• 初公開の「EV」コンセプト車両含むシャープの次期技術披露へ、事業化までの距離は?

シャープは、2024年9月17日、18日の2日間、東京・有楽町の東京国際フォーラムで技術展示イベント「SHARP Tech-Day’24 “Innovation Showcase”」を開催する。その概要について発表した。同社が市場参入を発表したEVのコンセプトモデルの展示などが行われる。

SHARP Tech-Dayは、2023年11月の開催に続いて2回目となる。今年は「Next Innovation」をテーマに、「AI」、「EV」、「Green Energy」、「Industry」、「Communication」の5つの分野において、50以上の独自ソリューションや技術を展示。そのうち約半分が初公開のものになる。また、シャープ独自のCE-LLMを中心としたAI関連の展示が全体の半分以上を占めるという。

さらに、「Next Innovation」の展望や技術の活用事例を紹介するビジネスセッションや、スタートアップ企業とのコラボレーションプログラム、就活生にシャープを理解してもらうためのイベントなども開催する予定だ。

シャープ 専務執行役員 CTO兼ネクストイノベーショングループ長の種谷元隆氏は、「シャープは独自技術をベースに近未来の価値を提供してきた。これからの近未来に向けた世界観を、ユーザーや協業パートナーなどのステークホルダーと共有し、共鳴してもらうためにショーケースがSHARP Tech-Dayであり、様々な意見やアイデアをもらう場にしていきたい。それぞれの技術は、3年ぐらいで実用化したいという思いで展示をしており、開発を加速し、ソリューションや製品をいち早く市場に投入していくきっかけになると考えている。会場では、技術そのものを説明するのではなく、新たなイノベーションを生み出すユースケースを体感してもらえる場にしていく」と狙いを語った。

  • 「SHARP Tech-Day’24 “Innovation Showcase”」について説明するシャープ専務執行役員 CTO兼ネクストイノベーショングループ長の種谷元隆氏

展示内容の詳細、やはり注目は「EV」参入の本気度

予定されている展示内容について見てみよう。

「Next Innovation “EV”」のエリアでは、新たに発表したEVコンセプトモデル「LDK+」を展示する。

シャープの種谷CTOは、「シャープはEV市場に参入する。数年後めどに発売する」と述べた。

LDK+は、鴻海精密工業股份有限公司(Foxconn)のEVプラットフォームをベースに、シャープが、企画および開発、マーケティングを行い、フォロフライが開発に協力している。バンタイプの形状で、全長は5m。後部座席が後ろ向きに回転し、ドアが閉まると両サイドの窓に搭載した液晶シャッターが閉まり、プライベートな空間が誕生する。車内後方には、65V型のディスプレイやプラズマクラスターイオン発生機を搭載。臨場感あふれるシアタールームや子どもの遊び場としてはもちろん、ひとりで集中したいリモートワークなどにも活用することが可能だ。大画面を通じて家の中にいる家族とのシームレスなコミュニケーションも可能とし、あたかも隣の部屋にいるかのような安心で便利な空間を提供。日常の暮らしの中で、家電を通じてAIが学習した情報をもとに、好みに応じて空調や明るさを自動で調整し、快適な車内空間を実現することもできる。また、EVに搭載した蓄電池と太陽電池が家全体とつながり、AIが家とEVとの最適なトータルエネルギーマネジメントを実現し、災害などによる停電時は、蓄電池に貯めた電気を家庭内で活用することができる。

シャープの種谷CTOは、「EVが駐車場に止まっている時間は価値を生み出していない。そこに着目した。家電メーカーとしての特徴を生かし、家とのつながりを実現しながら、新たな世界観を提案したい。EVをプラスαの部屋として捉えることで、止まっている時間も、価値を作り出すEVになる」と述べた。

また、シャープ I-001プロジェクトチーム・長田俊彦チーフは、「見た目はキャンピングカーだが、キャンピングカーは違う場所に移動して楽しむ車であり、シャープが提案するEVは、駐車場で家とつながることで価値を生み出す。シャープが100年以上にわたり培ってきた家電の技術のほか、AIやエネルギーの技術も生かすことができる。家のデータと車のデータがつながり、AIによって、その人にあった空間をEVのなかでも実現する。EVの中で映画を見たほうが快適であり、エネルギーにも優しいといった提案をAIが行なうことになる」と語った。

  • シャープが展示するEVコンセプトモデル「LDK+」

  • EVコンセプトモデルの前面にはシャープロゴが表示されている

  • 車内後方には、65V型のディスプレイが設置され、プライベートな空間が誕生する

  • 座席は後ろ向きに回転して、テレワークなどにも利用できる

「Next Innovation “AI”」のエリアでは、シャープが目指すAI実装の方向性とともに、同社独自のエッジAI技術である「CE-LLM(Communication Edge-LLM)」をはじめ、様々な事業領域でのAI活用の事例を紹介する。

シャープ独自のエッジAI技術であるCE-LLM技術を搭載したバーチャル説明員が展示内容を紹介する「AI Avatar 4K」、AIとの自然な会話を通じて、各種生活サポートにつなげる次世代UXを実現した「生成AIを用いた対話型UX」、透過型のXRグラスを通して、AIが空間に溶け込み、ビジネスを拡張する「Dynabook XRソリューション」、人の眼と同じ仕組みで超高速オートフォーカスを実現する「AIの“目”となるカメラの進化」、超小型でありながら、高MTFおよび低歪みの高い光学性能を実現し、使用者の意思をAI世界に伝える「超小型カメラ」、ディスプレイ基板技術と画像処理技術を応用し、嗅覚を模したセンサーを実現し、複雑なにおいをAIで判別する「AI Olfactory Sensor」を展示する。

なかでも、「Dynabook XRソリューション」は、Dynabookが独自に開発した軽量XRグラスを装着すると、カフェや新幹線の座席などの狭い場所でも複数画面を表示して作業が行えるのが特徴だ。PCに接続することで、作業エリアを空間上に広げることできるほか、PCの画面はXRグラスに表示されるため、空港ラウンジなど、周りに人がいる場所でも作業内容を覗かれるといった心配がない。また、XRグラスを通じてAIとのやり取りが可能で、AIが作業を支援することになる。相手の話している言葉をテキストで表示したり、英語を日本語に翻訳して表示したりすることもできる。

  • Dynabook XRソリューションのデスモトレーション

  • 軽量のXRグラスには複数画面を表示することができる。正面にいる人からも表示している内容を覗かれることがない

「Smart Living」のエリアは、AIを通じて実現するスマートホームやヘルスケアのほか、エネルギーに変化をもたらす技術を紹介する。

様々な機器とつながり、グリーンで快適な生活を実現する「スマートライフソリューション」、AIパートナーとの自然な対話を楽しみながら、家電や住宅設備をコントロールできる「家電制御Web API」、24時間いつでも気軽に家電について相談できるAIの「COCORO HOME + 生成AIサポートデスク」、社会課題への解決に向けた取り組みとして、家電の防災および減災への活用や、高齢者見守り、施設管理への活用事例を紹介する「AIoT家電データを活用したB2B/G向けソリューション」、AIとの自然な会話を通じて、各種生活サポートにつなげる新たなTVの役割を体験できる「AI Partner」、リビングで気軽にヘルスケア相談とエクササイズができる「AIヘルスケアトレーナー2.0」、暮らしに溶け込むヘルスケアセンシングによって、健康管理をサポートする「非接触ヘルスケアセンシング(スマートミラー)」などを展示する。

さらに、複数の食品をエリア別にそれぞれ最適な状態に解凍やあたためを可能にする「エリア別選択加熱技術」、新たな乾燥技術によって食品乾燥の価値を提案する「真空減圧による高品位乾燥」、高品質な冷凍による新たな調理、保存習慣によって食品ロスを低減する「急速凍結ソリューション」、シャープが独自に取り組むバイオミメティクス技術である「ネイチャーテクノロジー」、空気清浄機に搭載してニオイを見える化する「空気清浄機ニオイセンシング」、独自の低騒音化技術を搭載した掃除機「低騒音化&ステーションタイプ EC-XR1」、アイススラリーをペットボトル飲料で簡単に作ることができる「アイススラリー冷蔵庫」も注目を集めそうだ。

また、白物家電におけるバージンプラスチックの削減取り組みを紹介する「サーキュラーエコノミー」、省エネ性と利便性を両立した効果的な照明制御を実現する「つながる照明制御ソリューション」、太陽光発電システムと様々な機器がつながり、最適に制御するシャープの「Eeeコネクト」システムによる「Smart Zero Energy Home」、宇宙用として、高効率・軽量を実現したソーラーモジュール「スペースソーラー」、シャープが保有する結晶シリコン太陽電池技術と、ペロブスカイト太陽電池技術とを組み合わせた「タンデム構造太陽電池」、パワー半導体の長所を最大化し、低損失化を実現する「パワー半導体低損失化回路技術」、ベースメタルである亜鉛を用い、電力の長周期タイムシフトを実現する大容量蓄電技術である「フロー型亜鉛空気電池」なども展示する。

同エリアに展示する「AI Partner」および「AIヘルスケアトレーナー2.0」は、CE-LLMを通じて自然な対話を実現し、ユーザーが望む様々なサービスを提供。テレビの大画面を利用して対話ができるのが特徴だ。「新たなテレビの役割を体験してもらえる」と位置づけている。

また、「エリア別選択加熱技術」は、エリアごとに出力を細かく設定し、ひとつのプレート上に乗ったご飯や総菜のあたためと、刺身などの解凍を同時に行える。また、半導体を採用することにより、長寿命で安心安全設計としているのも特徴となっている。集合施設やコンビニエンスストアなどでの利用も想定しており、「冷凍にすることで消費期限を延ばした形で、食品の保存や販売ができるなど、冷凍食材の活用シーンが広がる。店舗や食堂でストックしやすくなり、国内だけで年間400万トン以上が廃棄されていると言われる食品ロスの削減にもつなげることができる」としている。

  • テレビを利用してAIとの自然な会話ができる「AI Partner」

  • リビングで気軽にヘルスケア相談とエクササイズができる「AIヘルスケアトレーナー2.0」

  • 食品それぞれを最適な状態に解凍やあたためることができる「エリア別選択加熱技術」

  • あたためるシュウマイやチャーハン、解凍するだけのポテトサラダやおひたしが一緒に加熱できる

  • サーモグラフィー画像で見ると温度が異なっていることがわかる

「Next Communication」のエリアでは、公共空間などの様々な場所における通信技術とAIの組み合わせにより、新たな産業活性化に向けた事例を紹介する。

伝言アシスタント機能や迷惑電話対策機能など、デバイス上で動作する生成AI技術を活用した「生成AI搭載スマートフォン」、高精度な位置情報やスマートフォン内の情報、生成AIを組み合わせて位置を測定する「UWBによる高精度屋内位置測定ソリューション」、基地局装置とコア装置を小型防水トランクケースに収納し、簡単に持ち運べて、どこでも簡単にローカル5Gエリアを構築できる「Instant 5G Network」、最新のPhased Array Antenna技術を使い、圏外エリアでも通信が可能になる小型軽量の「LEO(低軌道)衛星通信端末」、オープンな開発環境で、通信端末の機能カスタマイズを可能にする「Beyond 5G IoT通信端末用SoC」、MRデバイスを使った近未来感のあるトレーニングを体験できる「MR教育・研修ソリューション」を展示する。

「Smart Industry」のエリアにおいては、オフィスや工場などのワークプレイスやモビリティ空間に新しい価値を提供するAI活用技術やソリューションを紹介する。

シミュレーテッド量子アニーリング(SQA)技術を応用し、自動搬送ロボットを利用して物流倉庫内の業務を改革する「次世代SQAロボットストレージシステム」、画像をインプットするだけで、AIが状況を把握し、予測される課題について原因や対策を提案する「AIゼロショット画像認識・課題対策」、光源分離型の小型プロジェクションヘッドにより、あらゆるモノや場所に映像情報を投写する「小型プロジェクションヘッド(Omjectコンセプト)」、薬剤を使用せずにレーザー光で、害虫駆除や害鳥忌避、除草を実現する「農業用途向け半導体レーザーモジュール」、人肌検知と脈波測定ができる「ハイブリッドセンサ」、多点point検知により対象物との距離を高精度に出力する「多点検知ToF型測距Sensor」を展示する。

そのほか、全方向広範囲撮影に適したアスペクト比8K8Kの超高精細画像を取得できる「8K8K正方CMOSイメージセンサ(CIS)」、フィルターを搭載したガス分解モジュールにより、食品、輸送、自動車など様々な業界の空気質改善ニーズに対応する「独自光触媒材料を適用したガス分解モジュールによるソリューション」、独自技術のIGZOとE Inkの電子ペーパーを融合させた環境配慮型ディスプレイの「ePoster」、既存設備や物流システムへのアドオンに適したIoTコネクトモジュール搭載のデータ伝送ユニット「Ambient IoTユニット」、最適な湿度環境を提供する調湿材のTEKIjuNを、新たにプレス成形に対応した「TEKIjuNプレス成形タイプ」、エッジAIによってリアルタイムで会話内容を文字起こしし、要約を生成する「スマート会議ソリューション」、生成AIを活用した自然言語によるナレッジ検索と回答生成で、複合機ユーザーの支援とサービスコストの削減に貢献する「AIアシスタント/Brainrobi」、オフィスに溶け込むヘルスケアセンシングにより健康経営をサポートする「非接触ヘルスケアセンシング (スマートミラー)」、快適空間を実現する車載ディスプレイ技術や、安全運転支援のためのドライバーおよび車内モニタリングシステムによる「次世代車載コックピットソリューション」を展示する。

なお、展示会場では環境に配慮した取り組みを実施。施工から撤去までに排出されるCO2および廃棄物量を、前年比40%減を目標にしているという。

また、開催初日には、「EVのグローバル動向とシャープのEV取り組み方針」と題して、シャープの種谷CTOと、日産自動車の副COOやニデックの社長を務めた鴻海精密工業 EV事業CSOの関潤氏による基調講演が行われるほか、開催2日目には、ビジネスセッションとして5つのテーマで、シャープやパートナー企業、大学関係者などが講演を行い、シャープが推進するNext Innovationの展望や具体的な事例をテーマごとに紹介。特設コーナーでは、スタートアップ企業や学生向けブースを用意するという。

  • SHARP Tech-Dayは9月17日から

SHARP Tech-Dayの開催時間は、9月17日が午後1時30分から午後7時、18日が午前10時から午後5時。参加は無料だが、事前登録制となっている。「SHARP Tech-Day」特設ウェブサイトから申し込むことが可能だ。

「SHARP Tech-Day」特設ウェブサイト
https://corporate.jp.sharp/techday/