナブル・シーフードへの貢献にもつながると見ている。

パナソニック ホールディングス技術企画室共通技術企画部技術ブランディング課 課長の山木健之氏は、「地球温暖化の影響などにより、海の生態系が大きく変化し、のりの収穫量は大きく減少している。シーベジタブルが進めているのは、日本において、のりをはじめとした海藻が絶滅しないように、海藻の種苗を育て、養殖を行い、そのノウハウを広く展開していくことである。ここにパナニックグループが持つテクノジローを活用し、支援ができる可能性を検討していくことになる」と説明する。

  • パナソニック ホールディングス技術企画室共通技術企画部技術ブランディング課 課長の山木健之氏

    パナソニック ホールディングス技術企画室共通技術企画部技術ブランディング課 課長の山木健之氏

具体的には、ジーベジタブルが保有する養殖施設において、パナソニックホールディングスが持つロボット技術やIoT技術を適用できる可能性、養殖海藻の生産効率向上の可能性を検討するほか、経済合理性の観点からも検証。生物多様性の保全や回復を含めたネイチャーポジティブに対する意識向上ならびに起業家マインドの意識変革を図るための人材交流も行う。

また、シーベジタブルの養殖海藻などの生産物の特性を活用し、パナソニックホールディングスの従業員を対象とした受容性や行動変容の調査および分析も実施する。

共同実証の実施期間は、2025年11月14日までとしており、パナソニックホールディングスでは、生産効率向上に貢献する技術の海洋養殖現場への適合や実験を行い、シーベジタブルは、技術適用可能性検討実施するための実験場所の提供、生産効率推定に必要となる情報の提供などを行う。

シーベジタブルは、2016年に創業したスタートアップ企業で、世界初となる地下海水を用いた陸上海藻栽培を行い、独自に開発した設備や生産ノウハウによって、高品質な「すじ青のり」を、通年で安定的に供給している。

同社は高知県や三重県、静岡県、熊本県などで海藻養殖事業を展開。40年以上も日本中の海に潜り海藻を採取したり、分類を行ったりしている専門家や、藻類の種苗生産に長年取り組んできた研究者、水質や栄養分析のスヘペシャリストなどが参加しているほか、地域の漁業者や福祉施設などとも連携しているという。現在、養殖によって生産したのりを原料とした乾燥のりやふりかけ、調味料などを販売している。

養殖の対象としている「すじ青のり」は、高知県四万十川が生産地であったが、水温上昇により収穫量が激減。天然での生産量が極めて少なくなり、2020年には出荷量は0kgとなっていたほどだ。また、「とさかのり」は、栄養価が高く、さまざまな料理に利用できる海藻として知られている一方、天然ものがとれにくくなっており、準絶滅危惧種にも指定されているという。

シーベジタルブルが展開する陸上養殖では、漁港などの海に近接した場所に養殖場を配置。地下海水を汲み上げ、養殖槽でのりを育てる。養殖槽では、攪拌したり、清掃したりといった作業が必要だが、ここにパナソニックホールディングスが持つロボット技術やIoT技術、温度管理技術のほか、回転したり、清掃したりといった家電メーカーならではの技術も応用できると考えている。

  • シーベジタブルの陸上養殖の様子

  • 地下海水を汲み上げて、洗浄し、ミルラル豊富な海水を養殖に使用する

  • 最も大きい水槽。地下海水を汲み上げ、太陽の光で光合成を行いのりを育てる

  • のりを収穫している様子

  • シーベジタブルでは様々な商品としてサイトなどを通じて販売している

パナソニック ホールディングス技術企画室共通技術企画部技術ブランディング課 主務の和田淳志氏は、「パナソニック ホールディングスの技術者が、シーベジタブルが運営している陸上養殖場に出向き、どんな課題があるのか、そこにどんな解決策があるのかを検討している。様々な可能性を模索している段階にある」と語る。そして、「生きのいい技術者が参加している」と、この協業に向けた力の入れ具合を表現する。

  • パナソニック ホールディングス技術企画室共通技術企画部技術ブランディング課 主務の和田淳志氏

パナソニック ホールディングス技術部門では、小川立夫グループCTOの思い入れもあり、約3年前から、ネイチャーポジティブに着目。同社が持つテクノロジーを活用することで、海洋分野における課題解決に向けた活動を少人数の有志によって開始。その活動のなかで、シーベジタブルの取り組みにも注目してきた。

パナソニック ホールディングスでは、2024年3月に、大阪・西門真の本社EXラボにおいて、シーベジタブルによる食材試食会を開催。試食会には、パナソニック ホールディングスの小川立夫グループCTOも参加。シーベジタブルのパートナーシェフである、すし作家の岡田大介氏が調理。パナソニック ホールディングスの社員は、すじ青のりを使った白身魚のソテーや、生青のりの天ぷら、若ひじきのおにぎり、温かいもずくスープなど、8品の海藻料理を試食した。

  • パナソニック ホールディングスの小川立夫グループCTOも参加した

また、2024年11月26日には、本社の社員食堂において、シーベジタブルの食材を使ったメニューを提供。140食を用意したところ完売になったという。注文総数の20%を占めれば多い方だが、同メニューは35%を占めたという。社員の関心の高さも裏づけられている。

12月以降も、月1回のペースで特別メニューを用意。社員食堂を運営する企業と連携しながら、メニューを考案し、継続的に提供することになるという。

  • 食堂で提供されたメニュー

  • セットメニューが提供されている様子

パナソニックグループでは、資源管理や環境・社会に配慮した持続可能な方法によって生産した水産物である「サステナブル・シーフード」を導入。社員食堂などにおいて、2019年度~2022年度に、11万584食のサステナブル・シーフードが、パナソニックグループで喫食された実績もある。

パナソニック ホールディングス技術企画室共通技術企画部技術ブランディング課 課長の山木健之氏は、「日本全国で、海藻を食べる頻度が減少している傾向にある。社員食堂でのメニューに採用することで、パソナニックグループのなかに、もともと日本人が持っていた海藻を食べる文化を、改めて醸成することにもつなげていきたい」と語る。

パナソニックホールディングス技術部門では、2024年8月に、「技術未来ビジョン」を発表し、未来実現に向けた3つの要素を掲げているが、その1番目のテーマとして、エネルギー、モノ、食を対象にした「資源価値最大化」をあげ、日々の生活の中に、グリーンで、安心安価なエネルギーや資源を巡らせる世界の実現を目指している。

パナソニックグループでは、ペロブスカイト太陽光発電や水素発電、蓄電システムのほか、ヒートポンプ技術、水処理技術、人流解析技術など、様々な技術を持っており、これらによって、「資源価値最大化」を図ることになるという。

パナソニック ホールディングス技術企画室共通技術企画部技術ブランディング課 課長の山木健之氏は、「技術未来ビジョンでは、食の持続可能性もひとつの取り組みと位置づけているが、技術部門が、海に対して具体的な活動することは、これまでほとんどなかった。今回のシーベジタルブルとの共同実証を通じて、海が持つ課題解決にも目を向けることができるようになった」とする。

食を対象にした「資源価値最大化」に対する活動が広がることで、影響力はさらに拡大することになる。たとえば、将来的には、パナソニックグループのキッチン家電を活用し、サステナブル・シーフードを、おいしく調理できる提案といったことも可能になるだろう。

パナソニック ホールディングス技術部門の活動はまだはじまったばかりだが、地道な活動の積み重ねが、サステナブル・シーフードを実現するための様々な可能性を広げることにつながりそうだ。