一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)AVC 部会は、「AV&IT 機器世界需要動向 ~2028年までの世界需要展望~」を発行した。
フラットパネルテレビやBD、PC、タブレット、カーナビ、ドライブレコーダーなど、11カテゴリーの製品を対象に、2028年までの世界需要動向と日本の需要動向をまとめている。1991年に初版を発行してから、今年で34回目となり、表紙が黒いことから、業界内では、「黒本」の愛称で呼ばれている。外部機関が策定した2028年までの需要予測をベースに、同協会AVC部会傘下の関係事業委員会、カーエレクトロニクス事業委員会、PC・タブレット事業委員会の参加会社に、アンケート調査およびヒアリング調査を実施し、その結果を取りまとめた。富士キメラ総研が調査協力をしている。
今回発表された内容についてレポートする。
今回の調査では、世界経済の堅調な成長、世界的なインフレ、円安の継続、脱炭素化や省エネ要求の強まり、原油価格の高騰、COVID-19の終息という動向のほか、ワイヤレス通信の普及、半導体需要の変動、生成AIの急発展などの2023年の市場環境を捉えながら、「AVおよびIT機器においては、2023年は全体的に需要停滞の傾向がみられた。機能や性能面の強化に加えて、AI化やスマート化への対応により、新たな需要を喚起する必要がある」(富士キメラ総研第一部主任の小林秀幸氏)と総括している。
AI化では、テレビなどのAV機器は、設定なしでの視聴環境の実現や、視聴コンテンツに最適な画質、音質の自動調整に対応した製品化が進展。IT機器では、クラウドサービスに依存せずにAI 機能を実現するAI PCの製品化が進み。カーAVC機器では、ドライバーの状態と周囲の状況を分析し、適切な注意喚起をしていくといった活用や、居眠り検知にもAIが活用されていくとした。
また、スマート化では、AV機器においては、ネットワーク経由でコンテンツを取得したり、視聴に対応した機能の拡充が進んだりするほか、スマートスピーカーをハブ端末に家電操作が拡充するスマートホーム化が進展すると予測。IT機器では、オフィスアプリケーションのフォーマット自動生成、手話翻訳、テキスト化、高度なセキュリティ、高度な画像処理などへ応用が進むと指摘。カーAVC機器では、音声や視線、ジェスチャーなどによる入力方法の多様化や、レコメンド機能などの機能拡充が進むとしたほか、OTA(Online Travel Agent)やコネクテッドサービスにより、車内空間においてユーザーの利便性や快適性が向上するとの方向性を示した。
製品別の動向を見てみよう。
フラットパネルテレビは、2023年の世界出荷台数が前年比2.0%減の2億1001万台となった。COVID-19の世界的流行の影響が弱まり、在宅時間が減少したことや、日本、北米、西欧、中国を中心にスマートフォンによる動画視聴との競合が強まり需要が減少したという。2024年以降は、新興国では経済成長とともに需要が微増すると見込まれるものの、引き続き世界的に映像機器の多様化が進み、とくにスマートフォンによる動画視聴との競合が強まることで、世界全体の需要は微減が見込まれ、2028年までの年平均成長率は0.4%減で推移し、2028年には2億575万台の出荷規模になると予測した。
富士キメラ総研の小林氏は、「テレビのみで視聴可能な映像コンテンツは世界的に減少しており、スマホやタブレット端末、PC など、多様な機器で視聴可能なコンテンツが世界的に増加している。テレビは、大画面といった特徴に加え、高精細や広色域などの補正技術の搭載や音声機能の強化などにより、高品質な映像体験を提唱することで、買い替えを中心とした需要維持が継続されていく」としたほか、「ミニLEDバックライトの採用など、高効率化により省エネ性能を向上させたモデルの登場に加えて、無信号自動オフ機能や無操作自動オフ機能、明るさセンサーの搭載など、省エネ機能を強化した製品が増加していく。世界的な脱炭素化により、省エネ対応もテレビを買い替える際の選択理由としての位置づけが高まる」と予測した。
日本のフラットパネルテレビの需要は、2023年には前年比10.1%減の459万2000台であったが、毎年縮小を続け、2028年には401万9000台になると予測している。、デバイスの多様化により、1家庭あたりのテレビの保有台数の減少が見込まれることを理由にあげている。
「大幅な需要減につながる要因は無いが、テレビ離れや動画配信サービス利用の増加、ディスプレイの多様化、買い替え年数の長期化、テレビ番組のリアルタイムネット同時配信の拡充により、長期的に需要減少が続く」と分析している。
4Kテレビの国内出荷は、2023年は前年比10.2%減の250万1000台であったのに対して、2028年は250万5000台と今後5年間の推移は微増だが、2028年時点での4K化率は62.3%を想定している。また、8Kテレビの国内出荷は、2023年は前年比22.7%減の1万7000台で低迷しており、5年後の2028年も1万8000台と低い水準のままで推移すると見ている。8Kテレビは、フラッグシップモデルとして販売され、高画質を志向するユーザーからの購入が見込まれるが、8Kコンテンツの不足が当面続き、2028年の8K化率は0.4%に留まる。
なお、国内におけるテレビサイズ別構成は、大型化が進展し、2023年には40.9%だった50型以上の構成比は、2028年には45.0%に拡大すると見ている。
BDは、2023年の全世界の出荷台数が前年比15.8%減の2289万台となった。そのうち、プレーヤーが前年比14.9%減の2182万台、レコーダーが31.4%減の107万台。日本では、BD全体が27.0%減の130万台、そのうちプレーヤーが24.4%減の34万台、レコーダーが27.8%減の96万台となった。この数字からもBDレコーダーの全世界出荷台数の約9割が日本での出荷であることがわかる。
2028年の出荷台数予測は、全世界では991万台と半分以下の水準に減少。そのうち、プレーヤーが948万台、レコーダーが43万台。日本では、BD全体が57万台、そのうちプレーヤーが16万台、レコーダーが41万台と予測している。
「動画配信サービスの普及により、映画やテレビ番組をはじめとした動画コンテンツの視聴方法の多様化、見逃し配信での視聴ニーズが進み、BDの需要が減少する。4Kに対応したUltra HD Blu ray(UHD BD) 規格の BD プレーヤーも出荷台数は減少することになる。日本においては、以前は、オリンピックやサッカーワールド杯などの大規模イベントが、BDレコーダーの需要を喚起したが、その傾向はなくなりつつある」と指摘した。
スピーカーサウンドシステムは、全世界の出荷台数は前年比6.5%減の1億3876万台と縮小したが、2028年までは年平均成長率は3.3%増となり、1億6295万台に達すると予測した。日本においても、2023年は12.5%減の182万台となったが、2028年は203万台に増加する。
2023年までは巣ごもり需要の一巡により出荷台数が減少したが、2024年以降は新興国を中心にスマートスピーカーの需要拡大が見込まれることや、先進国を中心に、Matter規格への対応が進むことで、家電製品の操作を目的とした買い替えが増加すると見込んでいる。
PCは、世界の出荷台数が2023年に前年比9.4%減の2億3700万台、そのうちノートPCは11.2%減の1億6500万台、デスクトップPCが4.6%減の7200万台となった。また、2028年にはPC全体で年平均成長率が0.4%増となり、2億4150万台と予測。そのうちノートPCが1億8100万台、デスクトップPCが6050万台と予測している。
国内では、2023年には前年比2.0%減の926万台、そのうちノートPCは1.9%減の706万台、デスクトップPCが2.2%減の220万台となった。また、2028年までの年平均成長率は0.4%増となっているが、2028年時点での出荷台数は873万台と縮小。ノートPCは742万台、デスクトップPCは131万台と予測した。
日本においては、2025年に大きな需要のピークが訪れると予測している点が見逃せない。
2025年は、前年比40.4%増の1351万台と大きく伸長し、2021年以来の年間1000万台超の水準に回復すると予測。そのうち、ノートPCは52.5%増の1139万台、デスクトップPCが1.4%減の212万台と、ノートPCは、前年比1.5倍に拡大すると予測した。
富士キメラ総研の小林氏は、「2028年までは、Windowsの買い替えサイクルを背景にした需要の増減が繰り返されるが、日本は、世界市場と比較し、より一層、需要増減の波が大きくなる」と前置きし、「2025年は、Windowsのサポート終了や、リモートワーク特需からの買い替えサイクルを背景とした需要増があるほか、GIGAスクール需要の買い替えによる需要増加が起こる」とする。また、「2024年がAI PC元年となり、買い替え需要の喚起においてはプラス要因になる。有機ELディスプレイ搭載による高画質化、GPUやNPUを混載したCPU を搭載し、エッジAIに対応した製品の登場など、高性能化が進展する」とも述べた。
だが、裏を返せば、2026年以降は、急激な市場縮小が始まるともいえる。2025年の1351万台に対して、2028年は873万台と、わずか3年で市場規模は3分の2にまで縮小する。2026年以降は、再び需要低迷の長いトンネルのなかに入ることが指摘されている。
タブレットは、世界の出荷台数が、2023年には前年比10.6%減の1億4300万台であったが、その後、年平均成長率は3.4%減で推移し、2028年には1億2100万台に縮小すると予測した。日本においては、2023年には前年比7.0%減の753万台となったが、2025年には、PCと同様にGIGAスクール需要が貢献することから、865万台にまで増加すると予測している。しかし、その後は減少に転じ、2028年は631万台の規模にまで縮小すると見ている。
「スマートフォンや 2in1 タイプノート型パソコンとの競合により、タブレット端末の需要は減少する。日本では、GIGA スクールの買い替え需要により、2025 年には増加することになる。2028年に向けては、タブレットへの有機EL ディスプレイの搭載が進み、2028年には全体の12.2%を占めることになる」と予測した。
IVIシステムやPNDを含むカーナビゲーションシステムは、2023年の世界需要が前年比6.1%増の3560万台となり、2028年までは年平均成長率は6.0%増で推移。4759万台に拡大する。そのうち、日本では2023年の前年比10.9%減の392万3000台であったものが、2028年には435万台に拡大すると予測している。
また、カーオーディオは、2023年の世界需要が前年比3.9%減の6408万台となり、2028年までは年平均成長率は2.4%減で推移し、5686万台に縮小する。そのうち、日本では2023年が前年比12.0%減の132万台であったものが、2028年には84万台に縮小する。
ドライブレコーダーは、2023年の世界需要が前年比3.5%増の2855万台だったものが、2028年までは年平均成長率は5.6%増で推移し、3751万台に拡大する。そのうち、日本では2023年が前年比21.9%減の350万7000台であったものが、2028年には385万台に増加すると予測した。
ドライブレコーダーは、2022年までは半導体不足による影響で需要に対して供給が不足したが、2023年は半導体不足も解消に向かい、自動車販売台数も回復基調であることから需要は増加しているという。「事故や危険運転などの証拠保全、運転手保護などの抑止力、ドライブレコーダーに対応した保険商品の拡充などがあげられる」としたほか、「AIを用いて、ドライバーの状態と周囲の状況を分析し、適切な注意喚起を行うといった用途や、ドライバーの状態を、視線やまばたきなどを捉えて、わき見や居眠りといった状況を検知するといった機能が搭載されている」とした。