ソニーグループは、2022年5月27日に開催した「2022年度事業説明会」において、エンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)分野の取り組みについて説明。ソニーグループの上席事業役員であり、ソニーの代表取締役社長兼CEOである槙公雄氏は、「人を軸として、社員が一丸となって未来を共創する目標に向かい、収益と成長の2軸の事業構造を確立するという方針のもとで経営を進める」と述べるとともに、2024年度には、成長軸事業領域から、約4分の1の営業利益を創出する経営計画を打ち出し、「経営資源を成長軸事業領域へ投下し、事業ポートフォリオをシフトしていく」とした。

  • 生まれ変わるソニーのエレクトロニクス、新しい成長の柱が見えてきた

    ソニーグループ 上席事業役員、ソニーの代表取締役社長兼CEOの槙公雄氏

BRAVIAからがん治療まで「人をつなぎ、支える」

エンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)分野には、薄型テレビ「BRAVIA」やデジタルカメラの「αシリーズ」、スマホの「Xperia」が含まれるほか、「NURO」によるネットワークサービス事業、バーチャルプロダクションなどの次世代映像制作ソリューション事業、がん治療などに関わるライフサイエンス事業なども含まれる。

  • 「エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)」から「エンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)」へ。様々な事業を担うが、すべてがつながっている

ソニーグループ全体では、ゲーム、音楽、映画分野を「人の心を動かす」事業としているのに対して、ET&S分野は、「人と人をつなぐ」事業と「人を支える」事業を担うことになる。

「ET&S分野は、クリエイターとともに感動コンテンツを作り、その感動を世界中の人に届け、楽しんでもらうためのテクノロジーとサービスを提供する。また、新たなテクノロジーを追求し、人と社会に貢献することを目指す。『感動』と『安心』を提供し続ける」と位置づけた。

2021年度までは、エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)分野と呼んでいたが、2022年度からは名称を変更。その理由を、「ソニーグループをテクノロジーで支え、クリエイターと未来のエンタテインメントを創造していく事業の方向性を、より明確にすることを目的にセグメント名称を変更した」と述べた。

2021年度のセグメント業績は、売上高が前年比13.1%増の2兆3,392億円、営業利益は851億円増の2,129億円となった。

「コロナ禍のみならず、半導体のひっ迫、物流の混乱、紛争により、極めて変化が大きなビジネス環境であったが、多くのカテゴリーでイノベーションのある製品の開発、導入ができた」とし、BRAVIA XRシリーズやLinkBudsによる新たな体験価値の創造、Xperia PRO-Iとαシリーズとの連携によるライブエンタテインメントの世界の拡充、VENICE 2による新たな映像表現の提案、VLOGCAM ZV-E10による映像クリエイターのすそ野拡大といった成果に加えて、Hawk-Eyeによるライブとバーチャルをつないだ新たなスポーツエンタテインメントの実現、細胞治療などに利用するCGX10やID7000の研究分野への導入の促進などの実績があったという。

  • コロナ禍でも新たな価値体験を提供してきた

UGC(User Generated Contents)市場の拡大に向けては、「αシリーズやRX、Xperiaを活用して、ソニーが持つ入力デバイスの強みを訴求。クリエイティビティをサポートする」とし、「出力装置はスマホを含めてコモディティ化が進むが、入力装置はそうではない。入力側をクリエイターに開放し、そこを強化していくことが他社にはない強みである」と述べた。

収益軸と成長軸の2軸で事業を推進

2022年度においては、先にも触れたように、収益軸と成長軸の2軸で事業を推進する考えを示した。収益軸事業領域は安定した利益を創出。営業利益率10%を目指す一方、成長軸での事業ポートフォリオの拡大を図り、中長期の時間軸で、事業化を検討する探索活動も継続的に実施し、持続的成長を実現するという。また、成長軸事業は、現在の主力となっている収益軸事業を上回る収益性を目指していることも示した。

  • 収益軸と成長軸の2軸で事業を推進する

収益軸事業領域には、テレビやデジタルカメラ、スマートフォンなどが含まれ、ここでは、いままでの戦略を踏襲しながらも、徹底的な商品力強化と、オペレーションの強化に取り組むという。

「商品力強化では、クリエイターとともに作りあげた各カテゴリーの独自技術による高付加価値路線をさらに進化。他社との協業によるアプリケーション強化や、商品カテゴリーの連携を進めて、新たな顧客価値を創出していく。高付加価値路線を推進し、市場での優位性を発揮したい」と述べたほか、「オペレーション強化では、生産から販売までの一貫したデータ連携やDX化により、リーンなオペレーションに進化させる」とした。さらに、「テレビ生産の自動化、リモート化を進め、自社の製造事業所においては、2022年度に自動化率50%を目指し、テレビで培った生産技術をほかの製品カテゴリーにも展開する。販売面ではデータをフル活用したデジタルマーケティングと、DTC(Direct to Consummer)サービスの強化、リカーリングビジネスの強化を進める」とした。

事業ごとに個別視点で展開してきた考え方を見直すことで、さらなる固定費削減につながるとみており、マレーシアのオーディオ工場とテレビ工場の統合も全体視点での判断のひとつとした。オペレーションの標準化や、ITシステムの統合、データの統合などにも取り組むという。また、部品の標準化や、ソニーグループとしての共同調達などにより、部品不足や原材料価格の高騰などに対応していくことになる。

  • 収益軸事業領域の重点施策

一方、成長軸事業領域においては、それぞれの事業の観点から説明した。

バーチャルプロダクション事業およびメディアクラウド事業で構成する次世代映像制作ソリューションでは、社内外のパートナーとともに、クリエイターに新たな価値を提供するリカーリングソリューションビジネスを展開。さらに、コンシューマ領域にもすそ野を拡大していくという。

バーチャルプロダクション事業では、入力側のソニー独自のプリビジュアライゼーションや、シネマカメラのVENICEに代表されるプロフェッショナルカメラ、αシリーズなどの撮影機材、リアリティを忠実に再現するCrystal LEDとの技術連携、グループ内の様々なクリエイターとの協業、EPIC Gamesとの連携、NevionによるポストプロダクションへのIP伝送などの取り組みにより、映画制作だけでなく、様々なコンテンツのバーチャル空間での制作提案を行うという。

メディアクラウド事業では、ソニーが持つ映像機材と通信技術などをクラウド化したサービスと融合。映像クリエイターを対象に、編集、配信をリアルタイムで可能にする制作ツールをクラウド上で提供する。5G通信を活用したリモートでのコンテンツ編集、高速転送も可能になる。「クリエイターとともに、新たな映像制作ソリューションを共創し、すそ野を広げ、多くの感動の創造を支援する」と述べている。

  • 新たな映像表現をクリエイターと共創

新たな成長分野に位置づけたのが、カメラSDK (ソフトウェア開発キット) 事業である。2024年度までの売上成長率は、年平均55%増としている。

「αシリーズの小型、軽量、高精細、高感度、高速撮像といった性能を活かし、新たな映像表現を創造したいというクリエイターからの要望、ドローンを使った上空からの撮影、eコマースや3DモデリングといったBtoB領域での活用への要望が年々増加しており、カメラを独自サービスやシステムに組み込みたい顧客に対して、撮影機材を開放するソフトウェアを提供する事業になる」とする。

今後は、サービスの提供範囲をカメラカテゴリーに留めるのではなく、BRAVIAやLinkBuds、空間再現ディスプレイなどのカテゴリーやコンシューマ向けにも展開し、事業を拡大していくという。

  • 新たな成長分野に位置づけたカメラSDK事業

スポーツ事業は、ライブとバーチャルをつないだ新たなスポーツエンタテインメントの実現を目指すもので、2024年度までの売上高は年平均成長率25%を見込んでいる。Hawk-Eyeによる判定支援での利用だけでなく、リアルの映像をもとに忠実に再現したバーチャルコンテンツにより、新たなユーザー体験の創造や、取得したデータの商用化にも取り組むという。さらに、スポーツリーグやチームとの協業により、スポーツコミュニティ向けのファンエンゲージメントにも取り組む。すでに、英サッカーチームのマンチェスター・シティFCとのパートナーシップによるバーチャルファンエンゲージメントの実証実験にも取り組んでいる。

  • ライブとバーチャルをつないだ新たなスポーツエンタテインメントの実現を目指す

一方、ライフサイエンス事業では、「生命科学領域にイノベーションを起こし、持続可能な社会の実現に貢献することを目指している」と語る。ブルーレイディスクなどで培った微細加工、光学レーザー技術、信号処理解析技術などのコアテクノロジーを活用し、専任オペレータを必要としないフローサイトメーターを開発。細胞研究のすそ野を大きく広げ、ワールドワイドでのシェアを拡大しているという。「世界最高レベルの解析能力を持つ装置を開発。世界トップレベルの大学や研究機関に導入され、1,000機関以上が活用して、がんや免疫のメカニズム解明などに役立てられている。第4のがん治療と呼ばれる免疫細胞治療の革新に貢献したい」と述べた。ライフサイエンス事業の2024年度までの年平均成長率は25%増を見込んでいる。

  • 微細加工、光学レーザー技術、信号処理解析技術などのコアテクノロジーをライフサイエンスに活用

ネットワークサービス事業は、NUROブランドでの展開を進めている。2021年度には、光回線で100万件の契約を達成。顧客満足度調査でも高い評価を獲得。「コロナ禍におけるオンラインコンテンツ需要の急増や、リモートワークの定着といった動きのなかで、高品質な通信回線の提供により、個人ユーザーだけでなく、法人ユーザーの会員数増加がみられている。今後はサービス提供地域を広げ、より多くのユーザーに高品質の通信インフラを提供していく」と述べた。NURO会員基盤の拡大、ARPU向上に向けた取り組みを推進するほか、ソニーグループ内の連携を深め、スマートライフサービスも提供。パートナーとの連携や多角的なサービス提供などにより、安心や利便性を提案するという。NUROの累計会員数は、年平均成長率で30%を見込んでいる。

  • NUROの会員数は順調に伸びている

成長軸事業領域では、2024年度には、営業利益の約4分の1の創出する計画を示しており、「成長軸事業領域では、ネットワークサービス事業が大きな構成を占めているが、2022年度はそれを追いかけるようにカメラSDK事業が高い成長を遂げることになる。カメラSDK事業は、αの高いシェアに支えられるとともに、利益水準が高い事業でもある。成長の柱として大切な事業になる。また、2024年度に向けてはスポーツエンタテインメント事業が成長の可能性を秘めている。成長軸事業領域はリカーリングビジネスが多く、外部環境の変化にも強い、安定した収益基盤の確保にもつながる」とした。

多様性を重視し、感動を分かち合える未来

一方で、サステナビリティへの取り組みについても言及した。

  • ダイバーシティ、特に国内ではジェンダーダイバーシティへの取り組みを加速するという

環境負荷ゼロに向けて、ソニーグループが独自開発した再生プラスチックの採用を拡大するほか、小型製品包装材でのプラスチック使用の全廃、太陽光パネルの設置などを国内外の事業所で推進し、再生可能エネルギーの使用率を拡大。2023年度中にはET&S分野のすべての事業所、オフィスで、100%再生可能エネルギーに切り替えるという。

アクセシビリティの観点では、インクルーシブデザインを導入した製品およびサービスを拡大し、感動と安心を提供するという。「LinkBudsは、マイクロソフトとの協業により、音声ナビゲーションによる自然な街歩き体験を実現することができる。テクノロジーによって、インクルーシブ社会への貢献していく」と述べた。

また、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンでは、多様性を重視し、国内ではジェンダーダイバーシティへの取り組みを加速。「多様性から生まれる意見を尊重し、失敗を恐れずチャレンジする企業文化を醸成する。人を取り巻く制約をテクノロジーで超えることに取り組み、ソニーを通じて、すべての人が感動を分かち合える未来を共創したい」と述べた。