前編から続く)

パナソニックでは、2024年4月から、メーカーによる検査済み再生品である「Panasonic Factory Refresh」の販売を開始した。サブスクリプションサービスの契約終了後の商品や初期不良品、店頭展示の戻り品などを、パナソニックの製造拠点やサービス拠点で再生して提供するものであり、家電のサーキュラーエコノミーの実現に貢献する取り組みになる。だが、これは単純に中古品を再生して販売するというものではない。パソナニックが取り組む「新・商売の基準」を実現する上での重要なピースのひとつであり、パナソニックファンを拡大するための新たな提案のひとつといえる。後編ではPanasonic Factory Refreshの狙いや、パナソニックファンを増やすための取り組みについて、パナソニック 執行役員 コンシューマーマーケティングジャパン本部長の宮地晋治氏に聞いた。

  • パナソニック 執行役員 コンシューマーマーケティングジャパン本部長兼くらしアプライアンス社副社長国内マーケティング担当兼パナソニックマーケティングジャパン 代表取締役社長の宮地晋治氏

    パナソニック 執行役員 コンシューマーマーケティングジャパン本部長兼くらしアプライアンス社副社長国内マーケティング担当兼パナソニックマーケティングジャパン 代表取締役社長の宮地晋治氏

  • この後編では、4月にはじまった「Panasonic Factory Refresh」について聞いた

―― 2024年4月10日から、「Panasonic Factory Refresh」を新たに開始しました。まずは、この仕組みを教えてください。

宮地:パナソニックでは、2023年9月から、ヘアードライヤー ナノケアのリファービッシュ品を、サブスクリプション(定額利用)サービスで提供し、2023年12月から、ドラム式洗濯乾燥機と4K有機ELテレビのリファービッシュ品の販売を開始しています。また、2024年2月からは、卓上型食器洗い乾燥機(食洗機)の再生品においても、サブスクリプションサービスを提供してきました。今回新たに、ポータブルテレビ、ブルーレイディスクレコーダー、ミラーレス一眼カメラ、冷蔵庫のリファービッシュ品の販売を開始し、2024年9月からは、電子レンジと炊飯器を加えて、10カテゴリーにまで拡大し、これらを「Panasonic Factory Refresh」のブランドで展開することになります。

  • 10カテゴリーで展開するPanasonic Factory Refresh

  • 10カテゴリーの内訳

新販売スキームの対象となっている商品を中心に実施するもので、サブスクリプションサービスの契約終了後の商品や初期不良品、店頭展示の戻り品などを、パナソニックの製造拠点やサービス拠点で再生し、厳格な出荷基準を満たした商品に、1年間のメーカー保証を付けて、「Panasonic Store Plus」を通じて販売することになります。買い切り型での販売だけでなく、サブスクリプションサービスとして利用することも可能です。販売価格は、商品カテゴリーやニーズ、在庫状況、時期、商品個体の傷、使用期間などによって決まるため、固定されるものではありませんが、現時点では、冷蔵庫やドラム式洗濯乾燥機の場合、通常販売時の約2割引きで販売しています。

  • パナソニックの製造拠点やサービス拠点で再生し、厳格な出荷基準を満たした商品に、1年間のメーカー保証を付けて販売する

―― Panasonic Factory Refreshの狙いはなんでしょうか。

宮地:当社の調査によると、家電を、長く、安心して使いたい人は76.7%に達しており、その理由として、節約や節電、環境負荷への配慮があがっています。また、パナソニックのリファービッシュ品の購入者の総合満足度は89%に達しており、「価格面やSDGsの側面から、良い買い物ができた」、「中古品と感じさせない仕上がり」といった評価があがっています。経済産業省が「成長志向型の資源自律経済戦略」を打ち出すなど、環境に対する意識が高まるなか、日本の企業として、サーキュラーエコノミーの実現に向けて、積極的に参画したいと考え、家電における新たな仕組みづくりに注力することにしました。一度製造された商品を循環することで、資源の最大活用にも貢献することに加えて、お客様が安心して、リファービッシュ品を利用できるようにするために、新たなスキームを作ることが狙いであり、そのための意思表明が、今回のPanasonic Factory Refreshです。家電のサーキュラーエコノミーの実現に向けて、スタートラインに立ったといえます。

―― Panasonic Factory Refreshの事業規模は、どう見込んでいますか。

宮地:いまは投資段階であり、まずは、国や自治体と連携して、ルール形成を踏まえながら、循環型社会を構築し、日本の社会のなかに、家電の循環経済のスキームを作ることを優先していきます。たとえば、いまの仕組みでは、有機ELテレビやドラム式洗濯乾燥機の再生は、栃木県宇都宮市の宇都宮工場で行うのですが、大型家電を全国から集めて、またそこから出荷するというのでは、輸送コストの増加につながったり、それに伴いCO2排出量の増加にもつながったりします。地域循環型のスキームを構築することも検討しなくてはなりませんし、そのためには地域やパートナー企業との連携も必要になります。現時点では、具体的な事業目標はありません。次の段階に入ったところで、どれぐらいの事業規模で展開できるのか、地域循環のスキームを構築する際に、どの商品であれば進めやすいのか、再生品の品質基準を維持するためにはどれぐらいの投資が必要なのか、そして、地域の販売店を通じたPanasonic Factory Refreshの販売はどうするのか、といったことを検討していくことになります。

  • テレビの再生では基板上のチップの交換まで行うという

―― Panasonic Factory Refreshは、パナソニックの家電事業にどんな影響を及ぼしますか。

宮地:パナソニックがこれまで行ってきた新販売スキームやSCM変革などは、メーカー側のスキームを改革する取り組みだったといえます。これからは、お客様への提供価値をどう作っていくのかといった改革になります。その取り組みにおいて、重要なピースのひとつになるのがPanasonic Factory Refreshです。そして、これは、新販売スキームの価値を高めたり、パナソニックファンを増やしたりといった点でも重要な取り組みになります。

先にも触れたように、Panasonic Factory Refreshは、新販売スキームの対象となっている商品を中心に実施しています。新販売スキームの対象商品は、付加価値の高い商品であり、その商品価値に見合った適切な価格で販売することを目指しています。その点で、Panasonic Factory Refreshは、付加価値を持った商品を、お求めやすい価格、適切な価格で提供する仕組みのひとつともいえます。気に入った付加価値機能があるので、それを使ってみたいという場合にも、Panasonic Factory Refreshであれば、よりお求めやすい価格で購入することができます。Panasonic Factory Refreshを、「体感の入口」に使ってもらうことができると思っています。

いまは、指定価格で販売している商品であっても、他社の動きを見ながら価格を変えています。そこにPanasonic Factory Refreshによる提案が加わることで、新販売スキーム対象商品における価格の信頼を維持しながら、購入の敷居を下げる提案ができるともいえます。

また、Panasonic Factory Refreshは、「新・商売の基準」の様々な取り組みと緊密に連動することになります。

―― それはどんな点ですか。

宮地:たとえば、「新・商売の基準」では、長く安心して利用できる環境を提案しており、壊れたから修理するのではなく、定期的にメンテナンスすることで、商品のパフォーマンスをもとに戻し、長期間利用してもらうといった提案を行っています。ドラム式洗濯乾燥機のヒートポンプクリーニングはその一例で、ほこりがついたため、3割機能が落ちてしまったが、クリーニングによって、初期のパフォーマンスに戻し、安心安全に使うことができます。ほこりのために稼働時間が長くなっていたものが元に戻り、電力消費を減らし、環境貢献にもつながります。ただ、これは、見方を変えれば、状態がいい形で商品を利用をしていただくことになりますから、使い終わったときに、Panasonic Factory Refreshとして再生しやすい品質の商品が増加するともいえます。

  • 記事前編で伺った、ドラム式洗濯乾燥機のヒートポンプユニットのクリーニングサービスも、Panasonic Factory Refreshと連動する取り組みだ

ユーザーは、新たな機能を持った商品が登場し、その機能が自分の生活にあっているために買い替えたいと思った場合にも、使用している商品の残存価を評価する仕組みがあれば、買い替えに踏み出しやすいといえます。パナソニックが先行してこの仕組みを構築すれば、パナソニックの家電を購入する理由がひとつ増えます。

新販売スキームによって、パナソニックならではの感動の商品を開発できる環境が生まれ、それをお客様が見て、買い替えたいと思ってもらったときに、SCM改革によってタイミングを逸することがない供給体制によって買い替えができ、下取りに出した商品はPanasonic Factory Refreshとして再生されるため、環境にも優しいというサイクルを作ることができます。これは、パナソニックのファンをつくることにもつながります。

また、IoT延長保証サービスを通じて、定期診断やクリーニング、お手入れの提案、遠隔診断や異常検知などを行うことで、長く使ってもらえるようになります。それに伴って、修理用部品の保有年数が長期化することになりますが、新販売スキームによって、毎年投入していた新製品を3年に1回のサイクルに削減できれば、商品の型番数が減少し、保有する部品点数も減らすことができ、部品を長期的に保有する環境が作れます。これは、Panasonic Factory Refreshで購入した商品も、長期間に渡り、使用できる環境が実現し、安心感して購入してもらえることにつながります。

さらに、パナソニックはSCM改革により、買いたいと思ったときに、ちゃんと購入できる環境の実現を目指していますが、その際に、新品だけでなく、もうひとつの選択肢として、Panasonic Factory Refreshを用意することも可能になります。これは、在庫の考え方や、ニーズへの対応の仕方にも変化を及ぼすことになります。

Panasonic Factory Refreshは、「新・商売の基準」で取り組んでいる各種施策と組みあわせることで、事業価値を高め、同時に、パナソニックファンを増やしたいと考えています。Panasonic Factory Refreshは、単に中古の再生品を再販するというものではなく、パナソニックの家電事業全体としての価値を高めます。お客様がパナソニックの商品を選択するときの価値を高め、パナソニックが選ばれる理由のひとつになればいいと思っています。

  • 「新・商売の基準」が目指しているのは、ウェルビーイングとサステナビリテの両立

―― Panasonic Factory Refreshにおける課題はなんでしょうか。

宮地:Panasonic Factory Refreshは、まだスタートしたばかりですから、あらゆるところで、改善や挑戦をしていく必要があります。たとえば、ヘアードライヤー ナノケアの場合には、外観の傷が3つまでが再生の対象としています。つまり、A級品だけを対象にしています。しかし、今後は、外観の傷がさらに多いB級品にまで対象を拡大すべきなのか、その価格はどう設定するのかといったことも検討しなくてはなりません。厳しい審査基準のままでは、環境の貢献が限定的であったり、市場の拡大につながらなかったりといった課題も出てきます。すでにB級品の仕組みづくりに向けた検討は開始していますが、ここでは、社会の許容性やニーズの変化、経済産業省の方針も視野にいれながら、トライアルを繰り返し、需要を見極めていきます。2024年度は、循環型社会への貢献度や価値の提供という点も考慮しながら、審査基準をどこまで緩和をするかといったことを検討することになります。

  • ヘアードライヤー ナノケアはパナソニックらしい感動を提案する商品の代表格だ

パナソニックの家電は、環境においても価値があるブランドであることを認知してもらいたいと思っています。また、パナソニックファンが増え、圧倒的支持を得られる家電メーカーになれれば、家電事業全体として利益を高めることができます。まずは、購買体験価値、使用体験価値をいかに高め、満足度を高めるかが重要になります。ブランド価値を高めながら、圧倒的なポジションを作り上げたいですね。そして、それをなるべく前倒しで実現したいと思っています。

パナソニックならではの感動を与えることができる商品を作り続け、それを購入してもらい、パナソニックのファンを増やすことで、日本のくらしを豊かにし、持続可能な社会に貢献できると考えています。