オンラインショッピングは今や生活にすっかり根付いており、個人でもネットショップを運営しやすい環境になってきました。ですがそれに伴い、ネットショップを巡るトラブルも増えてきています。

当コラム第6回では、「子どもが親に黙ってネットで商品を購入してした」ケースを例に、ネットショップの利用者側の視点から、未成年者が親になりすまして注文した場合、その注文を取り消せるかについて考えました。

今回は、ネットショップの運営者側の観点から、本人になりすまされた場合や、商品を送ったのに「注文していない」とキャンセルされた場合、ショップ運営者が代金を回収できるかどうかについて考えていくことにします。この場合、申込みや本人確認などの方式についての「事前合意」の有無と有効性がポイントとなります。(編集部)


【Q】商品を送ったのに「注文してない」との返事、代金回収できる?

インターネットで一般個人を相手に会員制のオンラインショッピングを運営しています。先日、ある顧客の名義で注文が入ったため、商品を指定の場所に郵送し、その顧客に代金を請求しました。ところがその顧客は「注文した覚えはない。おそらく第三者が自分になりすまして注文したのではないか」と言って、代金を支払ってくれません。今回の注文に用いられたIDとパスワードは、その顧客本人のものに間違いなく、代金を請求したいのですが無理でしょうか。


【A】本人確認の方法に関する「事前合意」がポイントになります。

ご相談の事例では、まず申込みや本人確認などの方式についての事前合意の有無と有効性が問題となります。仮に事前合意がないか、または後述のように事前合意の効力が認められないような場合には、例外的場合を除き、売主は顧客に対し代金を請求することはできません。他方、事前合意が完全に有効と判断される場合には、事前に合意された方式により申込や本人確認などが行われていることを条件に、原則として、売主は顧客に対し、当該合意内容に従った責任を追及することができます。


ネット上の「なりすまし」の問題

インターネット上のオンラインショッピングのような非対面取引では、第三者が本人(顧客)であるかのように装い、本人の名義で商品を購入し、代金の支払いを不正に免れる「なりすまし」が、たびたび問題となっています。

一方、実際に本人自身が注文しておきながら、後で都合が悪くなると「自分は注文していない」と嘘をついて責任を免れようとする「事後否認」が問題となる場合もあります。

今回のケースがどちらに当たるのかは不明ですが、売主(相談者)がこうした本人に対し、代金請求または何らかの責任追及を行うことができるかがポイントとなります。

申込や本人確認の方式についての事前合意

会員制のオンラインショッピングでは、会員登録時に締結する会員契約などの中に、あらかじめ申込みや本人確認などの方式が定められていることが普通です。

さらに同契約などでは、定められた方式に基づいて申込みや本人確認が行われていれば、仮に無権限の第三者が本人を装って注文した場合であっても、本人が責任を負うというような条項が盛り込まれているケースが一般的です。

ご相談の事例のようなIDとパスワードという方法は、本人確認のためによくネット上で利用されている方式といえます。

合意の効力

では会員契約などによって、外形上このような事前の合意が存在していれば、たとえ「なりすまし」が行われた場合であっても、常に売主は本人に対し、代金請求又は何らかの責任追及を行うことができるのでしょうか。この場合、「合意の効力」が問題となります。

この点について、経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(平成20年8月)21頁では、以下のように述べられています。

売主側が提供するシステムのセキュリティの安全性の程度について相手方が認識しないまま事前合意がなされた場合において、当該相手方が通常合理的に期待する安全性よりもセキュリティレベルが相当程度低いときは、事前合意の効力が制限される可能性がある

上記準則の基準によれば、本件においても、相談者のオンラインショップのパスワード管理がずさんであるなどセキュリティレベルが相当程度低いときは、事前合意があった場合でも、その条項そのものが無効かどうかはともかくとしても、それを適用することによって会員に責任を負わせることはできないことになります。

次に、相談の事例の顧客は事業者ではなく、一般消費者であると思われますが、上記準則同頁では、以下のように述べられています。

一方当事者が消費者の場合には、選択された方式の合理性・安全性について十分な判断ができないおそれがあること、方法について事業者が一方的に指定し、消費者の側に選択の自由がないのが通常であると考えられることから、消費者側の帰責事由の有無を問わず一律に消費者本人に対する効果帰属を認めるような事前合意は、消費者契約法第10条や民法第90条により無効となる可能性がある

本件でも、事前合意がこのような内容のものであるときは、無効とされてしまう可能性があることに注意すべきです。

事前合意が無効の場合

事前合意が無効と判断される場合には、原則として、売主は本人に対し代金を請求することはできません。

しかし、いかなる場合であってもこのような結論しか認めないとすると、本人であると信じた売主があまりにもかわいそうといえる場合もあります。

そこで、(1)本人であるかのごとき外観が存在し、(2)売主が本人であると過失なく信じ、(3)本人がなりすましを行った第三者に対し何らかの代理権を授与し、または、これに相当するような(1)の外観作出についての本人の帰責性がある場合(※)には、民法上の表見代理規定(民法第109条、110条、112条)を類推適用することによって、例外的に、なりすまされた本人に代金を請求する余地があると考えられます。

※ 例えば、顧客が自分のID及びパスワードを周囲の者に教えており、第三者がいつでも顧客本人になりすましてオンラインショッピングを行うことができる状況を作り出していた場合などが考えられます

なお、表見代理とは、無権限者が本人の代理人であると勝手に名乗って取引を行ったような場合に、一定の条件の下、本人に責任を負わせる法理です。

しかし、代理人であるとは名乗らずに直接本人であると名乗って取引を行おうとした場合でも、表見代理の考え方は妥当し、本人であると信じた取引の相手方は保護され得ると考えられます(最高裁昭和44年12月29日判決参照)。

事前合意が有効な場合

事前合意が完全に有効と判断される場合には、事前に合意された方式により申込みや本人確認などが行われていることを条件に、原則として、売主は本人に対し、当該合意内容に従った責任を追及することができると考えられます。

また、本人が代金支払義務を負うとされた場合には、本人は「なりすまし」を行った者に対し、損害賠償請求(民法第709条)を行うことになろうかと思われます。

相談事例

ご相談の事例の場合には、まず前述のような「事前合意の有無及び有効性」が問題となります。

仮に事前合意がないか、または、前述のように事前合意の効力が認められないような場合には、原則として、売主は顧客に対し代金を請求することはできません。しかし、前述の要件を満たせば、例外的に、顧客に対し代金の請求をする余地があると考えられます。

他方、事前合意が完全に有効と判断される場合には、事前に合意された方式により申込みや本人確認などが行われていることを条件に、原則として、売主は本人に対し、当該合意内容に従った責任を追及することができます

終わりに

なお、オンラインショップ側としては、このようなトラブルが生じることを事前に防止するために、決済方法として着払いや商品発送前の代金振り込みなどの方法を採ることが、オンラインショップの円滑な運営という観点からも、重要といえるでしょう。

(村田充章/英知法律事務所)

弁護士法人 英知法律事務所

情報ネットワーク、情報セキュリティ、内部統制など新しい分野の法律問題に関するエキスパートとして、会社法、損害賠償法など伝統的な法律分野との融合を目指し、企業法務に特化した業務を展開している弁護士法人。大阪の西天満と東京の神谷町に事務所を開設している。 同事務所のURLはこちら→ http://www.law.co.jp/